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第25話 販売コンサルタント。

アリスは小さな紙箱を2つ持って仕立て屋に向かっていた。

「結局、買ってしまった。

 タケオ様とのお茶の予定は家でのお茶会に変更かしら?」

と少し残念に思う。タケオはどう思うのだろう?とも思うが今はもう買ってしまったのだ。

「好物を見つけた」、「席がいっぱいで」、「残りが3個だったので全部買った」

言い訳はいろいろ浮かぶが・・・何とか家で食べるよう説得しようと考えていた。


------------------------

アリスは仕立て屋に着いた・・・のだが、店の扉には「CLOSE」の札が掛けられていた。

「はて、これはどういう事でしょう?」

しばらく考えてみるが、店内が明るいのでとりあえず入ってみることにした。

扉は鍵もかかっておらず、すんなりと開く。

「アリスお嬢様、おかえりなさい。」

と武雄は楽しそうに迎えてくれた。

「あ・・・ただいまです。

 その・・・これは?」

と店内を見渡す。

そこでは店の店員たちであろう数人が1つの服を囲んであーでもない、こーでもないと議論をしていた。

また、端の机では3人が本を片手に何やら試算をしている様子だった。

「えーっと、私が作りたいコートの話をしていたらお店の人達全員が開発に参加したいと参加してきちゃいまして・・・」

と武雄は苦笑いをする。

「え?・・・全員ですか?」

アリスは「たかが1着のコートでなんで?」と不思議そうに驚くと、

「内情は私の方から説明させていただきます。」

と店長が説明を始める。

入店時から武雄に付いてくれた店員がこの店長だった。


「実は私どもにはある野心がくすぶっておりました。

 それは、事業の拡大です。

 私どもは、おかげさまで少しずつ従業員を増やしていける様になり、この街では名が通る様になりました。

 ですが、所詮は仕立て屋なので、お客様を待つのが基本と皆が思っておりました。

 他の大きな街に支店を出そうにも、出店先の街にはすでに名が通った仕立て屋がありますので、試算上ですらなかなか採算が合わずに断念していたのです。」

「はぁ。なるほど。」

アリスは相づちを打つ。

「しかし、キタミザト様のご提案されたコートは実に先進的な物でした。

 これを目玉にして各街に出店できるのでは?と考える様になったのです。」

「えーっと、タケオ様?」

「ええ。商品とかのヒントを話しただけなのですが・・・」

と武雄はアリスに説明を始める。

「つまりですね、アリスお嬢様。

 彼らは、独自ブランドを立ち上げようとしているのです。」

「ブランドですか?」

「はい。注文を待つという状態から服を自ら卸すことを始めようとしているのです。」

「・・・一般にそれほど売れるのでしょうか?」

アリスは普通の疑問を投げかける。

「アリスお嬢様・・・一般でなければどうです?」

「え?」

「特定の・・・いえ、言葉を遠回しに言うのはやめましょう。

 兵士用であったならどうですか?」

「・・・でも年に数十が限度ではないでしょうか?」

「一辺境領ならば・・・ですよね?」

「あ!」

アリスは気づく。

「そうですね。複数の辺境領・・・いや国単位で考えると年に数百・・・凄い規模になりますね。」

「ええ。ですが、そこまでの道のりはとても厳しいです。

 それこそ先ほどの話にもあったように、既存の仕立て屋がその街を牛耳っていますからね。」

「はい。王国全土は厳しいと思います。」

「ただ、それは普通に仕立て屋としては・・・ですよね。そこに全く新しい価値観の物を提供し始めればどうです?」

「・・・有用ではあるが、今までの仕立て屋ではできないとなるとこちらに注文がきますね。」

「そうですね。できれば価格をある程度低く抑える必要もありますが。」

「それはなぜです?」

「絶対に真似をされるからです。」

「?」

アリスは武雄の説明にわからないという顔をする。

「つまりですね、ある程度の品質を維持するための最低価格は存在します。

 それは材料費がメインになるでしょうが、それをどれだけ下げれるのかが勝負になります。

 ある仕立て屋が真似をしても高価格になってしまえば、そのブランドに勝てないですからね。

 それに自分たちで作れないなら、自分の店に置かせてくれと頼むようになるでしょうね。」

「なるほど。」

「それに上手く行けば、将来的にはエルヴィス家にも利益になりますしね。」

「え?そうなのですか?」

「上手く行けばですよ?」

「・・・どういう事でしょう。」

アリスは悩む。この店が発展する事がなぜエルヴィス家の利益に繋がるのか?


