第317話 レイラ達の執務室で昨日の報告。
朝食後、アリスはエルヴィス爺さんに武雄のミドルネームの事とさっき武雄と話したレシピの事を手紙に書き緊急伝文で送った。
そして少し経ってからレイラが武雄とアリスを迎えに来たので皆でレイラ達の執務室に向かったのだった。
執務室の扉をレイラがノックし、中から「どうぞ。」と許可が下りるのを確認し扉を開け入室する。
中にはウィリアムとアルマが居た。
執務室内は壁から扉に向かってウィリアムの机があり、その両サイドにコを扉に向けたようにアルマとレイラの机が配置されていた。
また、簡易的な2人掛けソファも対面で置かれている。
「やっときてくれた。」
レイラ達の執務室内に入るとアルマが声をかけてくる。
「皆さん、おはようございます。
タケオさん、彼女が僕の正室です。」
「あ・・・自己紹介がまだでしたね。
私は第3皇子ウィリアムの正室アルマ・エリス・テンプルです。
アルマとお呼びください。」
「私はタケオ・キタミザトと言います。
タケオとお呼びください、アルマ殿下。」
「ウィリアムもレイラも『さん』付けなのですから私にも『さん』付けで良いですよ。」
「わかりました、アルマさん。」
「うんうん、良いわ!
『さん』付けも悪くないわね。
ミア殿、アリス、おはよう。」
「おはようございます。」
「ウィリアム殿下、アルマお姉様、おはようございます。」
アリスが礼をする。
「?・・・アリスお嬢様がアルマさんに『お姉様』?」
武雄が不思議がる。
「あら?アリス、アルマお姉様の事は言ってないの?」
レイラが不思議がる。
「どうやって伝えろと?
昨日まで皆さまが王家であることも隠していたのに言えるわけないでしょう?」
アリスがレイラにジト目で抗議する。
「あぁ・・・そうだったわね。
タケオさん、魔王国に隣接する3伯爵は昔から良く会っていたのよ。
良くと言っても年に数回ですけど。
なので上から順にアルマお姉様、ジェシーお姉様、私、アリス、スミスと姉弟呼びをしています。
それに王家の妃や子供たちは年齢順に妃とは言わずに『お姉様』と呼んでいます。」
「そうなのですね。
まぁ・・・よくわからないですが、わかりました。」
「ええ。タケオさんが『お姉様』呼びはしなくて良いから聞き流して貰って良いわよ。」
レイラがクスクス笑う。
「それとアルマさん、クゥです。」
「きゅ。」
「こんにちは、はじめまして、クゥ殿。
ウィリアムの妻のアルマです。」
「きゅ。」
「さてと、挨拶は終わったね。
タケオさん、アリス、まずは今朝の報告からします。
あ、タケオさんの出自や戦闘の経緯、小銃の話についてはアルマにも今朝伝えたので問題はありません。
他の第1、第2皇子一家は公式の出自で通していますし、カトランダ帝国に行く本当の意味も話していません。ただ単にカトランダ帝国に行って視察するとしか言っていませんので間違えないようにお願いします。」
「ウィリアムで・・・さん、ありがとうございます。」
「ふふ、タケオさん構いませんよ。
さて、タケオさんやアリス達は横のソファに座ってくれるかな?
少し歪だけどこの執務室では声を張ることもないですからそれで良いでしょう。」
ウィリアムが苦笑しながら言う。
「すみません。
では、アリスお嬢様。」
「はい、失礼します。」
と武雄達一行が座るとウィリアムが説明を始める。
「父上と第3皇子一家で朝食の前に話し合いをしました。
それは先のオーガとゴブリン軍との戦闘のあとエルヴィス伯爵から来た『敵が転移魔法を使った』という情報がミア殿からの情報であるという事とゴブリン達が妖精に何かしらの魔法をかけて追従するようにされていた事の取り扱い方法です。」
「はい。」
武雄は頷く。
「あ、最初に伝えないといけませんね。
妖精のミア殿、ドラゴンのクゥ殿には一切の手出しはしないように昨日付けで父上から王城にいる全武官、文官に通達が出されています。また今日の朝の段階で貴族にも通達されました。
なので王城内ではミア殿とクゥ殿が危害を加えられる恐れは少なくなったと言えます。
万が一、危害を加える者が居た場合、王都守備隊が制裁に行きます。
ミア殿、クゥ殿、普通にしていれば誰も手出しはしないようにしましたので安心してください。」
「わかりました。」
「きゅ。」
ミアとクゥが頷く。
「ウィリアムさん、ありがとうございます。」
武雄も礼をする。
「ミア、クゥ、対応はしてもらいましたけど、2人とも悪戯をすると討伐されますからね?
皆に迷惑が掛からないように過ごさないといけませんよ?
