第308話 ウィリアムに状況の説明と王城の困惑。
「という感じでアリスお嬢様もレイラさんも私の話を聞かずに颯爽と歩いていきましたね。」
武雄は今までの経緯説明と自身の装備を付け終わる。
「・・・はぁ・・・
タケオさん、良く耐えましたね?」
ウィリアムは顔に手を当ててガックリしながら言う。
「すっごく痛かったし、逃げたかったですけどね・・・
ただ相手の思惑通りに怯えるのもね・・・
ああいう相手はこっちが怯えれば怯える程、付け上がるでしょう?
なら相手の思惑を外すのが最善だと思ったからかなり我慢しましたよ。
ケアもできましたから、下手な演技で凌ぎました。
ウィリアムさん、こんな慣例があるのですか?」
「・・・少なくとも僕もレイラも知りません。
タケオさん・・・どう考えてもおかしいと思わなかったのですか?
タケオさんの実力なら剣がなくても返り討ちに出来たのではないですか?」
ウィリアムは眉間に皺を寄せながら聞いてくる。
「おかしいとは思いましたし、返り討ちにもたぶん出来ましたけど・・・『慣例』と言う言葉が・・・ね・・・
本当にこの慣例が実施されているとして、施行者を返り討ちにした場合、エルヴィスさんに迷惑がかかってしまいます。
倒した相手が王都の高官なら王都・・・いや下手したら全貴族との戦争です・・・勝てる訳がない・・・領地、領民は蹂躙されます。
エルヴィス領6万名の命と1名の命・・・犠牲にするしかないなら1名の犠牲に止めるのが政治です。
もう私はエルヴィスさんの配下で施政者側の人間です。
エルヴィスさんや領地、領民に被害が出るくらいなら今は耐えるしかないでしょう?」
「そうとも言えるかもしれませんが・・・
・・・この件はこちらで調べて詳細をお知らせします。」
「わかりました。
さてと・・・ミア、クゥ、ご挨拶を。」
「はい、主。」
「きゅ!」
ミアとクゥが机の上に並ぶ。
「ウィリアムさん、妖精のミアとドラゴンのクゥです。
2人ともこの方はアリスお嬢様のお姉さんの旦那さんでウィリアムさんです。」
「主タケオの部下で妖精のミアです。
よろしくお願いします。
そして。」
「きゅ。」
「ドラゴンのクゥです。」
「はい、お2人とも初めまして。
んー・・・妖精もドラゴンも初めて見ますが・・・
可愛らしいですね。」
「でしょう?
ここ数日の付き合いですが、私もアリスお嬢様も甘々な対応をしています。」
武雄はクスクス笑う。
「わかる気がしますね。
妖精もドラゴンも意思疎通ができるのが良いですね。」
「きゅ?」
クゥが首を捻る。
「ミア殿、なんて言ったのですか?」
ウィリアムがミアに聞く。
「クゥの姉がドワーフ達の住み家とここの間に住んでいるのだけど会ったことないのか?と。」
「あぁ・・・ドワーフの王国との国境付近は、ドラゴンが居るとの報告があるので、その辺一帯は立ち入り禁止にしています。
そうですか、クゥ殿の姉君ですか。」
「きゅ?」
「姉を呼ぼうか?と。」
「今は平気ですね。
今呼んでしまうと街が混乱してしまいますからね。
でもいつか呼んで話を聞くのも良いかもしれません。」
ウィリアムがそうやんわりと断る。
「さて、ウィリアムさん。
アリスお嬢様とレイラさんを止めに行きますか。」
「そうですね。
あ、執事はもう戻って結構ですよ。
父上に詳細を伝えてください。」
「はい、畏まりました。」
と、執事は退出していった。
「では、行きましょうか。」
ウィリアムがそう言い、武雄がリュックと小銃改1を背負うとミアが武雄の肩にクゥがリュックの上に陣取る。
「はい、お願いします。」
武雄達が移動し始めるのだった。
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第2騎士団兵舎前で戦闘が勃発中。
「アリス右!」
「はい!」
アリスは右側から寄せてきている兵士達を薙ぎ払う。
「アリス!第2騎士団長を倒せば終わりね!」
レイラが楽しそうに言う。
「はい!
それにしても・・・何だか兵士の数が増えました。
・・・これは回復戦法!?」
アリスはしゃべりながら今度は左側の兵士達を斬り飛ばす。
アリスとレイラは1歩1歩確実に進むのだった。
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「ほぇ~・・・エイミーお姉様、アリス様凄いね!」
クリナが感心しながら言ってくる。
エイミーとクリナとアンは広間のテラスでお茶を飲みながら観戦していた。
親たちは会議中なので、子供たちは観戦することにしていた。
「本当ね~。さっきまで私達と緊張しながらもにこやかにお茶をしていた方とは思えないわねぇ。」
エイミーは、のほほんとしながら妹達とお茶を飲むのだった。
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一方、広間では。
「ふむ・・・妃達はアリスとレイラが迎えに行くと言った際に妖精の・・・ミアを通じてタケオに異常が発生しているというのがわかったのだな?」
「はい、陛下。」
ローナが答える。
「うむ。
さて・・・あとはタケオ側の経緯が知りたいな。」
「失礼します。」
と、ノックをしてウィリアムと一緒に退出した執事が入室してくる。
「陛下、ウィリアム殿下とキタミザト卿は合流されました。
レイラ殿下とアリス殿の第2騎士団との戦闘を終息に向かうべく現地に向かわれました。
あと、キタミザト卿の武器も返却が済みました。」
「うむ、ご苦労。
ウィリアムはタケオから経緯を聞き出したか?」
「はい、キタミザト卿側の経緯がわかりましたのでご説明をいたします。」
「うむ、頼む。」
・・
・
「じゃあ。何か?
