第244話 15日目 さて寝ましょう・・・アリスはどこ行った?。姉妹の会話。
今日も「さて寝るかの」とエルヴィス爺さんの言葉と共に皆が客間を出ていき、武雄とアリスとミアも寝室に戻った。
ゴドウィン伯爵夫妻は次期当主夫妻用の部屋で一泊することになった。
武雄は風呂のお湯張りからアリスとミアの髪を軽く乾かすまでの日課を終え、自身もお風呂に入り今寝室に戻ってきた。
「良いお風呂で・・・・あれ?」
と武雄が寝室に入ると誰もいなかった。
「ふむ・・・」
レイラの時と一緒と考えると・・・ノートか?・・・さて、どこで会合をしているのか・・・
武雄は考えるのだった。
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ジェシーとアリスは前のタケオの部屋に来ていた。
「どうしたの?アリス。
いきなり呼びつけて。」
「ジェシーお姉様にも見て欲しくて。」
アリスはあの保健のノートを持ってきていた。
ジェシーはノートを受け取り、表紙を見るが何て書いてあるかわからない。
と、アリスがメガネ差し出し、ジェシーはメガネをかけると「保健」と書かれているのがわかる。
とりあえず捲って最初の1ページを見るが、手が止まってしまう。
「・・・アリス。」
「はい。」
「この本は?」
「タケオ様が知識を忘れない内に書き出すと言って4種類に大別した物の1冊です。」
「・・・そう・・・」
ジェシーは食い入るように見て次のページを捲る。
そして真剣に見ながらさらに1ページ・・・2ページ・・・
と、全6ページを読み終える。
「・・・ふぅ・・・タケオさんは凄いわね。
政策、戦術、個人の武力、料理・・・そして医学知識。
知将・・・名将・・・賢者・・・どれもしっくりこないわね。」
ジェシーは「んー」と考える。
「タケオ様はそんな呼ばれ方をされるのは嫌がるのでは?」
「そうね、なんとなくそんな気がするわ。
でも普通ではないわね。知識の豊富さと実行力の高さがそこら辺の者の上を軽く行くわね。
・・・よく陛下が連れて行かなかったわね。
なんだかんだ言っても陛下は、わがままだから気に入ったら連れて行っちゃうでしょう?」
「タケオ様が王都に魅力を少しも感じていないという事と
『やりたいことがあっても邪魔されるだけでしょう?』と言っていることですね。
『だったら田舎で好き勝手します』・・・と。」
「・・・その言葉をタケオさんは言ったの?本人の前で?」
「はい、しっかりと。邪魔されるなら行かないと。」
「陛下はなんと?」
「王都の者達が邪魔することを否定できなくてタケオ様を引き抜くことは諦めましたね。」
「・・・引き抜くことは?・・・何かありそうね。」
「タケオ様を貴族にさせようとしています。レイラお姉様もウィリアム殿下も。」
「・・・なるほど。引き抜きは諦めたけど国外流出を止める為ね。」
「はい・・・一応、そう言っていましたが・・・」
「タケオさんの事だから貴族も断ったんじゃない?」
ジェシーが苦笑しながら言う。
「はい。」
「え!?嘘でしょ?
今のは、ただの冗談だったのに。」
「王都には勤める気はないし、理解のある当主と文官がいて、やりたいようにやらせてもらっているから領地持ちになる理由がないと。」
「でも貴族になれば、毎年金貨300枚の収入があるわよ?
