第279話 旅の1日目 村へ到着。
9時課の鐘が鳴って少し経った辺りで村の入り口に二人は到着した。
「んー・・・アリスお嬢様、私の気のせいですかね?
旅人や商隊の幌馬車が見当たらないような気がするのですけど。」
「平気です、気のせいではないですよ。
私もそう見えますから。
・・・とりあえず、村長の所に行ってみましょうか?」
武雄とアリスは馬を降り、村の中に入って行く。
と、少し歩くと農機具らしき物を担いで歩いている初老の村人を発見し、武雄は思い切って声をかけてみる。
「あの・・・すみません。」
「ん?旅人さんかい?」
「はい、お仕事中でしたか?」
「いやいや、終わったとこだよ。
今から家に帰るんだよ。
それにしても旅人がこの村に来るのは珍しいなぁ。
兄ちゃん、美人さんを連れて羨ましいなぁ!
んで、どうしたんだい?」
「いえ、今日こちらの村に泊めていただきたいのですが・・・村長さんの家はどちらでしょう?」
「ほぉ、今日は泊まるのか。
このまま真っ直ぐ行って、一番大きな家が村長の家だよ。
今なら奥さんが居るんじゃないかな?」
「ありがとうございます。
行ってみます。」
武雄とアリスは会釈をして言われた家を目指す。
・・
・
程なく言われた通り、大き目の家があり玄関の扉をノックする。
「はいはい、どちら様~?
おや?旅人さんかい?」
恰幅の良い老齢の女性が出てきた。
「こんにちは。
実は本日、こちらに泊まらせていただきたいのですが・・・」
「ああ、構わないわよ。
それにしてもこの村に旅人さんが来るなんて珍しいわね。
普段なら距離的に隣の村に行ってしまうのよ。
離れに二部屋旅人用に用意してあるわ・・・二部屋にする?一部屋が良い?」
「一部屋でお願いします。」
「はいはい、わかったわ。
ちょっと待っててね、久しぶりだから宿の台帳がどこだったか・・・
探してくるからちょっと表で待ってて頂戴。
あ、馬は厩に入れてくださいね。
飼料も与えて良いですからね?」
「はい。では、馬を置いてきます。」
「よろしくね。」
奥さんは奥に行ってしまう。
「では、タケオ様、馬を休ませに行きますか。」
「ですね。ミアは?」
「私のポケットで寝てます。」
二人はのんびりと厩に向けて馬を引いて行く。
・・
・
馬を厩に入れ、飼料を与えてから玄関脇の椅子に二人して座ってお茶を楽しんでいる。
「はぁ・・・意外と疲れていますね。」
アリスは背を伸ばしながら言ってくる。
「そうですね。
明日もこのくらいの時間に着いたら良いですよね。」
「明日はどこまで行くのですか?」
「そうですね。
明日は隣の西町まで行きたいですね。
こことは違って商隊や旅人が多そうですから・・・宿屋に入れるのか・・・
ちょっと不安ですね。多分昼過ぎには着けるので大丈夫だと思いますが・・・
それと西町局長に挨拶に行かないと失礼でしょうね。
この間の局長会議で顔も合わせましたし・・・」
「それで良いでしょうね。
今日はどうします?」
「さて・・・夕飯は出るのか、自分で作るのかで変わるかと思うのですけど・・・」
と、ちょうど村長の奥さんがやってくる。
「ごめんなさいね。
やっと見つけたわ。
さ、さ、名前を書いて頂戴。」
武雄はノートとペンを渡されたので、上の行に書かれている様に名前を書き、アリスに渡す。
アリスは前のページ、数枚をめくり、流し読みしてから武雄が書いた下の行に書き込み村長の奥さんに渡す。
「はい、これで終わりね。」
村長の奥さんは中身を見ないで閉じてしまう。
「何か聞きたいことある?」
「そうですね・・・
夕飯はどうすれば?」
「うちで用意しますよ。
部屋に持って行ってあげるから・・・晩課の鐘辺りには持っていきますよ。
食器は朝こっちに持ってきてくれるとありがたいわ。」
「はい、わかりました。
湯あみは?」
「ごめんなさいね。
湯あみは2日に1回にしていて昨日してしまってね。
桶に水を入れて体を拭いてくださる?」
「わかりました。
あとは、明日の朝食と昼食用のパンを用意して欲しいのですが。」
「わかったわ、それはこっちで用意しますね。
朝食は1時課の鐘ぐらいから作るから時間を見てこっちの母屋で取ってくれて構わないわ。」
「はい、わかりました。
宿代は?」
「そうねぇ・・・馬の飼料もあったし・・・銀貨2枚で良いわよ。」
武雄は皮の巾着袋から銀貨2枚を出し、村長の奥さんに支払う。
「はい。丁度、貰いました。
部屋の鍵は内側からしかかけられないから貴重品は持ち歩いてね。」
「はい。
では、夕飯まで村の中を散歩しても構わないですか?」
「はは、うちの村は何も見る物はないわよ?
まぁ好きにして構わないわ。
うちの旦那は、今日はたぶん遅くに帰宅するはずだから。
明日の朝にでも挨拶してね。」
「一泊ですが、よろしくお願いします。」
武雄とアリスは、挨拶をして席を立つのだった。
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