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第305話 あぁ・・・本当、平民って大変だなぁ。

「きゅーー!!」

「クゥ!落ち着きなさい!」

武雄は若干暴れているクゥを右手で抱きしめながら言う。

「クゥ、平気です。

 何もこの方々は私の命を取ろうという訳ではないのです。

 王城での慣例を執行しているだけなのです。

 だから、落ち着きなさい。

 大丈夫だから。」

武雄はクゥを抱きながら優しく語る。

「きゅ。きゅ~・・・」

クゥは武雄を見て落ち着いていく。

「大丈夫、大丈夫だから。」

武雄はクゥの背中をポンポンと軽く叩きながら優しく言う。

「・・・すみません、お時間を割いてしまって。」

「いや、平気だ。それにしても見事な手並みだな。

 お主が仕えている主がお主を王城に連れてきたのもわかる。

 では、あと14回だな。

 耐えなさい。」

「はい。」

武雄は男性に向かって身構えるのだった。


------------------------

今より少し前。

「では、こちらでお待ちください。」

武雄が連れて部屋は明らかに来賓用ではなく使用人用の部屋だった。

「ありがとうございます。

 パイプを吸っても構いませんか?」

「ええ、構いません。

 では、お待ちになってください。」

と、先導した男性が退出していった。

「さてと・・・」

クゥを下に置き、武雄は周りを見回し適当なスープ皿を持って来てアクアで水を満たしクゥの前に出す。

「きゅ。」

クゥは周りを見たが何も面白そうな物がなかったようで大人しく出された水を飲む。

「クゥ、ミアには内緒ですよ?」

と、武雄は胸ポケットからビスケットを出して皿の横に置く。

「きゅ♪」

と、クゥがモグモグし始める。

そんなクゥを見ながら武雄は椅子を持って来て座り、キセルを取り出して火を付けてプカプカし始める。

・・・さて、時代劇ならこういった場面では難癖がくるんだよなぁ・・・


と、客間のドアがノックされ2人の帯剣した男性が入って来る。

「失礼する。」

武雄は起立して出迎える。

「ふむ、お主が今日初めて王城に来た従者だな?」

その内の一人が武雄に声をかける。

「はい。」

「うむ。

 初めて来る平民の従者には、ある慣例がある。」

「はい。」

「・・・20回だ。」

そう言って男性が片手剣を鞘から抜く。

その様を武雄は微動だにもせずにただ見ている。

顔には嫌悪感も不快感もださない。

「わかりました。

 ですが、2つほどお願いしたいことがあります。

 一応、聞いて頂けますでしょうか?」

「うむ、構わない。」

「ありがとうございます。

 1つ、この服は主より頂戴した大事な服ですので血を付ける訳にはいきません。

 コートと上着は脱いで事に当たっても構いませんでしょうか。

 2つ、帰りの際に主の荷物を持つ為、左腕のみとさせていただきたいのですが。」

「・・・うむ、共に許可しよう。

 その動じない姿勢、そして自分の仕事をこなす為の意見・・・見事だ。

 お主は主から相当教育されたのだろう。

 その主に敬意表し、慣例では20回だが今回は15回とする。」

「ありがとうございます。」

武雄は礼をし、コートと上着を脱ぎ、Yシャツの左袖を左腕部分まで捲る。

と、左腕を曲げて、顔の左に持ってくる。

「お手数をおかけします。」

「うむ、では参るぞ。」

男性が剣を振りかぶるのだった。


------------------------

「ぐっ・・・」

武雄は何回目かになる苦悶の声を出す。

左腕のYシャツの袖および肩口は血が染み込んで赤くなっている。

「あと3回。」

「・・・」

武雄は何も言わず、毎回同じように左腕を曲げて、顔の左に持ってくる。

体勢が整うのを見て斬りつける。

「・・・っ!」

「あと2回。」

「・・・くっ!!」

「最後!」

思いっきり男性が振りかぶって斬りつける。

「ぐっ!!!」

「うむ。

 最後まで膝を床に付かなかったな。

 見事だ。

 従者の鑑だな。」

男性は納刀しながら言う。

「・・・はっ!」

武雄は顔を伏せ左腕をだらりとしながら答える。

「も・・・申し訳ありません。

 顔を伏せて返事をしました。」

と顔を上げて正面から男性を見る。

若干顔が苦痛に歪んでいるようにも見える。 

「いや、慣例が終わった直後なのだ構わない。

 それにしても今まで私が担当した者でここまでしっかりとした者は居なかった。

 実に立派だ。

 今の主がお主をいらないと言ったら私の所に来なさい。

 面倒を見よう。」

「折角の申し入れありがたく思います。

 ですが、今の主には大恩があります。

 主がいらないと言っても私は私が出来る範囲で主の為に一生を過ごさせて頂きたいと考えております。」

「うむ、他者になびかないか・・・実に結構。

 では、私達はこれで。」

「ありがとうございました。」

2人の男性は退出して行くのだった。

武雄は礼をして見送るのだった。

・・

「はぁ・・・王城は面倒ですね。

 大根役者でしかないのですけど・・・何とかなりましたかね~。」

武雄は剣撃を受けている時に随時ケアを使い表面以外の傷を治していた。

だが受けた瞬時は流石に回復が出来ないので、斬られた際の痛みで苦悶の声を少し出してしまっていた。

武雄は、さっさとケア×35をかけ全回復させる。

いろいろ動かし左腕や左手に違和感がない事を確認する。

「あぁ・・・Yシャツの血は流石に消せませんね。」

「きゅ?」

クゥが何か言ってくる。

「んー・・・なぜ受けたか?もしくはなぜ反撃しなかったのか?・・・でしょうか?」

「きゅ。」

クゥが頷く。

「人間社会は面倒でしてね。

 力が強い者が強者とは限らないのです。」

「きゅ?」

クゥが首を捻る。

「んー・・・なんて言えば良いのでしょうか・・・

 血縁による権力が時として自身の力よりも物を言う時があるんですよ。

 そして代々貴族なのだから自分は他の人間とは違う選ばれた人間だという感覚になってしまう者も極稀に現れるのです。

 その最も顕著に出るのが平民に対する態度ですかね。

 自分は生まれながらの選ばれた民、その選ばれた民が集う王城という場に平民風情が来るのが頭に来るので先のように鬱憤晴らしをしないと自尊心が保てないのでしょう。

 そういう輩に対しては、こちらは大人しく従順にしていれば良いのです。

 下手に反抗すればさらに回数が増えるか、死ぬまで拷問とか平気でするかもしれませんからね。

 今回は従順にしていたおかげで回数を減らされて良かったです。」

「きゅ?」

クゥが再び首を捻る。

「まぁ、弱いくせに親の業績を盾に偉ぶっている貴族もいるという事です。

 逆に親に感謝をしつつ、民を愛し民に愛される貴族もいます。

 私もクゥもそういった人を見分ける目を養うのが大事なのだと思いますよ?」

「きゅ~?」

「さて・・・なんてクゥが言ったのかわかりませんが・・・

 その話は、いつかミアが居る場で話し合ってみますか。

 今は精神的に疲れました。

 ちょっと昼寝です。」

と、武雄は話を切り上げ、椅子を日当たりに良い場所に移動させ浅く腰をかけ昼寝を開始するのだった。

クゥも武雄を見習い日当たりの良い場所で昼寝をするのだった。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

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