第320話 じゃあ。農業地域はどのような利点が?
「なるほど。
では、農地の中の町での優位性はありますか?」
ウィリアムが武雄に聞く。
「広大な農地と専売局の工業がある平地となりますね。
今ある農業を拡大させ、新たに作る工業を発展させるのです。
なので、自領のみの発展を考えれば、明らかにこちらの方が良いでしょうね。」
「・・・それだけですか?」
アルマが聞いてくる。
「はい、それだけですね。
物流を活性化させたりしませんので、急速な発展はしません。
物流網も馬車を使っての王都、エルヴィス領、ゴドウィン領、テンプル領への従来の方法で行えます。
わざわざ小型運搬船のような新しい技術を作る必要もありません。
既存の技術を使って着実な発展をしていきます。
リスクが少ない・・・これがこの農地の中の町のメリットです。」
「んー・・・2つの説明を聞くと明らかに農地を中心とした町の発展を簡潔にしか説明していません。
タケオさんは川に面した方の町を推すのですか?なぜですか?」
レイラが聞いてくる。
「・・・随分と核心を突いてきますね。」
「ふふ、私を侮ってはダメですよ?」
レイラが苦笑する。
「別に侮ってもいませんし隠すつもりもありませんが、聞かれないなら別に良いかなぁ程度です。
・・・確かに私は川の方がメリットが高いと強調して説明しました。
個人的には川の方を推させてもらいます。」
「それはなぜです?」
アルマが聞いてくる。
「私がエルヴィス家所属だからです。」
「「え?」」
アルマとアリスが驚く。
「・・・ちょっと待ってください。
なんでアリスお嬢様が驚いて、レイラさんが驚かないのですか?」
武雄がレイラに聞き返す。
「いえ・・・そうじゃないかなぁと私は思っていたので驚きは大したことはないです。
むしろアリスが驚いている事に私は驚きますが。」
レイラがアリスを見ながら言う。
「・・・なんでレイラお姉様は驚かれないのですか?
今はレイラお姉様達の領地の話なのですからうちの領地の事は考えなくても良いと思っていました。」
アリスが口を尖らせて言う。
「はぁ・・・僕も大して驚きはしなかったですが、アルマが驚いているのが不思議ですね。」
ウィリアムは、ため息交じりに言う。
「え!?ウィリアムもなんで驚かないの?
だってこれは私達の領地の発展を考えた会議でしょう?」
アルマがウィリアムに食って掛かる。
「はぁ・・・アルマ、僕たちは王都生活が長いからその辺の事がわからなくなってもしょうがないですけどね。
クリフ兄上、ニール兄上の周りの貴族がどうなっているか知っているでしょう?」
「え?賄賂を贈っていること?」
「賄賂?」
アルマの爆弾発言に武雄が聞く。
「あぁ・・・もう・・・アルマ・・・それはタケオさん達の前では言ってはいけないですよ?
・・・タケオさん、賄賂については後日、説明します。」
「ええ・・・ですが、別に聞きたくないので結構です。」
「そうですか。まぁ機会があったら言いますので。」
「はい、わかりました。」
「アルマ、兄上達の周りは確かに賄賂を渡していますが、根本は違います。
自分達に有利になるように物事を進めるという手段として賄賂という手段を使っているだけです。
ですので、エルヴィス家に所属するタケオさんが川に面した町を推すのならば、そこには意図が含まれます。
他家の者に意見を求めるならば、何かしら意図が含まれることも頭に入れて聞くべきなのです。」
「はぁ・・・」
アルマはウィリアムの言葉に生返事をするのだった。
「ではタケオさん。
今度は私達第3皇子一家の家臣だったとして再び2つの町を比べた際の意見を言ってみてください。」
レイラが苦笑しながら言ってくる。
「・・・では、直臣であったとしたら推す方を言います。
それは農地の中の町の方に住まわれた方が良いでしょう。」
「え?タケオ様、なんでそう思うのですか?」
武雄が真反対の意見を言ったのでアリスが驚く。
「端的に言えば事務方の問題です。」
「事務方?」
アルマが聞いてくる。
「王都の文官、武官を幹部に連れて行くという方針があると先ほどウィリアムさんから説明を受けましたが、波止場の運営に関しての知識が未知数です。
そしてこの王都の周りは川や海がありません。
ですから、周りが農地と工業地に囲まれた方がやりやすく対処の仕方がわかっています。
また、先ほども言いましたが、既存の技術で対応が可能な為、あまり労せずして事前の準備が可能です。
それに3伯爵領が魔王国と面している為、基本的には自領の発展を考えるだけが本来の仕事になります。
魔王国との戦争への参加もするのでしょうが、基本的には最後方での指揮でしょうから兵士を厳しく育てる必要もありませんし、兵士の輸送も本気で考える必要もありません。
なので、農地の中の町の方に住まわれた方が良いと考えます。」
「・・・それだけではないですよね?」
レイラが聞いてくる。
「はぁ・・・そこまでわかっているなら聞かなくても良いのではないですか?」
「ふふ、タケオさんから言ってほしいのです。」
「では・・・
川に面した町には最大のデメリットがあります。」
「それはなんでしょうか?」
アルマが聞いてくる。
「大雨によって川が氾濫する恐れがあります。
なので、川に面した町を選ばれる際には河川の治水工事をする必要があります。
これには費用と工事期間が長期間になるというデメリットがありますが、メリットもあります。
氾濫が抑えられるとその周辺の農地が開墾できるようになるのです。
豊富な水を供給できるように治水工事をすればそれだけで農地に適した面積が増えるのです。」
「なるほど。」
「ですが、治水工事は何年にもわたる工事になる可能性がある為、いきなり農地が増える訳ではありません。
なので、領地に異動した後、数年は慣れない物流拠点の管理や専売の工場の警備と河川の治水工事と慌ただしく過ごさないといけません。
なので、直臣としてなら川に面した方はやめてほしいですね。」
「んー・・・その説明を聞くと農地の中の町の方が良いわね。」
アルマが頷くのだった。
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