平民の従者相手に毎回20回、無抵抗な状態で斬りつけを行う王城の慣例という物が存在しているのか?
なんだそのふざけた慣例は。
オルコット、クラーク知っていたか!?」
アズパール王が眉間に皺を寄せながら聞く。
「「少なくとも私は存じません。」」
2人は即答する。
「だよなぁ・・・
はぁ・・・タケオが斬られて血まみれとは聞いたが・・・
タケオの事だから襲った相手も倒し済みだろうから事情を聴いてからと思ったのに・・・
・・・はぁ・・・続きを頼む。」
「はい。
キタミザト卿の話だと先の通りになりますし、実際キタミザト卿は15回に減らして貰ったと苦笑されておりました。
あのズタズタの衣服と衣服に付いた出血量を見ると真実でしょう。
ただ・・・15回にしては服に染みている出血量が低く見受けられます。
もしかしたら切りつけた者は、わざと深手にならないくらいの剣を使ったと思います。
例えば中途半端に刃引きをしてるか、鋭利にならないように研ぎ角を変えているのか・・・かと。
そしてキタミザト卿はここで反抗的態度もしくは相手を返り討ちにしてしまうとエルヴィス家にまで王城から難癖が来てしまい、伯爵や領民に影響が及んでしまうと考えたとのことです。」
執事も難しい顔をしながら言ってくる。
「はぁ。
確かにタケオが襲ってきた相手を倒した場面で第3者に目撃させれば・・・一気にエルヴィス家の謀反と伝えられなくもないか・・・
・・・タケオも良く耐えてくれたな。
それにしてもアリスやレイラでなくてもキレるぞ・・・
姉夫婦の所に遊びに行ったら婚約者を血まみれにされたんだからな。
それにレイラにしても可愛い妹とその婚約者を招いたら初日にその婚約者が血まみれ・・・もう壮絶に面子を潰されたな。」
アズパール王の呟きにその場の全員が頷く。
「あぁ・・・パットの件といい、慣例といい・・・
・・・エルヴィス伯爵になんて報告をするのですか?
下手な報告をしたならエルヴィス家と王家で戦争ですよ?」
クリフがうな垂れる。
「あぁ・・・そうだな。
客観的に見て王家の者が孫娘とその婚約者を招待したら王家の者が門前で立ち塞がって婚約者に婚約破棄を迫り決闘をさせるわ、それが終わったと思ったら婚約者を別室で無抵抗状態で血まみれにさせるわ・・・
もう、我は今すぐにでもエルヴィス伯爵に謝りに行きたいぞ・・・」
アズパール王や他の文官、議員達もガックリとする。
「陛下、いかがしましょう?」
オルコットがため息交じりに聞いてくる。
「そうだな・・・まずはこの事態を終息させる。
王都守備隊総長。」
「は!」
「第一および第二情報分隊を動かしてこのふざけた慣例の実施者を特定して来い。
過去の実施数もわかればなおの事良い。
警備兵については保留だ。
犯行を止められなかった事は頂けないが、それを警備兵個人で責任を取らせるものなのか。
少し考察する必要があると思う。」
「は!」
「第一近衛分隊長。」
「は!」
「第一近衛分隊を連れてウィリアムの指揮下に入れ。
よく考えれば2人では戦闘中のアリス達と第2騎士団の間に割り込めないだろう。
あと第三魔法分隊は回復戦法の試験を終了。
第一近衛分隊と同じようにウィリアムの指揮下に入るよう伝達しろ。」
「は!」
マイヤーが分隊に指示を出し終え先にウィリアム達の所に向かった後、分隊が移動しようとしている横でアズパール王も席を立つ。
「ん?陛下?どこに?」
「はぁ・・・
状況がわかったからな。
アリスとレイラの怒り度合いによっては、ウィリアムとタケオだけでは収まらないかもしれない。
そんな状態を誰が終息できると思う?もう我が行って止めるしかないだろう。
報告を待ってから動いてはもっと面倒なことになりかねん。
だったら今から動くことにする。
皆、ここで待っていろ。
クリフ、オルコット、クラーク。
3名にこの場を任せる。」
「陛下、危険では?」
クリフが尋ねる。
「アリスやタケオならそんなに危険ではないだろう。
別に王家に歯向かう気もないだろうしな。
それに指揮をしているのはレイラだ。
息子の嫁を押さえに行くだけだ。
第2騎士団がとりあえず詫びでも入れて終わるか、アリス達の気が晴れるかと思ったが・・・
事情がわかり始めた状況では、さっさと止めるのが一番安全なのだよ。
今なら何年後かには笑い話に出来るだろうが、何かが失われてからでは禍根を残す。
クリフ、間違えるな?自身の安全が国家の安全ではない。
時と場合をしっかりと見ろ。それが出来ないと王の器と皆に認識されないぞ。」
「は!」
「じゃあ、行ってくる。」
アズパール王は第一近衛分隊と部屋を出ていくのだった。
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