金銭的に魅力的でしょう?」
「タケオ様は収入よりも邪魔されることを嫌がっています。
プライドの高い人達を説得することや誰かの嫉妬を受けるのが面倒だと。」
「まぁ、それはわからなくもないけどね。」
「それに金銭収入ならトレンチコートが1着金貨2枚と銀貨5枚で販売する事になっていますし。」
「そうね、そういう話だったわね。でもそれが?」
「タケオ様は、デザイン料で1着売れるごとに銀貨5枚の収入があります。」
「・・・今、王都と交渉中だったわよね・・・
エルヴィス領では?」
「約2年間900着の発注がされました。」
「・・・金貨450枚?・・・王都ではどうなのかしら?」
「陛下や殿下、レイラお姉様が気に入って着ています。
その流れで当初、想定していなかった王都とエルヴィス領の仕立て組合同士のトレンチコートの販売契約の話に繋がっていきます。」
「それは確実に卸されるわよ。
となると金銭的にタケオさんを篭絡するのは難しいのね。
レイラは、どう口説こうとしていたの?あの子諦めが悪かったはずだけど?」
「奇策と言うか・・・
王立戦術研究所・・・戦術と武器の開発専門の研究所を作りタケオ様を所長にしようと。
それに特例として貴族ですが、年1、2回の報告だけをしに王都に来れば、王都に住まなくて良いという条件で。」
「破格ね・・・でもタケオさんだけだと目立つわね。」
「あと2人ほど、他の王家推薦で選んで3人とも王家枠として一括で認めれば?と。」
「なるほどね、タケオさんを隠す為に他2人も貴族にするか・・・
王家の第1、第2皇子の取り巻き貴族がうるさいらしいからね。
良いガス抜きになる手も打つか・・・レイラもやるわね。」
「上手いのですが・・・平気でしょうか?」
「どうでしょう。レイラの事ですから楽しんでいるのでしょうけど・・・
まぁレイラも殿下も王都にタケオさんを呼ぼうとは考えないはずだけど・・・
アリスは王都に興味は?」
「ないです。」
アリスは即答する。
「まったく・・アリスと言いタケオさんと言い・・・普通の者の考え方ではないわね。
普通なら王都に行って一旗上げるなり、貴族になりたいと願う物なのに。
二人とも思考が似ているのかしらね。
アリス、良かったわね王都に憧れがある人が婚約者にならなくて。」
「はい。
ん?レイラお姉様がタケオ様を王都に呼ぶ気はない?なぜです?」
「殿下が三男だからよ。」
「・・・あ、継げないからですか?」
「ええ、時期はまだ先だろうけど・・・
いつかは王都勤めが終わってどこかに公領が設定されるはずだわ。
第1皇子一家が王都に入るだろうけど・・・第1皇子の公領と入れ替わりはカトランダ帝国と面している貴族が許さないでしょうね。
実戦経験のない皇子が後ろに控えて、何より面識もコネもない皇子なんて嫌でしょうから。」
「確かにそうでしょうね。」
「それに、正室であるアルマ姉さんの実家であるテンプル家、側室であるレイラの実家であるエルヴィス家、そして姉の私が嫁いだゴドウィン家。
つまり、第3皇子一家は魔王国に面している3伯爵領のすべてに関わりを持っているの。
そうなるとゴドウィン伯爵領、エルヴィス伯爵領、テンプル伯爵領に面している所が理想なのよ。
実際、王都の文官がうちの領内をちょろちょろしている節があるわ。」
「良く知っていますね。」
「アリス、領地持ちの伯爵に嫁ぐとはこういうことなのよ。
どこの領地持ちの貴族もしているわよ。
王都の動向は知らないとこちらがやられかねないわ。
領主が動くと角が立つからね・・・文官なり妃が動くのよ。
お爺さまの場合は、フレデリックを筆頭に文官がしているでしょうね。
まぁそんな訳でレイラ達はタケオさんとアリスをエルヴィス領に置いておきたいのよ。
隣の領地に王国最強のアリスと王国一番の頭脳を持つタケオさんをね。」
「私達はそんなに凄いのですか?田舎貴族を謳歌する気満々なのですけど。」
「たぶんそこも高評価ね。
領主に興味がない二人だからこそ、陛下も無理をして王都に呼べないのよ。
『田舎が大好き』と二人して言っていれば、脅威にはならないでしょう?
なので、今後もアリス達は王都に興味がない風を装わないといけないわね。」
「はい。」
「と、話し込んじゃったわね。
アリス、その本の写しを貰えるかしら?」
「はい?」
「うちも子供が欲しいのよ。」
ジェシーは苦笑する。
「わかりました、明日の昼までに作ります。」
「お願いね。」
アリスとジェシーは部屋を後にするのだった。
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