第30話 夕飯後の報告会。
夕飯後、客間にエルヴィス爺さん、アリス、スミスと武雄が移動する。
フレデリックが食後のお茶を入れ、皆の前に置き、皆から少し後ろに下がる。
「うむ。では、アリスから今日のタケオの報告でもしてもらおうかの。」
「え?私からですか?タケオ様本人からされては?」
「うむ。タケオはどう思うのじゃ?」
「アリスお嬢様は私の上司です。雇い主に報告する様求められていますよね?
私が求められてもいないのに雇い主に直接報告するのは、ちょっと今は違うかと。」
「うむ。その通りじゃの。
わしはアリスから報告して欲しいのじゃ。」
「はぁ。では私から今日の報告をします。
まずは、魔法具商店から。」
渋々、アリスは報告を始める。
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「ということがありまして、残りのメガネは後日取りに行くことになりました。」
「うむ・・・そうかの。
それにしても変な系統だの。すべてが平均とは。」
「はい、お爺さまの言う通り変です。ですが、魔力量がそもそも少ないので脅威にはならないかと。」
・・・脅威って・・・武雄はアリスの言い方が怖かった。
「脅威か・・・タケオはどう思ったのじゃ?」
「私ですか?感動しましたが?」
「え?感動したのですか?」
アリスは驚く。
「ええ。私はそもそも魔法が存在しない・・・
違いますね。存在を確認されていない所から来たのですよ?
魔法は、ゲームや本の中だけの空想の産物なのです。
それを使えるなんて感動しました。
今日は頂いた本を徹夜で読んでしまうでしょうね。
考えただけで楽しそうです。」
と武雄は嬉しそうにニヤリとする。
「え?だって戦闘には使えないのですよね?意味がないのではないですか?」
とスミスは聞いてくる。
「そうですね。ですが、スミス坊ちゃんもその内わかりますよ。
全くの新しい経験。それも考えもしていなかった経験が出来るという時は男の子は心躍るのです。
その行為自体は他人からは無意味に見えても本人からしたら寝食を忘れるくらい没頭してしまうぐらいです。」
「そうなのですか?」
「ええ、そういうものです。
たぶんエルヴィスさんもフレデリックさんも昔似たようなことを経験されていますよ。」
と話を振られた2人は顔を背ける。
・・・何したんだこの人達は?と武雄は苦笑するのだった。
「んんっ。わしらの若かりし頃の話は別にして、スミス。経験は楽しい物なのじゃ。
やっている時には苦しいかもしれぬが後々になると楽しかったと思えるのじゃ。」
「そうですか。」
とスミスはわかった様な、わからない様な返事をする。
「うむ。魔法具商店の事はわかったの。
では、アリス、続きを。」
「はい。次は仕立て屋での話です。」
とアリスは報告を始める。
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「ということがありまして、タケオ様のスーツとコート。私のコートが3日後に出来る予定です。」
「うむ。アリスは雛型を見たのじゃったな?どうであった?」
「そうですね・・・華美ではなく、機能的でしたね。」
「ええ、そういう意図ですから。」
と武雄は頷く。
「うむ。・・・その・・・『トレンチコート』だったかの。タケオ、これはどういう曰くの物じゃ。」
「・・・私も詳しい事は・・・学校で習っただけですが、
私のいた世界には複数の国があります。その世界の国々が2手に分かれ大戦争を行った時に開発されました。
戦争期間は1年半。双方合わせて戦死者1000万人、負傷者2000万人、行方不明者700万人以上という空前の大戦争です。
戦死者の内、全体の3分の1が劣悪な戦場下での流行り病・・・風邪で亡くなったと言われています。」
「「「「え?」」」」
「その際に防寒着として考案されたのが『トレンチコート』になります。
それまでの物より機能性と保温性にすぐれている物です。
それでも風邪を防ぎきることはできなかったとのことですが・・・」
「うむ・・・それはおびただしい人数だの。」
「全くです。私が生まれる100年前の戦争ですので記述しか残っていませんが。」
「そんな歴史があのコートの開発にあったのですね。」
