第281話 旅の2日目 西町に向け出立とゴドウィン伯爵夫妻の朝のティータイム。
「「・・・」」
武雄とアリスは出立の準備をしてから母屋で朝食を取ろうと来たのだが、目の前の光景をどうすれば良いか迷っている。
「申し訳ございませんでした!」
村長さんと奥さんが二人が母屋に来た瞬間に土下座してきた。
「・・・あの・・・何があったのでしょうか?」
アリスは、何が起こっているのかわからず聞き返す。
「アリス様とは気が付かず、申し訳ありませんでした!」
「あの・・・別に特別扱いはしなくて構いませんよ。
むしろ、日常の村の様子を見れて良かったのですが。
ねぇ、タケオ様?」
アリスは武雄に応援を求める。
「はい。普段、村がどんな感じなのか見たかったので今回の対応は非礼でも何でもないですよ?
確かに何か正式な行事とかだったらちゃんとしないといけませんけど、今はただの旅人です。
何も特別な事はないです。」
「うぅ・・・そう言って頂いてありがたいです。」
「はぁ・・・こんな雰囲気では朝食はいただけませんね。」
アリスはため息をつく。
「そうですね・・・奥さん。」
「はい!」
「申し訳ないのですが、お昼用のパンと一緒に朝食を包んで貰えますか?
道すがら食べますので。」
「はい!わかりました!」
村長の奥さんは、駆け足で机に向かい朝食を簡易バスケットに詰めていく。
と、すぐにこっちに持ってくる。
武雄とアリスは苦笑するしかなかった。
・・
・
「村長、奥さん、一晩ですが、お世話になりました。
行ってきます。」
アリスはそう言い、武雄は会釈をして馬の手綱を持ちながら村の入り口に向け歩き出すのだった。
------------------------
ゴドウィンとジェシーとゴドウィン伯爵軍の騎士団長のボールドが朝食後の客間でのんびりと打ち合わせをしている。
「はぁ・・・それにしても帰りも昼夜走り切るとは思わなかったな。
屋敷に着いたのが昨日の夜だぞ?」
「あら?帰りはゆっくりだと思った?
残念でした。」
ゴドウィンのため息にジェシーが苦笑する。
「お二人とも行動が早くて助かりますね。」
ボールドがため息をつく。
「で?スタンリー、朝から来るなんてどうしたの?」
「そうだな、いつもは昼過ぎに来るのに。」
「先ほど朝一で報告が来たのですけど・・・ちょっとした変化なのですが不可解なので。
一応、耳に入れておこうと思いまして。」
「ふむ・・・何があったのだ?」
「国境の関の警備兵からの報告なのですけど。
相手のフルプレートの数が少なくなったそうです。」
「・・・今までに聞いた事がない報告だな。
いつもは8名いるんだったな?」
「はい。向こうもこちらもフルプレートの騎士8名を見える位置に常に配置するという慣例をしていますが・・・
2日前から2名になっている様です。
少なくともここ20年・・・戦争の時ですら見せ合う事をしていたのです。
こっちの勤務体系で考えれば8名を見せる為には2個小隊を常駐させて順々に交代させるのですが・・・
2名しか見せないなら・・・もしかしたら半個小隊くらいになっている可能性もあります。」
「ふむ・・・ジェシーどう思う?」
「いや・・・どうと言われても・・・
そうねぇ・・・いくつか考えられるわよね。
戦争の準備の為に下げた。
魔王国内で緊急的な何かが起きて下げざるを得ない状況下になった。
相手の領主が変わった。
相手の戦略が変わった・・・かしら?」
「うむ、そのぐらいだろうな。
だが、こちらの戦略は変わらずだ。
現状、こちらから戦を仕掛けることはない。仕掛けられたら追い返すまでだ。」
「はい。我々もほぼ慣例化している戦争で命を落とすほど馬鹿ではないですが・・・
万が一の際には命を張る準備も心づもりは出来ています。」
「それでいい。
現状では緊急時に関を閉じて増援の時間を稼ぐしかないだろう。
常駐兵には、その権限は渡しているよな?」
「はい。」
「関があるのは親父殿の所か。
ロバートの所は森を介して面しているが・・・一応、両伯爵にもその旨は、伝達してくれ。」
「わかりました。緊急伝令を走らせます。」
「アナタ、王都にはどうします?」
「難しいな。向こうで何かしら変化があったのは間違いない。
だが、あくまでまだ国境の兵士の変化だ。
・・・一応、王都の軍務局長宛に『国境で微細な変化があり、今後注意を払っていく』と伝令を走らせるか。」
「そうね、それが良いわね。」
「わかりました。そちらも対応します。」
「あ、そうだ。スタンリー、あなたもタケオさんに会ったのですよね?」
「タケオ?」
「あぁ、親父殿を助けた奴だ。」
「ええ、私が見つけましたからね。
ほのぼのとしていましたが?
そう言えば彼は今何をしているのでしょう?」
「アリスの婚約者になったわよ?」
ジェシーの言葉にボールドが一端部屋の中にある日にちを確認する。
「・・・早いですね?」
「電撃婚約ね。
まぁエルヴィス家は電撃結婚が好きだから。」
ジェシーがクスクス笑う。
「あぁ、お前もレイラも電撃的だったな。」
ゴドウィン伯爵がため息をつく。
「あら?良い奥さんでしょ?」
「あぁ、全く俺にはもったいないぐらい出来過ぎている。」
「ふふ。
それにしても良くあの鮮紅を射止めましたね?」
「スタンリー、言葉を飾らなくて良いわよ?」
「良くあの鮮紅を娶ろうという気になりましたね?」
「そうなのよ・・・それだけでもタケオさんには感謝しちゃいますよね。
あ、ちなみにタケオさんは1対1ならアリスの攻撃を防げる唯一の人物だからね。」
「なるほど、それならあの異名にも臆することはないでしょうね。」
ボールドが苦笑を返すのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。