第277話 エルヴィス家の居残り中の3人。
フレデリックが客間に戻って来る。
ローを見送る為、フレデリックは一端、退出していた。
「さてと・・・タケオから言われておった用事も終わったの。」
「はい、主。
とりあえず、一段落です。」
「それにしても今の製造量の4倍の納入を要請するのは凄いですね。
そんなにあのお酒は流行る見込みなのでしょうか?」
スミスが呟く。
「うむ。
タケオの考えたトレンチコートとライウィスキーじゃがの。
どちらもこの国にはないのじゃ。
全く存在しない物を流通させるのじゃから、いくらあっても流通は出来るじゃろうの。
ただし、初めての商品は、相手にまずこの商品を知ってもらう事から始めないといけないからの。
それはそれで認知度を上げる努力をしたり、実物を見て確認しないといけないのじゃ。
さっきのローも言っておったろう?
『初出荷分が届き次第、試飲用で配布する』と。」
「言っていましたね。
まずは飲んでもらい、それから交渉をするという事なのですね?」
「そうじゃ、ラルフもローも経営者としては抜群じゃ。
タケオは、たまたま知り合ったから依頼しているが、凄腕の経営者を動かしておるのじゃ。
共にこのエルヴィス領のトップの経営者だからな。
ローは酒屋組合長だし、ラルフは仕立て屋組合副組合長じゃからの。
全く・・・タケオは人との巡り会わせに良い運を持っておるの。」
エルヴィス爺さんは呆れながら言う。
「そのウィスキーを作っているワイナリーは、どのくらいの規模の会社なのでしょう?」
「そうですね。
資料によるとエルヴィス領内に20社程度のワイナリーがあるのですが、上から6位の売り上げと規模を持っています。
そこまで大規模なワイナリーではないですね。
ですが、零細企業でもないので、酒造りの技術もありますし、農家との協議もスムーズにいくでしょう。
それにここは家族経営ですし、一度も赤字になったことがない堅実経営をしています。
社員も毎年1、2名ですが定期採用をしている様です。
先ほどの主の話ではないですが、タケオ様は良いワイナリーに当たりましたね。」
「うむ。
北町局長も融資の説明に行っておるだろうし、ローからも増産要請が行くだろうから・・・
これで動くの。」
「はい。後は我々の融資金額がどこまで出来るのか・・・ですね?」
「うむ・・・最悪は王都からの報酬を当てても良いからの?」
「わかりました、主。
タケオ様にも相談します。」
「タケオの事じゃ。足らないと言ったら、トレンチコートの報酬を全額使いそうじゃの。」
「そうですね。タケオ様は、そもそも金儲けをあまりする気が無いですから気前よく大量に投資しそうです。」
エルヴィス爺さんとフレデリックが苦笑する。
「はぁ、タケオ様には感謝しかないですね。
ここまで凄い企画をポンポン生み出して動かすなんて・・・
・・・ところでお爺さま。タケオ様のお給金はどのくらいでしたっけ?」
「ん?・・・金貨5枚じゃが??」
「・・・他の貴族からお給金の事を聞かれたらタケオ様は答えちゃうのでは?
口止めはしましたか?」
「あ・・・忘れたの・・・」
「・・・まぁ、タケオ様の事です。
ちゃんとその辺はわかっていると思いますよ?」
「そうですか・・・
今のタケオ様の実績だと他の貴族はどのくらいの報酬を出すのか・・・
気にはなります。」
スミスは「むぅ」と唸る。
「そうじゃの・・・その辺も知っておかないといけないの。
特にスミスは来年は寄宿舎だからの。
他の貴族の子弟に言われたら受け答えが出来る様に大体の給金の相場知識を持っておかないといけないの。
タケオに限らず、引き抜きが有った際の対応方法も考えないといけないしの。」
「例えば、お給金を上げるのですか?」
「ふむ・・・それも有効だろうが・・・
金銭で引き抜かれる者はうちの領内では少ないだろう・・・と思いたいのじゃ・・・」
エルヴィス爺さんはガックリと項垂れる。
その姿を見てフレデリックが苦笑する。
「なぜです?」
スミスは不思議がる。
「うむ・・・その・・・
タケオが居ないから言うがの・・・
うちの文官、武官の給金は国内平均より低いのじゃ・・・」
「・・・どのくらい低いのですか?」
スミスの問いかけにエルヴィス爺さんは指を2本上げる。
「は!?2割もですか?」
スミスは驚きの声を上げるがエルヴィス爺さんはコクリと頷くだけだった。
「月々の給金は局長クラスが金貨6枚・・・王都なら金8~9枚は貰っておる。
一応、年末に各部署に年末打ち上げ費用として一時金は出しておるのじゃが・・・
皆、良く付いてきてくれておる。」
エルヴィス爺さんはシミジミと言う。
「そうなのですか・・・
その辺は全然知りませんでした。
他領への引き抜きはないのですか?」
「今の所ないのじゃが・・・」
「そうですね・・・これからはあり得ますね・・・」
スミスの問いかけに二人はため息をつく。
「例の3案件ですか?」
「うむ。上手く行ったら領内の収入が増え、皆の給金にも少しだが反映できるじゃろうが・・・
それでも現状の1割増が良いところかと思う・・・
領内の収支を押し上げた手腕を皆が欲しがり始めるじゃろうからの。」
「困りましたね・・・
何とか良い方法はないでしょうか・・・」
「そうじゃのぉ・・・
タケオが帰ってきたら聞いてみようかのぉ。」
3人はため息をつきながらお茶を飲むのだった。
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