第289話 旅の3日目 チビドラゴンと話さなくては。
武雄とアリスとミアとチビドラゴンがかまどを囲んで座っている。
「はぁ・・・」
武雄は目を閉じ、腕を組みながら何度目かのため息をつく。
「タケオ様、諦めては?」
「・・・アリスお嬢様は随分、物分かりが良いですね?」
「ええ、私はもう諦めましたから。
どうせ後ろを付いてくるなら私達の旅の仲間にした方が良いでしょうし。」
「そうですね。
仲間にね・・・そもそもこちらが出した条件を飲んだ時点で私に旅の同行を拒否する権利はありませんでしたし、連れていくのかぁとガッカリしたのは事実ですが。」
「なぜ最後に断ったのですか?」
「約束を反故にした時のドラゴンの反応を見たかったのですよ。
口約束が契約並みの威力があるのは私は人間社会だけだと思っていましたので・・・
他の種族になれば約束の定義も守る意義も違うでしょうからね。
種族が違うとどう解釈するのか、ドラゴンは口約束が通じるのか確かめたかったのです。」
「なんでそんなことを?」
アリスが「わからないんですけど?」という顔をする。
「約束を反故にして怒らないという事になれば、ドラゴンは約束や契約を何とも思っていないということです。
ならば、約束は無視されるとして行動するしかありません。
逆に怒るのなら約束や契約は履行されるのです。なので交渉という駆け引きが出来ます。
それは今回だけではなく、住み家となった地の分割契約とかでも交渉が可能になるかと。」
「あ・・・ここはうちの領地に近いですね。
下手したら領内ですし・・・」
アリスは「なるほど」と思う。
「それにしても今回は一方的に反故にしたのでどのくらい罵倒されるのかな?と思っていたら・・・
流石は最強種、さっさと実力行使をしましたね。
まぁあのドラゴンは、その辺も含めてこっちの考えはわかっていた感じはありましたが。
今後はさっきみたいにいきなり試すことはしない方が良いのでしょうね。」
武雄は苦笑する。
「はぁ・・・試した結果、尻尾の攻撃ですか・・・
命を賭けすぎです。」
「・・・姉ドラゴンの帰り際の言葉の意味がやっとわかりました。」
ミアが納得したように頷く。
「なんて言っていましたか?」
武雄が聞く。
「『私が試されるなんて・・・初めてよ?
クゥ、この人間達の言う事はちゃんと聞きなさいね。じゃあね。』
と言っていました。
主が攻撃された事と意味がわからなくて訳してはいませんでしたが。」
ミアの回答に武雄は苦笑する。
「じゃあなぜ、ため息をタケオ様はついているので?」
「街や町でのリスクの高さに覚悟が決まっていないからです。」
「きゅ。」
「アナタが言うな。」
ミアがチビドラゴンに突っ込む。
「・・・なんとなくこのドラゴンが言ったことがわかるのですけど。
そうですよね、そこは諦めが肝心なのかもしれないですよね。」
「主、わかるのですか?」
「今の状態で私も他人事ならそう言います。」
武雄の言葉にアリスが苦笑する。
「まずは自己紹介からしますか・・・
私はタケオ・キタミザトと言います。」
「私はアリス・ヘンリー・エルヴィスです。
先ほど説明した街の伯爵の孫です。
そしてタケオ様の上司で婚約者です。」
「私はミアです。」
「きゅ。」
「クゥだそうです。」
「そうですか。
クゥ、よろしく。」
武雄の言葉に残る二人が頷く。
「きゅ。」
「さて、クゥ。
アナタの目的は王都まで行く事ですね?」
「きゅ。」
クゥが頷く。
「それは流石にあれなので、少し目的を変えましょうか。」
「きゅ?」
「その目的だと、私達が王都に到着したらクゥは私達から離れる事になってしまいます。
それではいろいろ危ないですからね。
なので、私達に同行しここから王都に行って、そしてここに戻って来る事を目的として考えましょう。
良いですか?」
「きゅ。」
クゥが頷く。
「では、次にルールですけど、これはミアにも伝えてあります。
ちゃんと守ってくださいね?
