第271話 17日目 夕食後の報告会。(周辺諸国の裏事情を考察してみよう。)
夕飯後、客間に皆が移動する。
フレデリックが食後のお茶を入れ、皆の前に置き、皆から少し後ろに下がる。
ミアにはリンゴの搾りたてジュースが出されていた。
「さて、今日はタケオ達は何をしておったのじゃ?」
「今日は冒険者組合にまず行って登録をしてきました。」
「ふむ・・・ランクは何になったかの?」
「私もタケオ様もAランクですね。」
「「ほぉ。」」
「流石ですね。」
エルヴィス爺さんとスミスとフレデリックが感心する。
「やはり凄い事なのですか?」
タケオが聞き返す。
「うむ、わしはBランクかと思っておったのじゃ。」
「そうですね・・・アリスお嬢様がAランク、タケオ様はBランクかと。」
「僕は二人ともAランクと思っていましたよ。」
「なるほど・・・アリスお嬢様的には?」
「私は・・・特に何も・・・登録が出来て、お金が預けられれば良いなぁ・・・くらいで。」
「あぁ、私も同じに思っていました。」
タケオとアリスは自分たちの評価を全く気にしていなかった。
「うむ・・・二人とも気にしなさすぎじゃぞ?
Aランクならば上位15%以内じゃ。」
「そうは言っても・・・ねぇ?」
アリスが苦笑しながら武雄に話をふる。
「ええ、私達は別に冒険者になるつもりもないですし・・・
まぁお小遣い稼ぎにはなりますけど・・・」
アリスも武雄も別に上位に居ることに拘っていなかった。
「はぁ・・・全く・・・その辺がこの二人は普通じゃないの・・・
タケオは上位を目指さなくて良いのかの?」
「ええ、特には。
今のままで十分楽しんでいますし、エルヴィス領の政策を考えている事の方が面白いですね。
討伐依頼なんかも必要とあらば参加するかもしれませんが・・・
今の所、生活に困るくらい魔物が居るようでもないですし。」
「そうですね。
そう言えば、タケオ様。冒険者組合から資料を貰っていましたよね?」
「はい、これですね。」
タケオは上着のポケットから書類を取り出す。
「2か月に1度出てくる分布状況かの?」
「はい、2か月前の情報だそうです。
ちなみに今後は魔物の目撃情報が急激に増えた場合も知らせてくれるそうです。」
「うむ。」
エルヴィス爺さんとフレデリックが頷く。
「で、タケオ様的には、どう思いましたか?」
スミスが聞いてくる。
「いえ、まだ見てないですけど・・・」
武雄はそう言いながらパラパラ流し見をする。
「へぇ、この国内の地域別の魔物の分布も記載されていますね。
冒険者の人数は魔物の数にやはり比例していますね・・・
・・・ん?・・・んん?・・・」
武雄は資料の途中を交互に見比べる。
「タケオ様、どうしたのですか?」
スミスが聞いてくる。
「いえ・・・魔王国に面している3伯爵領に魔物が多くいるのはわかりますが・・・
なんでカトランダ帝国とウィリプ連合国の国境付近も多いのですか?
魔王国と正反対でしょう?
逆に言えば、カトランダ帝国側がこのぐらいなら3伯爵領はもっと多くても・・・
あれ?カトランダ帝国?ウィリプ連合国?・・・」
「タケオ、どう思う?」
エルヴィス爺さんがニヤリと笑いながら聞いてくる。
「・・・カトランダ帝国は魔王国と繋がっている?
それをドワーフが仲介している・・・
いや・・・違う・・・元々ウィリプ連合国が奴隷制をしている・・・
魔王国とは船で行き来できるはず・・・季節に関係して風は吹くだろうし・・・
陸路での輸送をしている?・・・え?・・・でも・・・」
武雄はブツブツ独り言を言いながら思案する。
皆は武雄が結論を出すのを何も言わずに待っている。
「・・・エルヴィスさん・・・フレデリックさん・・・
最悪を考えると周辺の国は全部繋がっているのですか?」
「うむ・・・やはりそう見るかの?」
「タケオ様もそう考えるのですね。」
エルヴィス爺さんとフレデリックは頷く。
「ええ、この資料を見ると不自然です・・・
魔物にも生息地があると想定しても魔王国と面している3伯爵領と同じ発生数を面していない所で発生するならば・・・そう見るのでは?
まぁさっきのよりマシで人身売買の組織が繋がっていると言うのが次の想定です。」
「タケオ様、ウィリプ連合国には魔物・・・奴隷を密輸して・・・魔王国は何を仕入るのですかね?」
「え?人間でしょ?」
アリスの質問に武雄は当たり前の様に答える。
「「え?」」
アリスとスミスが驚く。
「そもそも、アズパール王国は、ほぼ人間国家なのでしょう?
で、魔物と戦う・・・理由は魔物の食事にされるのを防ぐと考えるのが普通では?
・・・あぁ・・・だからあの空白地帯にアズパール王国は何もしないのですか・・・」
武雄は何かを想ったのか、ため息をつく。
「ふむ・・・タケオもうちの王国の暗部を知ったの。」
「どういうことです?」
エルヴィス爺さんの言葉にフレデリックは頷き、スミスが聞いてくる。
「ウィリプ連合国は奴隷を手に入れ、魔王国は食材を手に入れています。
魔王国の食人魔物はそれで満足している為、アズパール王国という牧場を野放しにしているのでしょう?
この供給を止めてしまえば、一気に魔王国とアズパール王国との全面戦争に突入する危険性が高いから、他国の人身売買を見なかった事としている・・・ですか?」
武雄が代わりに説明する。
「え?」
スミスが驚く。
「アズパール王国は人身売買も奴隷も認めていないのです。
なので、国内でその輸送を見つけたら検挙し、元の国に送り返しています。
ですが・・・一端では、そのお陰で大規模な戦闘に至っていないと王都は考えています。
なので、アズパール王国内に入らなければ手出しをしていないのです。」
「だから、ここ100年ほどは小規模な戦いをして過ごしているのでしょう?
どの国も事情があって危うい均衡の上に成り立っていると・・・
これは・・・不味いですね。」
「うむ・・・特に魔王国に面している3伯爵領はの。
どこかの均衡が崩れた時に矢面に立つ可能性が高いと考えておる。」
「この考えを知っている者は?」
「うちでは、ハロルドとデビットと軍務局・・・あとは総務局長と総監部じゃの。」
「なるほど、危機管理部署は知っているのですか・・・
王都に問い合わせはできないでしょうし・・・陸路を遮断して確かめるにはリスクが高いですね。」
「はい。
うちの文官達もいくら他国であっても人間が売られているのを快くは思っていないのは確かです。
ですが、今の所、打つ手がありません。」
フレデリックもため息をつく。
「タケオ様、何とかなりませんか?」
アリスが聞いてくる。
「現状では無理ですね。
ウィリプ連合国から売られている人達には申し訳ないですが・・・
アズパール王国もエルヴィス領も準備が出来ていません。
今のままを望みますね。」
「そうですか・・・今からしておくことはあるのでしょうか?」
スミスが聞いてくる。
「うむ・・・一応食人をしない人型の魔物の居住を許可して、国内の人口を増やそうと考えておる。
アズパール王国は基本的に法と秩序を守るならどんな種族でも国民として認めておるからの。」
エルヴィス爺さんの言葉に一同は苦い顔をするのだった。
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