第268話 兄弟家族の話。(ウィリアムとレイラのタケオの評価。)
「ウィリアム的にはタケオの事はどう思っている?」
クリフが聞く。
「独特ですね。
どの貴族にも当てはまらないですね。」
「そうねぇ、タケオさんは独特ね。
あれほどの知識を持っていてもひけらかさないし、秘匿する気もない。
自らは当主になる気もないし、王都に興味も示さない。
エルヴィス領が発展することを願っているし、かといって、領地の事だけでなく自分の為の武器を考えてみたり・・・
何でしょうね?」
レイラが呆れながら言う。
「んー・・・部下としては理想的な人物だな。
当主を亡き者にしないで領地の繁栄の為に知恵や力を奮うか。
私のところに来ていたら厚待遇で迎えるのだが・・・」
クリフは思案しながら呟く。
「ええ。
でも、クリフ兄上、今の結果を知っている私達だからそう言えますが・・・
何も知らされていない・・・何もわからない状況では、雇えたかと言われたら難しいでしょう?
雇ったとして、雇いたての新人に自由に意見を言わせる環境がありますか?」
「う・・・ないな・・・」
「エルヴィス伯爵の凄いところは、懐の深さです。
雇いたての新人に意見を出させ、良かったら即採用する決断力も持っています。
そしてエルヴィス領の文官、武官達は経歴の長さではなく政策の良し悪しを見て動いてくれている。
王都の文官達は人を見て政策を決めることが多いですからね・・・
代々知恵を皆で絞って来たからこそ、人ではなく内容で動く様になっているのかもしれませんね。」
「なるほどな。
領地の経営がギリギリなのだから良い意見は皆で推進する様に組織が成り立っているのか。
羨ましいな。」
ニールが言うとエイミーが頷く。
「んー・・・文官の質はもしかしたら王都を凌ぐのかもしれませんね?
と、そうだ。
兄上達、面白い資料があるのですけど。」
「ん?どうした?」
「何だ?」
クリフとニールは興味深々で聞いてくる。
「王都の文官、武官の中には地方領主からの推薦で入って来る者がいるのは知っていますか?」
「ああ、うちも毎年数名だが推薦して送り出しているぞ。」
「うちもだな。」
二人の兄は頷く。
「実はエルヴィス領とゴドウィン領から送り出されるのは武官のみなのです。
文官を王都に送り出した事がありません。」
「「え!?」」
「この2家は文官に愛されていますよ。
王都に行きたいと名乗りを上げる者がいないのでしょう。
そして、アリスの件でも確認されましたが、エルヴィス家は領民から絶大な人気があります。」
「ふふ、あの街の皆は私と会っても今でも『レイラお嬢様』よ?
あの街に帰ると安心するわ。」
「良い街だったね。
街の住民は僕や父上の正体に気が付いても普通に接してくれるし。
気さくに笑顔も見せてくれる。
まぁタケオさんが居たのも笑顔の理由なのかな?」
「まぁ・・・タケオさんは特殊ですから・・・
タケオさん自体が毎日楽しそうにしていますからね。
そう言えば、お姉様方さっきのお菓子含めてタケオさんが作っている料理・・・タケオさんは何て言っているかわかります?」
「え?・・・あんな凄い物を作って・・・自慢?」
ローナが言うとセリーナもアルマもエイミーも頷く。
「家庭料理。」
「「「「は!?」」」」
その場の女性陣が固まる。
その様子をウィリアムとレイラが苦笑しながら見ている。
「お菓子とはなんだ?」
ニールが聞いてくる。
「レイラ、何を作ったんだい?」
「料理長に頼んでバターサンドを。」
「なるほど、後で兄上達にも渡す様に言っておきます。」
「あぁ、頼む。」
クリフが頷く。
「ますますタケオの事がわからないな。
掴み所がある様でない・・・いや優秀なのはわかるが。」
ニールが悩む。
「知識、武功、政策、戦術、人情・・・全てが高い水準を満たしていますね。
ただ、タケオさんの自己評価は低いですし、自身は許容力が少ないから身近な人以外は優しく出来ない様な事を考えていますね。」
「そうか・・・だから当主にも興味がないのだな?」
「はい。自分が上に立つよりも、立つ人を支える事が好きみたいですね。
エルヴィス家次期当主のスミスをどう育てるか?
スミスの時代をどうするかを考えています。
タケオさんの事はこのくらいですね。
あとは兄上達が実際に会って感じてください。」
「わかった。」
「ああ。」
二人は頷く。
「でも、兄上達がいる間にタケオさんは来ますかね?」
「あ、ウィリアム。さっきアリスから手紙が来て7、8日後には遊びに来るそうよ?
で、タケオさんはカトランダ帝国に視察に行って、アリスは王都で留守番したいって書いてあったわ。」
「わかった、タケオさんは動くんだね。
部屋を用意してくれるように頼んでおこう。」
「タケオは何をしにカトランダ帝国に行くのだ?」
クリフが聞いてくる。
「オーガを30体倒したタケオさんの遠距離攻撃用の魔法具ですけど、その原型がカトランダ帝国製なんだそうです。
なので、カトランダ帝国に行っていろいろ見てみたいと言っていましたね。」
「タケオの魔法具は凄いよな。
うちの魔法師に使わせようかな・・・」
ニールの言葉にクリフが頷く。
「ニール兄上・・・簡単に使えるなら父上が率先して王都守備隊に装備させますよ。」
「そう言えばそうだな・・・なんでしないんだ?」
「1発撃つのに魔力量を150消費します。」
「割りに合わないな・・・」
ニールが難しい顔をし、クリフも頷く。
「ですね。
なので、父上は面白そうだが無駄だと言っていましたね。
タケオさん専用の武器という見方ですね。」
「だな。
しかしタケオは大魔法師なのか?」
「いえ?ファイアとかアクアとか初級魔法しかできませんよ?
タケオさん曰く戦争に参加出来るレベルにないそうです。
だから自身を守れるように武器を考えているそうです。」
「そうなのか?その魔法具があれば向かうところ敵なしだと思うんだけどな・・・」
ニールの言葉にウィリアムとレイラ以外が頷く。
「んー・・・確かに当たれば脅威なんですけどね。
タケオさんも今回はたまたま敵が優雅に歩いていたからと言っていたし・・・
条件が違うなら一旦、直上に打ち上げられる魔法師の方が有利ですかね?」
レイラが苦笑する。
「そうだな・・・
それに原型が他国にあるから供給に不安があるな。
どんな物かはわからないが、うちの国内にそもそもないのだから今後も誰も考え付かないだろうし・・・
そんな武器は小隊以上では採用出来ないな。」
クリフが頷く。
「そうか・・・残念だな。
そのタケオが来るまで俺は居るつもりだが、クリフ兄上はどうします?」
「私達も居るよ。
授与式には参列しないといけないだろう。」
「じゃあ、まずはアリスとタケオさんを出迎えないといけないですね。」
「あぁ、王都が騒がしくなりそうだな?」
クリフの言葉に皆が頷くのだった。
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