第266話 兄弟家族の話。(ウィリアムの本当の仕事。)
「じゃあ、私たちが王都に入るのに知っておかないといけない事や必要な事は何かある?」
セリーナがレイラ達に聞いてくる。
「・・・ん~・・・情報収集能力ですか?」
レイラがアルマに聞く。
「文官、武官共々顔なじみを作ることですかね?」
「ちなみにウィリアムは何をしているの?
クリフやニールの書類添削だけ?」
ローナが聞く。
「ええ、それだけですね。」
ウィリアムが肯定する。
「え?他に何もしていないの?」
セリーナが聞いてくる。
「ええ、していませんね。
積極的に動くと不味いので。」
「ですね。」
「しょうがないですよね。」
第3皇子夫妻が頷く。
「ちょっと・・・どういうこと?」
ローナが驚きながら聞いてくる。
「ウィリアム、王都では何があるのだ?」
ニールが聞いてくる。
「つまりですね。
ウィリアムが動くと文官も武官も嫌な顔をするんです。
なのでウィリアムはずっと無能なバカ皇子を演じています。」
アルマが苦笑する。
「なんで、嫌な顔をするの?」
セリーナが聞く。
「ん?第3皇子だからです。
王位を継げない者が政策に意見すると『なんでお前がそんなことを?』と武官も文官も拒否するんですよ。
まぁ直接は言いませんけどね。
ウィリアムが提案したことはことごとく潰されます。
お義父さまが代わりに提案してくれてもウィリアムの意見が少しでも見えると政策が遅延します。」
レイラが補足する。
「なに!?」
「なんだそれは!?」
クリフもニールも怒りを露わにする。
ローナもセリーナもエイミーも言葉には出さないが十分に驚き、眉間に皺を寄せている。
「なので、表向きウィリアムは兄たちの報告書の添削をしているだけのボンボンです。」
レイラが説明する。
「表向き?実際は?」
ローナが聞いてくる。
「そんなウィリアムを心配してお義父さまが一つの指令を出されています。
それは武官、文官に関係しない王からの特務ですけどね。
ウィリアムには、王都守備隊 第一情報分隊、第二情報分隊の指揮権があります。」
アルマが説明する。
「「「え!?」」」
その場にいる第3皇子夫妻以外の皆が固まる。
「ウィリアムの特務内容は・・・言って良いの?」
アルマがウィリアムに聞く。
「僕から言うよ。
父上からの特務は貴族の動向監視・・・王都勤め25家族、領地持ち15家族の監視です。
それと貴族内の反王派の粛清審査です。」
しれっとウィリアムは言う。
「ちょっと・・・待て・・・監視と粛清をしているのか?」
「はい。動向は父上が見る前に私が内容のチェックをし、最終文章を作っていました。
また粛清は・・・いかに王都守備隊でも貴族相手に勝手に手を出せないでしょう?
王家の者が了承するしかないので、私が審査し、父上が承認しています。
まぁ粛清まで行った例は1件か2件ですけど。
どこの貴族がどこと繋がってとか・・・文官内の賄賂の流れも・・・まぁ把握は出来ています。
ですので、王都守備隊と父上は王城内の力関係を知っています。」
「その事実を知っている者は?」
「王都守備隊総長と宰相だけですね。」
「私達王家は賄賂なんて渡していないわよね?」
セリーナが皆に恐る恐る聞いてくる。
エイミーも無言でコクコク頷いている。
「第1皇子家、第2皇子家、エルヴィス伯爵家、ゴドウィン伯爵家、テンプル伯爵家からは5年に遡っても何も出てきません。」
「ちょっと・・・待って・・・
うちの周り3貴族と第2皇子領の周り2貴族は?」
クリフが聞いてくる。
「トップ5の賄賂を渡している貴族ですけど?
あ、ちなみに一番賄賂が多いのがニール兄上の近くの貴族です。
その次がクリフ兄上の近くですね。」
「う・・・わかった・・・注意して対応していく。」
「うちもわかった・・・」
ニールとクリフはガックリとする。
「それにレイラの妹『鮮紅』のアリスの件ですけど。」
「ええ・・・」
「2年前の戦闘後、寝込んだだの部屋に引きこもったとの噂があったでしょう?」
「ありましたね。
あの時はレイラがさっさと実家に戻ったわよね?」
「はい。」
「その発端はエルヴィス伯爵邸の街に住む男がしたオッドアイに対する誹謗中傷の投書をエルヴィス邸に投げ入れたのが原因です。
この男の支援者は王都の中堅文官で、ニール兄上の近くの貴族から賄賂が渡っていました。」
「ウソでしょ・・・」
「本当です。今回の旅の準備でその辺も資料を見直していきましたから・・・
しかし・・・今回もあの時の様な襲撃があるとは思いませんでしたけどね。
話を戻すと実行自体は、その男の単独犯ですが、王都の文官からはエルヴィス伯爵家にスキがある時に嫌がらせをしろとの指示だった様です。
で、内容は・・・レイラ言っても構わないかい?」
「ええ、構いません。
この間、アリスの幸せな顔も見れたし、もうこの件は気にしていない様でしたからね。」
「簡単に言えば・・・オッドアイは呪われた目だとか、お前は鮮血の姫だとか、血を啜った吸血鬼だとか、罵詈雑言のてんこ盛り。
ついでにお前のせいで領地を没収だとかのエルヴィス家宛の脅迫までありましたね。
処分については、エルヴィス伯爵が王都に委任しましたので、その文官は見せしめに更迭しました。」
「私達のアリス様になんてことを・・・」
エイミーが怒りを露わにする。
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ちなみにエイミー達10代の子供たちはレイラ執筆の童話の熱心な愛読者達だった。
アリスは今や10代の子達から英雄として語られている。
本人はそのことを全く知らないが・・・
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ウィリアムの説明にクリフもニールもローナもセリーナも口を開け驚く。
皆の共通認識として「どこまで内容を掴んでいるのだろう?」と感心と驚愕を露にするのだった。
「この業務はクリフ兄上が引き継ぐのでしょうね。
王国の暗部の大きさに驚くかも知れませんが、あまり大事にならなそうなら目をつむる努力も必要です。
王都の仕事はコネと金で動いているのも確かですから。」
「そうか・・・覚悟するよ。」
クリフは悩みながら頷くのだった。
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