「実は、このコートのデザイン権と販売権をこちらの店と私との間で契約を結ばせてもらおうと思っています。」

「契約ですか?なぜ?」

「簡単にいうと、こちらの店で作った物以外を『トレンチコート』と呼ぶのを認めないという事にします。

 お店側は他の店に同名の類似商品が並ぶのを阻止する目論見があります。

 それは私の知識にも適用してもらいます。

 私はコートに関しては必ずここの店を通して作ってもらうという事にします。」

「それではお店ばかり有利で、タケオ様に見返りがありませんが?」

「私への見返りは、販売された際にデザイン料として一定の金額を貰う事を約束してもらいます。

 また、この店がどんなに大きくなったとしても本社をここに残すことを約束してもらいます。」


「この街を拠点にするのですか?」

「ええ。例えば、王都には、人・物・金の全てが集まるでしょう。

 ですが、王都に本社がある必要性は今回はありません。

 もっと言えば、王都に店を構える必要性が私には見いだせません。」

「何故です?どの商人もいつかは王都で一旗上げるのを夢見ていると聞いたことがありますが?」

「・・・そうなのですか?」

武雄は店員に聞いてみることにした。

「はい。私も含め商人のほとんどは『いつかは王都で』と考えています。」

「そういうものなのですね。」

と武雄は今の所、王都に興味がないので素っ気ない返事をした。

「まぁ、ここからは私の推論になりますが、

 王都は物の規模が大きいと思います。

 ですが、それだけ癒着が激しいはずです。」

「癒着ですか?」

「ええ。正確に言えば、お抱えの店が多いと思います。

 アリスお嬢様、王都に住んでいる貴族は何家族くらいありますか?」

「そうですね。20程度でしょうか。」

「・・・意外と少ないですね。

 その一つ一つにお抱えの店があるとしましょう。

 店同士は貴族の面子も持つので、常に見栄えの良い物や品質なんかを争っています。

 そして、その貴族に物を収めている者達も貴族との縁を切らさぬためにお抱えの店を利用するでしょう。」

「でしょうね。」

「これが王都に店を抱える必要性を感じない理由です。」

「え?どういうことですか?」

「つまりは、コネを維持する為にコネを利用している社会に新規参入したところで物は売れません。

 わざわざ今贔屓にしてもらっている貴族との関係を危うくしてまで新規のお店で頼まないでしょう?

 王都で成功するために、どこかの貴族のお抱えになる必要があるなら、今現在取引している同業者を蹴落とさないといけないので、誹謗中傷合戦を勝ち抜く必要が出てきますよね?

 とある貴族のお気に入りになったとしても、そこの貴族の関係者以外には客がこないのでしょう?

 それは仕事として意味があるでしょうが、自分の発想で物を作るのではなく、ある貴族を満足させる為だけに作る。

 ・・・私は魅力を感じませんね。」

「確かにそうでしょうが、タケオ様。それはいくらなんでも・・・」

「ええ、飛躍しすぎでしょう。ですが、これを全くの嘘だとは言えないはずです。

 各家ではなく、各貴族グループとすることもありですね。」

いつの間にか店員達が手を止めてこっちの話を聞いていた。

武雄は、これは不味ったかな?と思った。


「・・・確かにその通りです。

 今の話を聞いて、私も王都に店を出す気を持たなくなりました。」

「いえ、大変失礼な事を言ってしまった様で申し訳ありません。

 王都で一旗上げることを否定するつもりはないのです。」

武雄は店員に謝る。

「いえいえ。私はそこまで王都でと強い願望を持ってはいません。

 ただ、周りの商人達が口を揃えて言うので『私もいつかは』と思っていただけなのです。」

「なるほど。」

武雄は、集団心理に近いのかな?と思った。

アリスは聞き入っていた。


ここまで読んで下さりありがとうございます。

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