第292話 旅の4日目 王都直轄領の町。エルヴィス爺さんの情報網?
武雄達一行は、夕方の日暮れ間際に町に着いて、厨房付きの宿をとり、皆で食材を買いに行ってきた。
クゥを抱いての買い物だったが・・・周りから注目はされたが、危害が加えられなかったので少し安心していた。
ミアは青果屋でリンゴとオレンジ等果物を欲しがり、クゥは肉屋で牛肉の塊を欲しがった。
そんな二人を武雄もアリスも「しょうがないなぁ」と甘々な対応をして買っていった。
そんな武雄は今、宿屋で厨房付きの部屋に入って料理をしている。
「そういえば、アリスお嬢様。」
「はい?なんでしょうか?」
「町に入る際に兵士から手紙を貰っていましたよね?
何て書いてありましたか?」
「えーっと・・・ちょっと待ってくださいね。」
アリスは懐から兵士から貰った手紙を出し、中を見る。
町に入る際に旅人全員が簡単な質問を受けていた。
エルヴィス領ではそう言う事がなかったので「これも町の違いかぁ」と二人は納得していた。
実際の所は兵士が二人を探していたのだが。
「あ、レイラお姉様からですね。
明日の9時課の鐘以降に街の城門に来るようにしてくれって。
迎えが来るそうです。」
「その文言だと、迎えに来てくれるのは、レイラさん達ではないのですね。」
「ですね。誰がくるのでしょう?」
「さぁ?でも来てくれるのはありがたいですよね。」
「ですね。宿とかどうしましょうかね?
私一人ならレイラお姉様の所で居候するのですけど。」
「どうでしょうか。迎えに来てくれた人に聞いてみましょうか。」
「そうですね。
で、タケオ様。今日の夕飯は?」
「肉屋さんで肉と一緒に買ったワイン煮の素を使って煮込んでいます。
まさかスープが入った鍋ごと貸してくれるとは思いませんでしたが・・・
後は、酒場で買ったフライドポテトと青果屋で小分けにして貰った野菜ですね。
パンもこの宿の1階に売っていましたのでそれで良いでしょうね。
アリスお嬢様達は先にお風呂にしますか?
お湯を張りますよ?」
「もう少し時間がかかるのですか?」
「です。
お風呂はさっき見たら大きかったので、今日は浸かれますよ?」
「じゃあ、先に入ります。」
「わかりました。と、火を弱火にして・・・じゃあ、お湯を入れますからね。」
武雄は焦げ付かないように火を弱火にして、湯あみ場に行くのだった。
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エルヴィス爺さんはフレデリックと自身の書斎に居た。
机に読み終えた報告書を置いて思案している。
「はぁ・・・」
何気にため息を漏らしてしまう。
「・・・何かあったので?」
「うむ、向こうの商人からの報告じゃが・・・
フレデリック、見ても構わないのじゃ。」
「では。」
と、机の上の報告書を見る。
「・・・これは少し動いてしまうかもしれませんね。」
「うむ。」
エルヴィス爺さんは、エルヴィス領と面している魔王国の領主貴族が居る街の商人から領主へのスパイと諜報とか策謀の為ではなく、ただ相手の街での噂が知りたかったので報告書の提出を依頼をしていたのだが、今回は少しいつもと違った噂が出ていた。
「領主一家が雲隠れとな・・・普通あり得るのかの?」
「さて?
でも、この報告書では街に異変は無いと言っていますね。
ところで、主、なんでこんな報告書を貰っているのですか?」
「ん?30年くらい前を覚えているかの?」
「・・・30年前・・・私がこっちにきてしばらく経っていますよね?
んー・・・子育てと仕事で追われていた時ですが?」
「ふむ。その頃、わしはまだ次期当主での。魔王国の物を集めるのが趣味だったのじゃがな。
その商店とは、その頃から知り合いじゃ。
まぁ実際には会ったことはないがの。両国の商隊を通じて今でもやり取りをしておる。」
「こちらからは何を?」
「ふむ、報告書が届いたら特産品を贈っておる。意外と向こうもこちらの物は珍しいらしい。
今年からはウォルトウィスキーを送ろうかの。」
「そうですか。喜んでくれますかね?」
「さぁどうじゃろうの?向こうは報告書を、わしは特産品を贈る仲でしかないからの。
まぁよくも毎月、変わらずに報告書をくれるものじゃ。」
エルヴィス爺さんは苦笑する。
「もう、相手も毎月の定例行事化しているのでしょうね。」
「うむ、ありがたい事じゃ。
今回は緊急の報告書じゃったがの。何か街の雰囲気が変わったのじゃろうの。」
「ええ、街の雰囲気は主に寄って変わりますからね。
このエルヴィス領は先代の頃からマッタリとしていますね。」
「うむ、住み心地が良いじゃろ?」
「ええ、王都に居た頃よりも心穏やかに過ごせますからね。
最初来た時はビックリしましたね。皆の生活スピードがゆっくりで。
ですが、街の皆には笑顔がある。良い事です。
そういえばテイラー店長も王都出身でしたね。
彼は、バリバリのエリートですけど。」
「・・・何を言っておる?フレデリック。
お主も元はエリートじゃろう?
王都の総監局に居ただろう?」
「私は王都での競争社会で疲れていた時にこっちに出張で来て、妻を娶って、移り住んだ落ちこぼれですよ。」
フレデリックが苦笑する。
「お主がうちに来てくれて助かっておる。
お孫さんは元気かの?」
「ええ。娘達も元気ですし、今度お休みを頂いて皆でゆっくり食事をすることにしています。」
「うむ、それが良いじゃろう。
休める時に休んでくれて構わぬ。
アリス達が帰って来たら忙しくなりそうじゃからの。」
「はい、わかりました。」
エルヴィス爺さんとフレデリックが朗らかに話し合うのだった。
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