第288話 旅の3日目 ドラゴンとの話し合い。
「すみません、何て言いました?」
武雄が聞き返す。
「あなた達の王都に私も行きたいので付いて行きます。」
チビドラゴンがもう一度繰り返す。
「ダメに決まっているでしょう?」
武雄が即行で断る。
「何故?妖精は連れているのに?」
「ただでさえ、人間は強欲な者が多いのです。
私達の街であればまだ目が届きますが、私達でも初めて行く王都では、アナタの安全の保証は出来ていません。
それに最低限のルールとして、私達二人の指示には従って貰わないといけません。
最強種として最弱の分類である人間の指示には従えないでしょう?
それにミアはここから住み家まで帰るのが大変な事や魔物との通訳、移動時の魔物の感知をしてもらう為、わざわざ私の部下として居て貰っています。 」
「なるほど。」
「ついでに言えば、アナタには姉が居るのでしょう?
家族の了承なしに住み家からアナタを連れ出す訳にはいきません。」
「姉の了承があれば良いのですか?」
「それに私達の指示には従って貰うことが条件です。」
「ふむ・・・姉に聞いてみますか・・・」
と、チビドラゴンは森の方を向いて歩き出す。
「タケオ様、断れましたかね?」
アリスがコッソリ聞いてくる。
「だと良いのですが・・・アリスお嬢様的にはどう思います?」
「断って正解かと。
タケオ様も言っていましたが、最低でも私とタケオ様の指示に従う事は絶対必要です。
それにミアちゃんくらいの大きさなら何とかポケットに入れれば、人目を避けれますが・・・
この大きさは人目に付きすぎです。
いろんな人が近寄って来てしまうかと・・・王都壊滅の発端にはなりたくないですね。」
「ですよね。
他に何か断る理由はありますかね?」
「どうでしょう。あまり理由を並べるのもいけないと思います。」
「なるほど。ミア、この付近にあのドラゴン以外のドラゴンはいますか?」
「・・・いません。」
「ならば、相談もすぐには出来ないでしょう。
明日の朝までに結論が出なければ、私達は王都に向け出発できます。
たぶん時間稼ぎにな」
「きゅーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
チビドラゴンが森と武雄達の丁度中間地点まで来た時にその体格に似合わない大音量で鳴く。
いきなりの大音量で武雄もアリスも顔をゆがめ耳を塞ぐ、ミアはチビドラゴンから目線を外さずに見ている。
「主、アリス様、今、姉を呼びましたよ?」
「え?・・・近くには居ないのでしょう?」
「はい、私がわかる範囲内には居ませんでした。
あ、来ました。」
と、森の上空を何かが高速で過ぎ去っていく・・・1つしか考えられないが・・・
「きゅーー!!!」
チビドラゴンが再度、鳴く。
と、森の上空にレッドドラゴンがやってくる。
そして、ゆっくりとチビドラゴンの前に着地をする。
その姿は高さ10m程度、頭から尻尾まで20m程度、蝙蝠の様な羽を生やし、武雄的にはゲームや映画に出てくる西洋竜そのものだった。
「きゅ!」
「グルルゥ。」
「きゅ。きゅ。」
「グルゥ。」
チビドラゴンとレッドドラゴンが何やら会話を始める。
「あ・・・主、アリス様、残念なお知らせです。」
ミアが唐突に話す。
「聞きたくないのですけど。」
アリスは顔を引きつらせながら呟く。
「姉ドラゴンが行く事を認めました。」
「はぁ・・・」
武雄は額に手を当ててガックリとする。
「グルゥ。」
レッドドラゴンがミアに顔を向け鳴く。
「・・・姉ドラゴンが主達と話がしたいそうです。」
≪以下。武雄達とドラゴンの会話(訳:ミア)≫
「話は聞きました。
クゥを王都まで連れて行ってください。」
「・・・その前に何点かお聞きしたいのですが、構いませんか?」
「どうぞ。」
「なぜ、そこまで王都に行きたがるのですか?
変な話、私達が街に戻るのを待って街に来られても良いと思うのですが。」
「ふむ、その通りではあるのですがね。
クゥが決めてしまいましたから私はそれを追認するだけです。」
「・・・それはドラゴンの仕来りか何かですか?」
「そうです。まずはそこを話さないといけないでしょうか?」
「はい、お願いします。」
「私達ドラゴンは、定住の地を自ら探す事を伝統としています。
そしてクゥの年頃で自らの意思で街を見に行くことが慣わしです。」
「なぜ、小さい時に?」
「成獣・・・私の大きさになってしまうと街に入ってその種族を見れないからです。
クゥは今生まれて130年くらいでしたか、もう少ししたら成獣へ体格が成長します。」
「なぜ、他の種族を見に行くので?」
「その地に先住している種族がどんな生活をしているか肌で感じ、自らが定住する場所の選定をするためです。
私もクゥの年頃に町に潜入しました。」
「その際に何かありましたか?」
「いえ・・・特には?」
「そうですか。
私達と行動を共にするなら、私達の指示には従って貰いたいのですが?」
「私は構いません。
クゥも良いと言っています。」
「最強種なのに人間の指示を聞くのですか?」
「人間の街に行って生活を見たいのですから、人間の指示を受けた方がいろいろと話が早いのでは?
それにクゥに無理難題を言うつもりですか?」
「・・・少なくとも私達は無理難題は言うつもりはありません。
人間の生活を逸脱しないようにしてもらいたいだけです。
ですが、万が一、妹さんが王都に行って私達以外の人間に攫われたりでもしたら、何をされるかわかりません。」
「ふむ・・・その際はクゥに運がなかったんでしょう。
それにアナタの連れに妖精が居ますから意思疎通が出来る。
私の時には居なかったので、クゥにはメリットがあると思います。
人間、もう一度言います。クゥを王都まで連れて行ってください。」
「・・・ダメです。」
武雄はレッドドラゴンをちゃんと見ながら言う。
「・・・どうしても?」
「大事なアナタの妹さんをお預かりするのです。
安全が保障できないのですから私は断るしかありません。」
「・・・そうですか。」
と、レッドドラゴンがクルリと背を向けると同時に尻尾で武雄を横殴りする。
それを武雄は左手にシールド×35を展開し、受け止める。
「きゅ!?」
「主!?」
チビドラゴンとミアが驚く。
「グル?グルゥ。」
と、レッドドラゴンが飛び去ってしまう。
・・
・
「・・・タケオ様、手を放してください。」
座りながらも剣を鞘から抜き片手で持っているアリスが呟く。
武雄は先のレッドドラゴンの攻撃を受ける際に右手でアリスの腕を掴んでいた。
「はいはい。」
武雄はアリスを解放する。
「タケオ様になんてことを・・・次会ったら折檻しなくては。」
アリスは剣を鞘に納めながら呟く。
武雄はそんなアリスを見ながら「どうやって?」と苦笑するのだった。
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