第283話 旅の2日目 西町局長との会談。
受付の女性がお茶を持ってきて配膳し、退出して行った。
執務室内には局長と武雄とアリスが残された。
「改めて、突然に来てすみませんね。」
「いえ、正直に言えばお早い到着に驚いています。
フレデリック様からは今日の夕方に付くのでは?と連絡がありましたので。」
「ふふ。
なかなかフレデリックの思惑を外せないので、今回は上手く行きましたね。」
アリスはクスクス笑う。
「そうですね、あの方の先読みは正確で有名ですので。
と、昨日はどちらにお泊りに?」
「この町の隣村に泊まりました。
なので、今日は昼過ぎに町に入れましたね。」
武雄も楽しそうに言う。
「そうですか、あの村はなかなか旅人が寄らないのですよね。
何かございましたか?」
「あぁ、だからなのですね。
私達以外に宿泊者は居ませんでした。
特には・・・美味しい夕飯を頂いたくらいですかね?」
アリスが隣の武雄に聞く。
「ええ。そう言えば村長さんの帰宅が遅かったのですが、何かあったのですか?」
武雄は局長に確認をする。
「それでしたらこの西町で村長を集めて会議をしていました。
ちょうど各村の特産品の話を打ち合わせていましたね。」
「ほぉ、何かありそうですか?」
「いえ・・・正直な話、特産品になるような物は出て来なかったですね・・・」
局長がガックリとうな垂れる。
「ん?・・・昨日泊まった所の村長さんからも何も意見は出なかったのですか?」
「え?特にはなかったですね。
気になったことがありましたか?」
局長が聞き返してくる。
「・・・アリスお嬢様、昨日の野菜の塩漬けどう思います?」
「そうですね・・・美味しかったですよ?
野菜の塩漬けは珍しいですからね。」
「塩漬けですか?」
「ええ。村長さんの所では代々夕飯に野菜の塩漬けが出ているそうです。
ここら辺ではそういう風習はあるのですか?」
「いえ、そういった事は聞いたことがありません。」
「なるほど。ならば本当に村長さんの家のみで食べているのでしょうね。
これ・・・商品になるかもしれませんね。」
「「え!?」」
アリスと局長が驚く。
「何を驚くのです?」
「いえ、ただの野菜の塩漬けですよ?」
「そうですね。でもただの塩漬けでなければ良いのでしょう?」
「それに販路についてもいくら野菜を塩漬けにして日持ちさせる様にしても限度が・・・」
「西町で消費すれば良いでしょう?
それに樽に仕込んだ状態で街に納入しても良いですし。
やりようはいくらでもあります。」
「はぁ・・・塩漬けがそんなに売れますでしょうか?」
局長が訝しむ。
「あぁ・・・残念ながら大量には売れないでしょうね。
でも、酒場とかで料理を頼む際に一緒に口直しとして出すなら売れそうです。
なので小口の納入をしてみるのも手ですね。
それに塩漬けも塩のみを入れるのではなく柑橘類も入れてさっぱり感を出せばまた違った味になるでしょうし。
塩加減も濃い物や薄い物を作ってみるのも良いでしょう。
まずはいろいろ試してみんなで協議するのが一番です。
まぁ、あくまで私の考えですから後は西町の皆で考えて、それでも『ない』と考えるならそれまでです。」
「タケオ様、随分、簡単に諦めますね。」
「おや?アリスお嬢様、何か?」
「いえ、他のはもっと粘った様な気が・・・」
「はは。塩漬けはハッキリ言って独占はできません。
何しろ誰でも簡単に作れてしまいますからね。
むしろそれが地域の特性が出て面白いのですけど。」
「それはどういう事でしょうか?」
局長が聞いてくる。
「簡単な話なんですけどね。
要は『なんで野菜を塩漬けにしたのか?』という事を考えた時にたぶん、村長さんのお母様は『野菜が不足する時期でも家族が野菜を食べられるように』と思って作っていたのではないかと考えられるのです。」
「はい。」
「じゃあ、野菜を塩漬けにと思った時に手元に残っている野菜は何でしょう?」
「・・・あ、村で一番作られている野菜を塩漬けに?」
アリスが少し悩んでから答える。
「ええ。出荷に間に合わなかった、もしくは出荷する量を越えて余った野菜を使うのが良いでしょう?
そうすると各村で一番作っている野菜が塩漬けに適しているのです。
余剰野菜ですね。
となると、各村で特色が出てきます。
今回はキャベツでしたが、ニンジンもあるかもしれません。ナスは?キュウリは?白菜は?
ほら、その村の特色がどんどん出てくるでしょう?」
「なるほど。」
局長が頷く。
「この間のウィスキーは製法が独特なのであれは秘匿するべきです。
他社がまねできない様にすることによって利益を独占し、町の発展、領内の発展が望めます。
逆にこういった漬物とか各村で重複が起こりやすい物は基礎的な製法を各村に教え、各村の農産物を使った物を作り出す方が町の発展になります。」
「はぁ・・・考え方はいろいろあるのですね。」
アリスが感心する。
「例えば、各村からニンジンの漬物、キャベツの漬物、キュウリの漬物等々一品ずつ瓶詰を作って貰って、町で数個まとめて箱詰めして売り出しても良いかもしれませんね?」
「なるほど。」
局長は頷く。
「まぁ、きっかけはこんな感じですが、あとは局長さんが実際に食べてみて判断するのが一番です。
他に何か特産品が出てくるかもしれませんから。」
「はい、わかりました。
とりあえず、明日にでも村長に持って来て貰って試食してみます。」
「ええ。まずは食べて、何が出来るか考える事から始めないといけませんね。
と、随分話してしてしまいましたね。
挨拶だけのつもりでしたのにすみません。」
「いえ、特産品の考えを貰って感謝しております。
今日は他にどこかに行かれるのですか?」
「明日は野宿になる予定ですので、食材を買って仕込みを始めます。
マッタリと過ごさせてもらいます。」
「そうですか。もし宜しかったら王都からの帰りにもお寄りください。」
「はい、わかりました。」
「ええ。では、局長、お仕事中にわざわざありがとうございました。
あ、見送りは結構ですよ。」
「はい、畏まりました。
良き旅を。」
武雄とアリスは席を立ち、局長の言葉に頷きながら執務室を後に後にするのだった。
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