どこかに行きたい場合は、私かアリスお嬢様と行きましょうね。
勝手にどこかにフラフラしてはダメですからね?」
「わかりました、主。」
「きゅ。」
武雄の言葉に2人とも頷く。
「・・・話には聞いていたけど本当に意思疎通ができるのね。」
アルマが感心して呟く。
「クゥも人間の言葉は理解していますので問題ないです。」
「きゅ。」
「わかるよ~とのことです。」
クゥの言葉をミアが訳す。
「そう、わかったわ。」
アルマが頷く。
「話を戻しましょうか。
で、転移魔法と魔物の誘導に妖精が使われた件ですが。
第1皇子クリフ兄上と第2皇子ニール兄上のみに伝えることになりました。
その妃や子供たちには伏せる形で王家一同は転移魔法に対しては室内の家具の配置でとりあえず対応します。
また、オーガ等の誘導による突撃は今後も同様な事が予想される事も伝えられましたが・・・これと言って対応策がある訳でもないので、伝えたのみになります。」
「わかりました。」
武雄が頷く。
「次は、昨日の件についてですが・・・
タケオさん、今回の王城の門での戦闘とふざけた慣例はすみませんでした。
王家を代表して謝罪致します。」
ウィリアムが頭を下げる。とアルマとレイラも頭を下げる。
「え!?」
アリスが驚く。王家の者が頭を新人の貴族に下げるのが信じられない様子だ。
「・・・ウィリアムさん、いえウィリアム殿下。申し訳ありませんが、その謝罪は今は受け取れません。」
武雄が少し真顔で回答する。
「ちょ!!タケオ様!?」
アリスがアワアワしだす。
第3皇子夫妻が頭を上げる。
「ふふ、やっぱりタケオさんね。
普通は自分の考えとは違っても受け取る物よ。」
レイラが苦笑する。
「あぁ・・・ウィリアムとレイラから言われていたけどタケオさんは特殊ね。」
アルマも苦笑する。
「では、タケオさんの考えを聞きましょうか。」
ウィリアムも苦笑しながら聞いてくる。
「え?お三方が苦笑している??なぜ?」
アリスが聞いてくる。
「いや、普通ならアリスの驚きの方が普通なのだけどね。
ほら、タケオさんは普通じゃないから。
こういう事も考えられるねと言っていたのよ。」
レイラが苦笑する。
「うぅ・・・本当にすみません。」
アリスが謝る。
「良いのよ。
で、タケオさんは、どう考えていますか?」
アルマが聞いてくる。
「1つ目の王城の門での戦闘と第2騎士団との戦闘ですけど。
あれは歓迎式典でしょう?
何か謝られることはありましたか?」
「「「は!?」」」
第3皇子夫妻が驚く。
「むしろ謝るとしたら私達の方ですよね。
全く・・・いきなり歓迎式典をされてもねぇ・・・
田舎者ゆえ驚いてしまって、全力で対処してしまいました。
ね、アリスお嬢様。」
「・・・タケオ様の言う通りです。お恥ずかしい限りですね。」
武雄とアリスは苦笑する。
「・・・タケオさん、良いの?」
レイラが聞いてくる。
「良いも何も式典の内容に悪い事など一個もなかったと思いますが。」
武雄が普通に返す。
「はぁ・・・わかりました。父上にはそう伝えます。」
「ええ、大盛り上がりでしたね。」
ウィリアムのため息に武雄は返答する。
「では、悪しき慣例については、どう思っていますか?」
アルマが再度聞いてくる。
「現状では平民である従者が皆一様に受ける王城の慣例を私だからといって謝罪をされるのも変だと思うのですが?」
「あぁ・・・やはりそこですね。」
アルマがガックリとする。
「この件については昨日も言いましたが、現在調査中です。」
「わかりました。
この慣例が今後も続くのであれば私は順当に慣例を受けただけですので問題とは思っていません。
調査の結果を聞いてから判断します。」
「はぁ・・・ではそちらも父上にそう伝えます。
何かしらの結果が出たら教えますね。」
「わかりました。」
武雄は頷く。
「・・・本当にタケオさんは独特ですね。
僕からの謝罪を受けないなんて・・・貴族でも普通は王家の謝罪は無条件に受け入れますよ?」
「そうなのですか。
でも今の所、そもそも王家の方から謝罪を受けることをされていませんからね・・・」
武雄は「んー・・・」と考える素振りをする。
「昨日、レイラさんも言われたのですけど。
身に覚えのないことで謝られるのは気持ちが良い物ではないのでしょう?」
「う・・・ここで私の言葉を出しますか・・・」
レイラが苦笑する。
「なので、今の所は謝罪は不要です。」
「わかりました。早々に結果が出ると思いますから待っていてください。」
「はい。」
武雄はウィリアムの言葉に頷くのだった。
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