王都は人間の欲望が渦巻いています。
クゥを見世物にしたい、研究したいと強奪してくる輩がいないとも限りません。
旅の最中は、私やアリスお嬢様の近くに必ず居ること。
最低でも目の届く範囲に居てください。」
「きゅ。」
クゥが頷く。
「クゥは飛べますか?」
「きゅ。」
「飛べるそうです。」
「そうですか。
では、万が一、誰かに捕まりそうになったら、高く飛びなさい。
私達は自分達で自分の身は守れます。
クゥは私達を気にせず、一度高い所に逃げて周囲を確認してから隠れなさい。
基本的に殺生は厳禁です。
村や町、王都で人間を殺生した場合、もしかしたら討伐される可能性もあります。
その辺は不本意かもしれませんが、逃げる事に集中してください。
逃げ切って私達の元に戻って来てください。
一緒に逃げますからね。」
「・・・きゅ。」
クゥがしばし考えてから頷く。
「そう言えば、ドラゴンは食事を必要としないのでしたね。
クゥは、さっきは肉を食べていましたがどうしてですか?」
「きゅ。きゅ。」
「必要はないですが、美味しい物は食べると幸せになるから食べると。
娯楽みたいなものだそうです。」
「そうですか。
人間社会は、基本的に物の売り買いで成り立っています。
ですから金銭を払って食べたい物を買うのです。
何か食べたい時は私やアリスお嬢様に言ってください。買ってあげますからね。」
「何かを見つけたり、美味しそうな匂いがしても勝手に行ってはいけませんよ?
必ず私かタケオ様に言ってからですからね?」
武雄とアリスが話す。
「きゅ。」
クゥが頷く。
「と、注意としてはこのくらいです。
少し束縛してしまいますが、それが一番安全です。
クゥの方から聞きたい事、言いたい事はありますか?」
「きゅ?きゅ?」
「移動は馬なのですか?王都まで飛んで連れていきますよ?」
「ん?クゥの小さな背中に私達は乗れませんよ?」
「きゅ。きゅ!」
「・・・ちょっと待ってください。それは本当なのですか?」
ミアがクゥの発言に驚いている。
「なんと言ったのですか?」
「1週間に1回くらいなら成獣に成れるのだと・・・半日程度しか成れないそうですが。」
「「は!?」」
「きゅ。」
と、クゥがかまどから離れていく。
15mくらい行った所でクゥが光り始めシルエットが大きくなっていく。
物の数秒でクゥがチビドラゴンから成獣になった。
「ウソでしょ・・・」
アリスは驚き呟く。武雄は頭を抱える。
3人の前には先ほどのレッドドラゴンと同じ大きさのブラックドラゴンが現れたのだった。
・・
・
「「はぁ・・・」」
武雄とアリスはため息をつく。
「果たして、私達が認知していないドラゴンを見て、王都の人達がなんて言うのでしょうか・・・」
「クゥは最悪、誘拐されたら成獣になれば逃げる事は出来ますけど・・・討伐されてしまいそうですよね。」
「きゅ。きゅ♪」
「だからアナタがそれを言いますか?
それに『今成ったからまた1週間後だね♪』とはなんですか?
何のために・・・」
「きゅ♪」
「『てへッ♪』じゃありません。
どこでそんな言葉を覚えたのです?
ドラゴンはいつもは高圧的に話す癖に気持ち悪いです。」
「きゅ!」
「気持ち悪い物は気持ち悪いのです!」
クゥとミアが「むぅ」と睨み合う。
「はいはい、喧嘩はしない。」
武雄はミアを抱っこし、アリスにクゥを抱っこさせる。
「むぅ・・・主がそう言うなら・・・」
「きゅ・・・」
引き離されて両者とも鎮火する。
武雄とアリスは苦笑するしかなかった。
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