第321話 川に面した方の町の軍略面での目的は?
「アルマは農地の中の町が良いと思うのかな?」
ウィリアムが言う。
「ええ、だって明らかに農地の中の町の方が私達にメリットがあります。」
「ふむ・・・ではタケオさん、今度は違う角度で説明してもらいます。
エルヴィス家もしくは3伯爵領側の視点として、川の町を推す理由はなんでしょうか?」
ウィリアムが聞いてくる。
「・・・わかっているならウィリアムさんが説明されては?」
「はは、僕もタケオさんから説明して欲しい1人です。」
ウィリアムが苦笑しながら言う。
「まぁ・・・自分でわかっている事でも他人が説明することで確信を強めることはありますけど・・・
はぁ・・・わかりました。
私が川に面した町を推す理由は物流拠点だけではありません。
確かに物流が良くなれば移動の時間を減らせるので、経済の発展が見込めます。
さらに兵士の移動コストや兵士の疲労を軽減させるというのもありますが、今後の3伯爵とウィリアムさんの関係が大きく影響すると考えました。」
「3伯爵が?」
「はい。
えーっと・・・アリスお嬢様の童話に出てくる魔王国との戦争は3伯爵が集まって相対するとありました。
その際の総大将は誰が務めたのですか?」
「ゴドウィン伯爵が辺境伯爵という特別職に任命され総大将をしました。」
レイラが言う。
「そうですか。
今後3伯爵の後ろにウィリアムさんが異動してくることを考えると総大将はウィリアムさんになります。」
「そうですね。」
ウィリアムが頷く。
「今までは3伯爵が一応合議の上で魔王国への戦略を考え実施していたのを、今度はウィリアムさんの考えを基に戦略を考えることになります。」
「んー・・・?
でも結局は3伯爵の合議をウィリアムが裁可する運びになるのでしょう?
何が違うのですか?」
「今は3伯爵が各々魔王国に対しての戦略を考え『うちの領内はこう動くから』もしくは『こうやりたいから協力して欲しい』と通達するだけで良かったのですが、これからはウィリアムさんの考えを基に動き出さないといけません。
特に緊急時の対応方法が変わると考えます。
例えば魔王国との関はエルヴィス領とゴドウィン領にあるそうですが、エルヴィス領の関で異変があった場合、エルヴィス軍はすぐに関に集結します。
で、エルヴィスさんは隣のゴドウィン伯爵にも情報は送るでしょうが、直接の応援を呼べなくなります。」
「え?出来ないのですか?」
アリスが驚く。
「組織上、いきなり隣の同格の伯爵に応援は呼べなくなるのではないでしょうか。
総大将であるウィリアムさん経由でゴドウィン伯爵やテンプル伯爵に応援を依頼しないといけなくなるでしょう。
それに魔王国絡みの王都への報告も、それまでは各々がしていた物を一旦ウィリアムさんに報告し、ウィリアムさんが王都に報告を上げる運びになるはずです。」
「え?そうなの?
勝手にしてはダメなの?」
アルマが聞いてくる。
「何のための総大将なのです?
経済的な事なら各伯爵と王都でやり取りをするでしょうが、こと軍事面においてはウィリアムさんの下に3伯爵が位置づけされるはずです。
総大将の意思を汲んで動くのが部下です。
それに各伯爵は自領の危機に対応しますが、今後はウィリアムさんの安全を守る義務も発生します。
極端に言えば、陛下よりもウィリアムさんの命の方が優先順位が高くなることもあり得ます。
今までだったら王都で事変があったらすぐに3伯爵軍は王都に集結したでしょうが、これからは一旦、ウィリアムさんの所に集結し、ウィリアムさんを警護しながら一緒に王都に向かう運びになるでしょう。」
「そうですね。」
ウィリアムが頷く。
「結果的に指揮命令系統が変わるので、魔王国の侵攻や王都での異変に対応する時間が今まで以上にかかってしまうのです。
なので、一番必要なことは移動時間、意思伝達時間をどれだけ短縮できるかです。
私の中では陸路よりも水路を利用する方が大量の兵士を輸送するのに便利だと考えました。
そして、意思の伝達も早く行えるだろうとも。
なのでウィリアムさん達には苦労をかけてしまいますが、川に面した町に移動してもらい波止場の整備を最優先で実施してもらいます。
そしてウィリアムさん達が波止場の整備をすれば3伯爵たちが自領の波止場の整備に乗り出します。
そうすることでこの川の治水も含めた整備を3伯爵およびウィリアムさんで数年かけてでも終わらせられるでしょうね。」
「なるほどね。」
アルマが頷く。
「追加で言うのであれば、王立研究所の試験小隊の指揮権についてですが。」
「はい」
アルマが返事をする。
「試験小隊の指揮権は基本、研究所所長にあるのですよね?」
「でしょうね。指揮権や運営の全責任があります。」
「そうですか。
・・・在籍している貴族領の事変には参戦の判断権と、他国に面している貴族領もしくは国内で事変に見舞われた際には、在籍している領主の周辺総大将指揮下への参入とその判断権を研究所の運営条件に入れたいですね。」
「どうしてですか?」
「いや・・・ふと思ったのですが、王立研究所は陛下の直下機関で王都の王家の者が指揮官なのです。
そうすると地方で事変があった場合に意地悪な話、王都の判断で所属領を見放してでも王都に集結をしないといけない義務が生じてしまいます。」
「あ・・・そうね。それでは地方にいる意味がなくなってしまうわね。」
「はい。」
「・・・タケオさんの考えはわかりました。
先の農地の中の町か川に面した町かについては、あとは僕達で判断します。
それに試験小隊の命令系統については、父上に相談してみます。」
「はい、よろしくお願いします。」
武雄はウィリアムに礼をする。
「では、午前はこの程度で良いでしょう。
夕方の武官、文官の面接の際に人となりを見て決めますが、ダメだったら明日、もう一度タケオさん達に意見を聞きます。
タケオさん達は午後は何をされますか?」
ウィリアムが聞いてくる。
「そうですね・・・
レイラさんにお願いした魔法師専門学院と寄宿舎の面会の予約がいつになるかわかりませんが、
そちらが予約が取れたらそちらに、まだなら私は王都内のお店巡りをしたいと思います。」
「ん?昨日レイラから言われていましたが、まだエルヴィス領の仕立て屋の店長さん達は来ていませんが?」
「あ、そっちではなくてですね。
干物屋とかいろいろ見てみたいのです。」
「なるほど、干物屋ですか・・・タケオさんらしいですね。
レイラ、同行してください。
アリスも行くのでしょうから、タケオさんとアリスが居ればレイラも外に出て良いでしょう。
面白そうな食材や物があったらうちの経費で買って良いです。」
「わかったわ、ウィリアム。」
レイラが頷く。
「ウィリアム、私は?」
アルマが聞いてくる。
「義姉上達の相手をよろしく。」
「わかったわ。」
アルマが頷く。
「では、タケオさん、アリス、レイラが迎えに行くまで部屋でのんびりしていてください。」
「「わかりました。」」
武雄達は席を立ち「失礼します」と挨拶をして執務室を後にするのだった。
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