第253話 16日目 夕食後の報告会。(お酒と局長会議。)
夕飯後、客間に皆が移動する。
フレデリックが食後のお茶を入れ、皆の前に置き、皆から少し後ろに下がる。
ミアにはトマトの搾りたてジュースが出されていた。
「さて、今日はタケオは何をしておったのじゃ?」
「まずは、朝にローおじさんの酒屋に行って、ウィスキーの流通利権について話してきました。」
「うむ。」
「契約書の中身としては、
私とワイナリー間では、私が酒の製造方法を漏らさない事と新しい酒を思いついたらこのワイナリーでのみ製作する事。
ワイナリーと酒屋間では、新しい酒の独占販売権・・・生産されたこの酒を全樽の買い付けを行う事。
酒屋と私間では、発案料として酒1本の売値の2割納付し、私が死去等した場合は、エルヴィス家に発案料を納付する事とエルヴィス家がローおじさん酒屋で商品を購入する際に酒の原価+1割で納入する事。
以上を素案におじさんが3者契約書の素案を作る予定になりました。
基本的には素案が出来次第フレデリックさん宛に持ってくると思います。
その際は、よろしくお願いします。」
「うむ。
その契約書にもわしは署名するからの。」
「畏まりました。」
「で、小銃改1の練習をしてテイラー店長の魔法具商店に寄ってきました。
小銃改2の試作版が明日の昼出来るそうなので、それを試射してきます。
あと、王都で小銃を仕入た問屋さんの場所を教えてもらいました。」
「うむ、そこでジェシー達に会ったのじゃな。」
「はい。
二人してトレンチコートを買っていましたけど・・・
あと何か月後には向こうでも取引が始まるのではないですかね?」
「ふふ、タケオ様。
貴族にとって最新というのは購買意欲をそそる物なんです。
万が一、流行に乗り遅れたら王都で見下されるかもしれませんからね?
特にゴドウィン伯爵領は、この辺最大の勢力ですから王都の者が良く居るそうです。
その辺はわかっていると思いますよ。」
「・・・面倒な事ですね。」
アリスの説明に武雄は呆れるしかなかった。
「面倒じゃの・・・まぁうちみたいな片田舎は、基本的に流行とは無縁だしの。
それに見下すなら見下せば良いのじゃ。
まぁ・・・タケオのお陰で超が付くぐらい最新の知識を有しておるがの。」
エルヴィス爺さんが楽しそうに言う。
「そうですか?」
「ふふ。タケオ様、あの3案件だけでも十分、最新ですよ。
それにトレンチコートに小銃、料理にウィスキー・・・王都を凌ぐ知識を有しているかもしれませんね。」
フレデリックも楽しそうに言う。
「んー・・・あの程度で?」
「あの程度呼ばわりですか・・・」
スミスは呆れる。
「ええ、誰でもいつかは気が付くと思いますよ?
ただ最初だっただけで・・・最新とかは気にしませんし。
エルヴィス領が発展する為の案件を考え付いただけですから・・・
それにそもそも私のこの考え方が他領でも上手くいく保証はないですからね。
最新だとか使い古されたとかは気にしない方が良いでしょうね。
上手くいく為にどうすれば良いか、だけですから。」
「うむ、そうじゃの。
最新の行政手段を入れるのに固執して結果、領内の行政が上手くいかないのでは意味がないからの。」
「はい。
なので、スミス坊ちゃんもあまり最新だとかは気にしない方が良いですよ?」
「そうなのですか。」
「でもタケオ様、スミスは来年、王都の寄宿舎に入るじゃないですか?
王都でイジメられない為に最新の物を知るのは良い事なのではないですか?」
「なるほど・・・でも行政の仕方とかは別に知る必要はないのではないですか?
それを学びに行くのでしょう?
あ、衣服とか小物とかは最新を知っておいた方が良いでしょうかね?」
「そうじゃの・・・寄宿舎は施政者を養成する教育だからの。
あまり変にタケオの考えを知る必要はないの。
だが、同期と街中に遊びに行くのに変な格好をさせる訳にも行かんの。」
「じゃあ、お爺さま、その辺はレイラお姉様と相談してきます。」
「うむ、レイラにも協力して貰うかの。」
エルヴィス爺さんとアリスが笑い合いながら決めている横で。
「はぁ・・・衣服や小物なんて別に最新でなくても良いんですけど・・・」
スミスがため息をつく。
「スミス坊ちゃんも大変ですね。」
「タケオ様は最新の衣服や小物は必要ないので?」
スミスは武雄にジト目で抗議しながら聞いてくる。
「さて・・・どうでしょう?
逆に最新の物よりシックな感じの落ち着いた物を好んだ方が好印象になりませんかね?
私ぐらいの年だと最新の物を追うか、シックになるか・・・どちらかを選ぶのですが・・・
個人的にはシックの方が好きなのは確かですね。
それに10代は最新の物を集めた方が良いでしょうね。
落ち着くのは30代半ばからで良いですし。」
「・・・上手く躱された感があるのですが・・・」
スミスは唸る。
「私は王都とは無縁ですので、流行は気にしていませんよ。」
武雄は朗らかに言っている。
スミスはそんな武雄を見ながら「そうも言っていられなくなるのでは?」と心の中で呟くのだった。
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