第274話 18日目 起床と出発。北町局長の仕事1。(聞き取り調査。)
「・・・」
武雄はすんなりと目覚める。
腹部への強烈な刺激・・・アリスの膝蹴りがない。
武雄はボーっとしながら「なぜ?」と思いアリスが寝ているであろう左を見ると・・・居ない。
右を見ると・・・居ない。
武雄が体を起こし周りを見る。
「・・・んー・・・初めての出来事で思考が停止していますね・・・」
頭の回転がまだまだ上がってこない武雄は自身の今を分析してみたりする。
と、寝室の扉が開き、アリスが入って来る。
寝間着ではなく旅用の格好に着替えが終わっている。
「ん?タケオ様、おはようございます。」
「アリスお嬢様、おはようございます。」
「起こしてしまいましたか?」
「いえ?ちょうど起きた所です。
起きたら隣に居るはずの美人が居なくて焦りましたが?」
「あぁ、その美人さんならちょっとお花摘みに行っていましたよ?」
「そうでしたか。
今日は随分と早いですね?
ちゃんと寝れましたか?」
武雄は時計を確認し、まだ5時前後なのを見てアリスに言う。
「ええ、寝ましたよ?」
「・・・そうですか。
じゃあ私も着替えますかね。」
武雄はベッドを出てモソモソ着替え始めるのだった。
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朝食を取り終え、客間で朝のティータイム。
「アリス、タケオ、ミア、気を付けて行くのじゃぞ?」
「はい、お爺さま。わかっています。」
「了解です。」
アリスとミアが答え、武雄は頷く。
「タケオ様、忘れ物はありませんか?」
「越境許可も持ちましたし、テイラー店長からの問屋さんのメモも持ちました。
リュックの中身は、さっき3回確認しましたし、小銃改1も持ちました。
忘れ物はないですね。」
フレデリックが最終確認をしてくる。
「アリスお姉様、タケオ様、いってらっしゃい。」
「はい。スミスも病気とかに気を付けてね?」
「スミス坊ちゃん、いってきます。」
「では、お爺さま、フレデリック、いってきます。」
武雄とアリスはリュックを担ぎ客間を後にする。
・・
・
厩にはアリスとタケオの馬が準備されていた。
二人は騎乗し、ゆったりと馬を進めるのだった。
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「・・・忙しそうだな?」
「・・・そうですね。」
ワイナリーに来たランドルは、隣にいる若手に聞く。
ワイナリーは幌馬車を2台倉庫前に付け、木箱内に割れない様に酒瓶を固定し、次々と荷台に積み込んでいた。
「さぁ初出荷だ。」「やるぞ!」等々従業員が慌ただしく動いている。
そんな光景を馬車を降りた2人が倉庫の陰から覗き見ている。
「ん?・・・え?局長さん!?」
2人はウォルトに見つかる。
「あ、社長、おはようございます。
また突然で申し訳ないですがきました。」
若手が社長に挨拶する。
「いえいえ、いつ来られても構いません。
立ち話もなんですからどうぞ、中に。」
社長は朗らかに答え二人と一緒に応接室に向かうのだった。
・・
・
3人は席につくとランドルの方から話題を振る。
「社長、エルヴィス家にお酒を届ける件ですが、ありがとうございました。
キタミザト様から『無理を言ってすみませんね。』と労われました。」
「いえいえ。
それにしてもキタミザト様はどんな方なのでしょうか?」
「どうかされましたか?」
「いえ、持っていった際に帰りに酒屋に寄って行くように勧められたのですが。
行ってみたら私共と街の酒屋とキタミザト様の3者契約の話を持ちかけられまして・・・」
「ほぉ、いきなり言われれば困るかもしれませんね。
契約されなかったので?」
「いえ!うちに取っては、かなりの好条件でしたので、即答でお受けしました。
簡単に言うとこの『ウォルトウィスキー』全樽を買い付けて貰える契約になっています。」
「それは・・・酒屋さんは、随分思いきりましたね?」
「はい、私もそう思います。
北町の酒屋では相手にもしてくれなかった酒をいきなり全樽買うと申し入れてくれまして・・・
私共としてはとてもありがたいのですが・・・
本当に売れるのでしょうか?」
「ふむ・・・売れる見込みがあるのでしょうね・・・
酒屋さんは全樽買うのですか?」
「はい。契約書も先ほどサインしまして、エルヴィス伯爵様の所にお送りした所です。
そして、初回の出荷で1樽分を瓶詰めにして発送することになっています。」
「1樽から何本くらい出来る予定ですか?」
「一応、250本出来るようになっています。」
「ふむ・・・街と4町にも卸すのでしょうから・・・
・・・足りませんね。」
「え?」
ウォルト社長がランドルの言葉に驚く。
「初回250本・・・あと13樽ありますから追加で3250個発送なのですが・・・
足りませんか?」
「はい、足りませんね。
実は社長がエルヴィス伯爵の所にお酒を持って行った次の日にエルヴィス家所属の全局長達にウィスキーが配られています。
そして我々局長達はこのウィスキーが普通に売れる物だと認識しています。」
「え?」
「騎士団長と兵士長も自分たちの部下が気に入ると言っていましたね。
部下が総勢1100名を超える部署のトップが気に入ると太鼓判を押すのです。
部下の半数が気に入ったとして550名・・・
購入に至るのがさらに3割として165名・・・
月2本購入するとして330本×12か月・・・年3960本。
街の酒屋さんはそれを見込んで買っていますね。
さらに街の酒場に卸すとして・・・年2000本以上は絶対必要でしょう。
と、するならば将来的に年6000・・・いや7000本を供給出来る体制を取らないといけませんね。
さらにエルヴィス領の各町や他領へも卸すことになれば・・・年10000本の供給能力が欲しいところですね。」
「・・・流石にうちの蒸留器を使ってだと・・・年24樽の製造が限度です。
瓶にすれば6000本が限度になります・・・
増産するためには蒸留器等の設備を増やさないと・・・そんな余裕は今の所ないです・・・」
ウォルトはガックリとうな垂れる。
「ふむ・・・なるほど。
キタミザト様は流石ですね。」
「え?」
ウォルト社長がランドルの呟きに驚きの表情を見せる。
「では、社長。
今回私が来た用向きを説明します。」
ランドルは説明を始めるのだった。
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