第303話 絶賛会議中。
「なるほど、クリフの考えも確かにありだな。」
アズパール王は頷く。
「ええ、そうですね。」
オルコットも頷く。
「確かに長期的に見るとそれは良い案ですね。」
クラーク議長や貴族会議も頷く。
専売局について議論をしていたのだが、その中でクリフが「ニールとウィリアムの所に分散して建ててみるのもありではないか?」と提案し、いろいろ持論を説明していた。
「確かにニールが西でウィリアムが東で専売局を運営すれば、他方が不作の年でも一方で豊作なら流通に影響は少ないな。」
「ええ。
今までは私とニールともに国内で西側の公領でしたので取り扱い品目を分担していましたが、うちの専売局を移動するのであれば、この際、生産拠点の分散化を狙ってもいいかと。」
「なるほど。
塩については海に面しているニールの所でしかできないな。
他は分散できるか?」
「可能です、陛下。
うちの専売局の人員や労働者を半分ウィリアムの所に送って、クリフ兄上の所の半数をこちらに入れて貰えば・・・たぶん。
ですが、軌道に乗るまで少し時間は必要でしょう。」
「なるほど。オルコット、クラーク。」
「専売局の分散案、至急、各局で話し合います。」
「貴族会議は、どちらの案でも了承します。
どちらも良いところと悪いところがあるでしょうから。」
「ウィリアム。」
「兄上達の過去の報告書を研鑽して臨みます。」
「うむ、それでよい。
・・・ん?・・・ニール、お前の所からの貴族への推挙なのだがな。」
「なんでしょう、陛下。」
「うむ。今ふと思ったのだが、ウィリアムの周りには3伯爵が控えているだろう?
お主の周りには2伯爵しかいない。推挙した者に・・・えーっと・・・アルダーソンか?
その者に領地を与え1500名の兵士を維持する様にしてお主の公領を守らせ、ついでにカトランダ帝国に面した3伯爵の後詰にも対応できるようにするのもありではないか?
で、アルダーソンの領地内にクリフから推挙された・・・バビントンを研究所所長とするのはどうだろう?」
「なるほど。
そういう手もありますな。」
クラーク議長が頷く。
「ふむ、この領地と研究所の案は再度、文官で詰めて貰おう。」
「は!
至急、内容を精査します。」
「やはり、貴族になったこと自体は先に3人に通達しておいて、授与式は後日というのは正解だな。」
アズパール王が苦笑する。
「ですね。
今後の王国50年の形が決まるのですから詰めれるだけ詰めた方が良いでしょう。」
クラークが言う。
「うむ。オルコット、クラーク、共に意見を出してさらに我が国が良い国になるようにしろ。」
「「は!」」
「会議中失礼します。」
と、ノックをして王都守備隊隊員が入って来て、アズパール王に敬礼をする。
「うむ。どうした?緊急事態か?」
「そこまでの緊急性はありませんが、総長にお伝えした所、陛下にお伝えするようにとの命令にて参りました。
陛下、アリス・ヘンリー・エルヴィス殿、タケオ・キタミザト殿が王城の門まで来られました。」
「お、やっときたか。うんうん。
で?お主達王都守備隊が来るという事は違う用向きだろ?」
「ええ、そうなのですが・・・」
と、隊員がクリフの方をチラッと見る。
「ん?私が?」
クリフは「何?」と不思議そうな顔をする。
「会議中失礼します。」
と、ノックをしてマイヤーが入って来る。
「陛下、任務が終わりましたので護衛に付きます。
王城の門での出来事について説明は受けられましたか?」
「第一近衛分隊長、ご苦労。
説明はまだだな。」
「わかりました。
おい、あとは私が説明する。」
「は!では、私はこれにて。
失礼します。」
と、最初に来た兵士が退出していく。
「うむ。
で?エイミーが居たのに問題事が発生したのか?」
「は!問題と言えば問題が・・・」
マイヤーは苦笑する。
「うむ、面白そうだな。聞こう。」
「は!