「ええ。見方を変えると戦争は、あらゆる技術を大きく進化させる機能があることも否定できません。」
「全くだの。」
「まぁ、私の世界の事は気にされなくて良いのです。
このコートを作りたいと思ったのは私が着たい為ですしね。」
「うむ・・・フレデリック。2年前の魔王国との戦争での死傷者数はわかるかの?」
「はい。たしか2割程度だったかと。」
「そのうち病気が原因の者は?」
「7割かと・・・」
「「え?」」
アリスとスミスは驚く。
その数値は知らされていないからだ。
「そのうち半数が病気にならないと仮定すれば、街への影響も少ないかの・・・
・・・わしは兵士専用のコートと階級章、うちの紋章を模った所属章も許可しようと思うがフレデリックはどう思うかの?」
「私も異存はありませんが、ただ、金銭的に全員に支給するとなると予算がありませんね。
タケオ様はその辺はどう考えていますか?」
「完全支給ではなく、出来れば補助と言うのを考えていましたが。」
「ほぉ。」
フレデリックが興味深そうに聞いてくる。
「実際、このコートはエルヴィスさんに否定された場合、兵士個人向けの民間商品にするつもりでしたから。
その意味でも価格を下げたいとお願いしています。」
「費用的にはどのくらいになりそうですか?」
「たぶん大量生産体制で原価を引き下げても1着金2~3枚はかかるでしょう。
なのでエルヴィス家には、できれば2割負担をお願いしたいのです。」
「兵士約900名で銀6枚・・・金540枚ですか・・・」
「ええ。難しいですか?」
「そうですね・・・3年間の分割でお願いしたい旨を仕立て屋に聞いてもらえますか?」
「わかりました。」
「うむ。ちなみにタケオと仕立て屋の契約書はあるのかの?」
「はい、まだ素案ですが。」
と武雄はエルヴィス爺さんに契約書の素案を渡す。
「うむ。契約の内容も説明にあった通りじゃの。
仕立て屋の本社はこの街に。コートの販売、デザイン権は仕立て屋に。
仕立ての工場もこの街に。タケオへのデザイン料は1着あたりの売値の2割?」
「ええ。1割でも良いと言ったのですが、向こうから2割でと値上げされました。」
武雄は苦笑する。
「いや・・・タケオ。普通は3割くらい貰うのじゃぞ?」
「え?そうなのですか?
・・・まぁ別に気になりませんね。その分安く出回るのであれば良いです。」
「まったく、欲がないのかのぉ・・・」
とエルヴィス爺さんは武雄に契約書を返す。
「この契約もわしは許可する。」
「ありがとうございます。」
と武雄は礼をする。
「時にスミス、武雄の考えはどう思うのじゃ?」
とエルヴィス爺さんはスミスに聞く。
「発想が素晴らしいですね。」
・・
・
「スミス、タケオ様はエルヴィス家への利益と言ってくれていますが、
あなたに宛てた未来への贈り物なのよ。」
アリスは優しくスミスに語る。
「え?」
スミスは驚き武雄を見る。
「あくまで上手く行けばの話ですが。
この街が大きくなった時に皆を率いているのは、スミス坊ちゃんあなたです。」
と武雄は苦笑いを返す。
「うむ。わしの補佐兼相談役の初めての仕事は上々だの。」
「お爺さまの補佐兼相談役ですか?」
スミスは聞いていないと抗議の顔をする。
「うむ。スミスが退出した後に決めたのじゃが・・・スミス、タケオを就任させて良いかの?」
「はい。こんな凄い構想をお持ちの方を他家に行かせるのは勿体ないです。」
とスミスも了承する。
「ちなみにタケオの上司はアリスじゃ。」
「ええ。」
「えーっと?フレデリックではないのですね?」
「はい。私とは違う系統での意見具申となりますね。
意見は1つでは危ういのです。
必ず2通りの意見を聞き判断を下す方が間違いを犯しづらくなります。
まぁ片方の意見を毎回採用すると片方が捻くれますからバランスを見る目も主には求められますが。」
とフレデリックが伝える。
「うむ。そうじゃの。
今回はアリスもフレデリックも賛成したが、毎回賛成するとは限らんの。
その都度、妥協案を探ることを考えないといけない・・・面倒じゃ・・・」
「「それが仕事です。」」
武雄とフレデリックが同時に突っ込む。
アリスとスミスは、その様子を楽しそうに見るのだった。
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