第280話 旅の1日目 村の散策と日にちの確認。ってか何で聞かないの?
武雄とアリスは部屋に荷物を置き、金銭と武器を持って村の散策に出かけている。
冒険者組合のカードはコートのポケット内に仕舞っている。
ミアはアリスのポケット内で熟睡中。
「んー・・・タケオ様、何もないですね?」
「のどかな田園ですね。
・・・まぁパッと見・・・何もないのは確かですが・・・」
武雄は辺りを見回すが、畑と思われる土地が一面にあるだけだった。
「確か小麦は冬の種まきでしたよね?
・・・今はいつぐらいでしょう?」
武雄はこっちに来てからカレンダーをみたことがなかった。
屋敷内にないので感覚で過ごしているのかと思っていたのだが・・・
「今日は11月の14日目ですよ?
何を当たり前の事を聞くので・・・あれ?タケオ様から日にちを聞かれたのは初めてでしたかね?」
アリスはキョトンとしながら聞いてくる。
「はい。
あまり気にしていませんでしたね。
こっちの年月日の仕組みを聞いていませんね。」
「はぁ・・・なんでそれで生活が出来たのでしょう?」
アリスはため息をつく。
「フレデリックさんのお陰ですね。」
武雄はクスクス笑う。
アリスは、ジト目で見てくるが武雄は気にしない。
「はぁ・・・良いですか?
今日は11月の14日目です。」
「はい。」
「1年間は360日、1か月は30日で年12か月あります。1か月は5週で1週間は6日です。
3月から5月を春、6月から8月を夏、9月から11月を秋、12月から2月を冬としています。
で、12月に1年が終わり、1月から新年となります。」
「はい。」
「で、寄宿舎に入ったり修了したりするのは4月になります。
王都や伯爵家への文官、武官の採用は6月ですね。」
「ん?1月から新年なのならば1月採用ではないのですか?」
「文官、武官の採用が6月で移動に2か月かかると見ているので、それに合わせて養成機関が設定しているようですよ?」
「そうなのですか・・・4月だと丁度、小麦やライ麦の収穫前で空いている期間になるから人の移動も楽なのですかね?」
「さて・・・どうなのでしょう?
慣例化しているので・・・ちょっとわからないですね。」
「へぇ。それにしても日にちを毎日覚えているのですか?」
「いえ?家の中にあったではないですか。玄関にありましたよ?
タケオ様は見ていないのですか?」
アリスは呆れながら聞いてくる。
「・・・日にちがわかる物がありましたか?」
武雄は頭の中を検索し、玄関を思い浮かべるが・・・それらしい物の見当がつかない。
「はい。帰ったら教えますが・・・執事やメイド達が毎日、確認していますよ?」
「んー・・・ちなみに先ほどの村長さんの所にも?」
「いえ、ありませんでしたね。
玄関先ではわからない所にあるのかもしれませんね。」
「なるほど・・・まぁ、良いです。
アリスお嬢様が居ればそこは問題ないでしょう?」
「はぁ・・・日にちと時間は生活の基本なのですよ?」
アリスは再度ため息をつく。
「まぁまぁ。後日、ちゃんと見て覚えますから。」
武雄は苦笑する。
・・
・
「話しながら歩いていたら村の入り口に来ちゃいましたね。
タケオ様、ご感想は?」
「そうですね・・・畑ですかね。」
「畑?」
「ええ。まぁ今は冬なので種まきの為に順々に畑を耕す時期なのでしょうけども。
もう少し、栽培期間の短い野菜を種まき前に収穫できるようにすればいいかなぁ・・・と。」
アリスは周りを見る。
「確かに、ここから見た感じでは、野菜の栽培がほとんどされていませんね。
区画が違うのかもしれませんが。」
「ですね。ここは小麦の区画で違う所が野菜の区画なのかも知れないですね。
エルヴィス邸に戻ったら皆に聞いてみましょうかね。
・・・じゃあ、部屋に戻って、昼寝とお茶を楽しみながらダラダラ過ごしましょうか。」
「はい。」
アリスと武雄は今来た道を引き返すのだった。
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夕飯も済ませ武雄は母屋の前で食後の一服を楽しんでいる。
決してアリスが体を拭くからと部屋を追い出されたのではない。
「ふぅ・・・天気が崩れなくて良かったですね~。」
武雄は独り言を言いながらのんびりとしていると厩から男性がこっちにくるのがわかる。
「こんばんは。」
武雄は先に声をかける。
「ん?旅人さんかい?」
「はい。一泊させていただいています。」
「ほぉ。私は、この村の村長をしている者だよ。」
「ご不在の時にお伺いしてしまってすみませんでした。」
「いやいや、構わないよ。
うちのカミさんは、ちゃんと対応したのでしょかね?」
「はい。
夕飯も頂きました。美味しかったです。」
「はは。うちの村は、あまり狩りをしないからなぁ。
野菜ばかりだったでしょう?」
「確かに野菜の種類は豊富でしたね。それに塩漬けのキャベツは特に美味しかったです。」
「お、そう言って貰えて嬉しいですな。
この国では、野菜の塩漬けはあまり出ないですから珍しかったのではないですか?」
「ええ。」
「味も素朴でしたでしょう?物足らなくはなかったですか?
私にとっては、あの塩漬けのキャベツは小さい時から食べているので、あれを食べないと一日が終わった感じがしないのですよね。」
村長は苦笑する。
「確かに素朴ではありましたが、物足らなくはなかったですよ。美味しかったです。」
武雄の言葉に村長は頷く。
「さて、明日は朝食をいただいたら出立しますので、私は寝かせていただきます。」
「はい、わかりました。ゆっくりと休んでください。」
と、武雄は村長に挨拶をして部屋に戻って行った。
・・
・
「ただいま。」
村長は武雄を見送った後、玄関を入る。
「あら、アナタ。おかえりなさい。」
村長の奥さんは明日の朝食の準備をしながら声をかけてくる。
「今、玄関の所で旅人さんと話したが・・・」
「あぁ、軒先でパイプを吸って良いか聞かれたのでね。
良いわよって答えたのよ。」
「ほぉ。
真面目そうな方だったな。」
「綺麗な女性も一緒に旅をしているのよ。」
「ほぉ、ちゃんと台帳には書いて貰ったか?」
「書いて貰いましたよ。
机に置いてあるから後で見てくださいね。」
「ん、とりあえず夕食後に見るかな。
今は腹が減っていてね。」
「はいはい、もう出来ていますから。」
と奥さんは、机に食材を並べていくのだった。
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