エイミー殿下は無事、王都の門でアリス殿とキタミザト殿に合流しました。
ちょっと寄り道もしましたが、王城の門に着いた際に門で行く手を阻まれました。」
「・・・エイミーの行く手を阻むとは、どういうことだ?」
アズパール王が訝しむ。
「は!王家の方を止めるのは普通の者ではできません。」
マイヤーは苦笑する。
「まさか・・・」
クリフが目を張る。
「パット殿下が昨年の御前競技会の優勝者と準優勝者を伴って道を塞ぎました。」
「あの・・・バカ息子・・・」
クリフが頭を抱える。
「ほぉ、確かに王家の者が王家の者を止めることはできるな。
で?パットは何を要求したのだ?」
「・・・そのまま言いましょうか?
『おい!キタミザト!我らの鮮紅を娶ろうとは不届き千万!この2人を倒せたのなら鮮紅との婚約を認めてやらんでもないぞ!」』とお立ち台の上から豪語いたしました。」
「・・・」
クリフは何も言えないでうな垂れている。
他の面々は苦笑していた。
「なるほどな。
・・・婚約の事を言われたのだ・・・受けたのだろう?」
「は!
物凄く大きいため息をつきながら。
ただパット殿下が『2人合わせれば鮮紅にも匹敵すると言われている!』と言われていたので、キタミザト殿は割と本気で相手をされました。」
「まぁ・・・アリスと同等ならそうだろうな。
それに婚約に横やりが入ったんだから・・・どちらにしても割と本気で対応するだろう。
その2人はどのくらい持った?」
「・・・キタミザト殿の勝利は陛下の中では確定事項なのですね。」
「うむ。あのオーガとゴブリン軍との戦闘を見れば、個人でタケオに勝てる者はアリスぐらいだろう。」
「は!私もそう思います。
戦闘の時間でしたね・・・そうですね、正味10秒くらいでした。」
「「は!?」」
アズパール王とウィリアム以外が驚く。
「うむ、そんなものか。」
「2人の利き腕を斬りつけて魔法・・・たぶんエクスかと推測できますが、30発くらい撃ち込んで気絶させていました。」
「ふむ、あっけないな。
タケオに2人の評価は聞いたか?」
「は!
『剣の速度はゴブリンより上、威力はオーガより下』と評していました。
そしてアリス殿の足元にもおよばないと。」
「そうか。
その2人はどうした?」
「は!第三魔法分隊長が部下と見回りを終えて合流したので、ついでに回復をさせています。」
「うむ、それで良い。
・・・確か2人とも第2騎士団だったな。
騎士団に飯抜きで朝までぶっ通しの訓練を今すぐさせろ。
馬鹿なことに手を貸した罰だ。」
「は!
おい、総長にそう伝えてこい。」
「は!」
広間内にいた第一近衛分隊の隊員が広間を退出していく。
「で、パットはどうした?」
「は!戦闘を終えたキタミザト殿がエイミー殿下に『露払いは済みましたよ』と勧められていたので、エイミー殿下がパット殿下を折檻しております。」
「うむ、それも良いだろう。
・・・パットは傷心中だろうから・・・明日にでも事情を聴くことにするか。
アリスとタケオは?」
「は!キタミザト殿ご一行は受付に向かわれています。
エイミー殿下も後ほど合流するようでした。」
「うむ・・・ん?
ご一行?他に誰が居るのだ?」
「は!ドラゴンの子供と妖精をお連れです。」
「「「え!?」」」
マイヤー以外が驚く。
「キタミザト殿から伝言です。
『この2人は自身に脅威が及ばなければ暴れないが、不埒者がいたら容赦なくこの2人は暴れますよ』とのことです。」
「王城の全ての武官と文官に緊急で指示をだせ。
タケオ達と同行している者に手を出すな!とな。」
「「は!」」
マイヤーとオルコットが部下達に指示をだすのだった。
「はぁ・・・それにしてもタケオは面白いなぁ。」
アズパール王は楽しそうに言う。
「全く・・・タケオさんはどんな旅行をしているのですかね?
妖精にドラゴン・・・もう訳がわかりません。」
ウィリアムは、ため息交じりに呆れるのだった。
先の3人以外は「どんな騒動になるの?」と不安げに思うのだった。
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