第275話 北町局長の仕事2(融資の案件。)
「さて、エルヴィス家・・・違いますね。
キタミザト様は御社のウィスキーをエルヴィス領の目玉商品にする気でいます。」
「はぃ?」
ウォルト社長が驚く。
「正確に言えば、まずは1つ目なのでしょうが・・・
前に来た際に説明をしましたが、北町で管轄している農場ではライ麦を作っています。
エルヴィス家は、ライ麦の生産高を伸ばすために加工品を探し、御社のウィスキーに目が留まりました。
なので、ウィスキーをエルヴィス領の領民にワイン、ブランデーに次ぐお酒としてに定着させ、定期消費させることを目論んでいます。
ウィスキーが定期的に消費出来るならば農地拡大が今後、見込めると考えています。」
「はい。」
「キタミザト様は、まずは街で流行らせる気でいますが・・・
今のままでは流行らせる事が困難になる可能性を予見しています。」
「え・・・何ででしょうか?」
「先ほども言ったように供給量が少ないのです。
街で流行らせ、定着させるには10000本の製造体制が欲しいのですが、6000本の限界があります。」
「はぃ・・・」
「そこでキタミザト様から4町の局長に新たな指示が出ています。
それは『資金難で困っている事業を見つけ、局長会議にて融資できるのか判断し、将来性がある物については融資する事業を始める』と言う物です。」
「え!?」
「ウォルト社長、北町としても御社は、この融資を受けられる資格があると思っています。
なので、社長がやる気になれば北町として推薦しても良いと考えています。」
「・・・融資に対する条件は何でしょうか・・・」
「エルヴィス家としては経営に関しては何も言いません。
言いませんが・・・売り上げの6~9%程度を返済割合としてエルヴィス家に納付することが融資条件となる見込みです。」
「んー・・・9%ですか・・・」
ウォルト社長が唸る。
「大変厳しい金額なのは我々もわかってはいます。
一応、それとなく財政局長にも聞きましたが・・・順調に御社の売り上げが伸びた場合、2回目以降の追加融資時は返済割合を少なく出来るかもしれないと言われています。」
「すぐの回答は出来かねます・・・
社員達に説明する必要もあります。
考えさせてください。」
「それが良いでしょう。
もし融資の公募に申し込まれるならば、現在の収支報告書と設備投資したい金額をお持ちください。」
「わかりました。
社内で検討して回答をします。」
ウォルト社長は頷くのだった。
と、この間の娘が荷物を持って、部屋に入ってくる。
「お父さん、ただい・・・局長さん!?
すみません、すぐにお茶をお出しします。」
娘は荷物をその場に置き、お茶をいれに行く。
「あ・・・お構い無・・・行ってしまいました。」
ランドルは、断ろうとしたがタイミングを逃してしまう。
「・・・申し訳ありません。
娘は割りと・・・思い立ったらすぐに行動してしまう所がありまして・・・」
「いえいえ、昨今、気がついていても動かない人達も多くなってきています。
あのぐらい行動力がある方が頼もしく思いますよ。」
「そう言って頂いてありがたいです。」
・・
・
娘がお茶を持って入ってきて3名の前に置き、皆から少し後ろに下がる。
「・・・社長さん、気になっているのですが、差し支えが無いなら教えて頂けますか?」
「はい、何でしょうか?」
「娘さんが買って来たのは何でしょう?
包装していますが・・・外観の感じ・・・絵画の様な物ですか?」
「はは、半分正解です。
それをくれるかな?」
娘が置いてある包装された物をウォルトに渡す。
ウォルトが包装を解いて中をの物を取り出す。
「ほぉ、額縁ですか?」
「はい。今回、街の酒屋さんに寄った際にキタミザト様から手紙をいただきましたので、額に入れて飾ろうかと。」
ウォルトの言葉にランドルは不思議がる「手紙を額縁に?」
「これがその手紙なのですけども。」
と、ウォルトは近くの机の引き出しから一通の手紙を持ってきてランドルに渡す。
「見てもよろしいので?」
「はい。」
「ほぉ。」
ランドルは手紙の中身を確認し、感嘆のため息を漏らす。
手紙の内容は・・・
≪内容≫
この度は美味しいお酒をお送りいただきありがとうございました。
エルヴィス家一同楽しく飲ませてもらいました。
御社の考え付いたライウィスキーは革新的な物です。
このお酒はライ麦の生産者様が丹精込めて作ってくださった物を使用し、御社の類稀な発想と不断の努力が合わさって初めて生まれた物と考えております。
今後も良い品質のお酒を造り続けて行かれる皆さまに感謝を述べさせていただくと共に北町の産業発展の中核を担って頂けますよう、ご期待申し上げております。
・・
・
「社長、これは従業員の方にも?」
「はい。
皆に読み聞かせました。」
「どうでした?」
「社員一同、感動しました。
伯爵家からの感謝状も初めてですし・・・何より私共が作ったお酒を楽しく飲んで頂いた。
生産者としてこれ以上の褒め言葉はありません。」
ウォルトは嬉しそうに言い、娘もにこやかに頷く。
「ふふ、キタミザト様は行動が早いです。
社長、この文言・・・もう一度読んだ方が良いですよ?」
「はい?
そう言えば・・・街の酒屋さんからも『キタミザト様が動くとそれに巻き込まれた商店は大忙しになるので覚悟した方が良いですよ?』と言われましたが・・・」
ウォルトがもう一度、手紙を読み返す。
「・・・あ・・・そう言う事ですか・・・」
ウォルトはガックリとする。
「お父さん?どうしたの?」
娘が父親の落胆ぶりに驚き、聞いてくる。
「いや・・・今、局長さんからウォルトウィスキーの増産をしないかと言われてね?」
「はい!?今日が初出荷なのに!?
それに資金も・・・」
「うん、その設備資金についてエルヴィス家からも捻出する事も説明されたよ。」
「融資・・・」
娘はその場で思案し始める。
「その説明を聞いた後にこの手紙を読むとね・・・
キタミザト様は、うちのライウィスキーを北町の産業の中心に据えると考えている事。
ライウィスキーの品質を落とさないよう努力する事。それは農家も含めてね。
そして品質を落とさず、発展させるとするならば増産するしかない事。
と、手紙に説明書きがされているのですよ。」
「え?・・・そんな風にこの手紙は読み解くの?」
「はは、裏を読むとそうなります。
ただし、キタミザト様は『期待する』と書いてあるでしょう?
つまり『エルヴィス家は本気で動きますから決めるのは社長ですよ?』と投げかけているのです。」
「はぁ・・・お父さん・・・どうしましょう?」
娘はため息を漏らす。
「そうだな・・・局長さん。
とりあえず社内で話し合います。
で、どんな結果になろうともご説明に上がります。」
「わかりました。
先ほども言いましたが、融資の公募に申し込まれる際は現在の収支報告書と設備投資したい金額の内訳をお持ちください。
社長、私はこのライウィスキーはキタミザト様が言われるとおり、北町の中核産業になりえると思います。
社長がやる気になれば我々北町の文官一同バックアップしていきますからね。」
「はい、わかりました。
熟慮いたします。」
「では、我々はお暇します。」
と、ランドル局長と若手が立ちあがり退出していく。
「社長、またきますね。」
「はい、わかりました。」
ウォルト社長も立ち上がり見送る。
娘は玄関まで案内しに一緒に退出して行った。
・・
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ウォルト社長は立ったまま、娘が戻るのを待つのだった。
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