第240話 15日目 夕食後の報告会。(まずはお酒の件。)
皆の前に各々が選んだお酒が置かれ、料理長以下皆が退出する。
客間に残ったのは、エルヴィス爺さん、アリス、スミス、ミア、フレデリック、ゴドウィン伯爵、ジェシーそして武雄の8名になった。
それぞれの席の前には、
エルヴィス爺さんとフレデリックとジェシーの前にはストレート。
ゴドウィン伯爵の前にはロック。
武雄の前には水割り。
アリスとスミスの前にはオレンジジュース割りがあった。
ミアにはアリスのを分けた。
「皆に行きわたったの。
さて、今日はタケオ達は何をしておったのじゃ?
酒を飲みながら聞こうかの。」
「わかりました。
と、その前にお酒の事から良いですか?」
「うむ。」
「まずは今飲んでいただいているお酒・・・これは先ほども言いましたが領内北部のライ麦の作付け面積を多くする為の一環として考えました。
まぁ私が考えるよりも早くワイナリーが着手していましたが。」
武雄が苦笑する。
「このお酒は割と売れると思いませんか?」
「好みは分かれるじゃろうが、売れると思うの。」
「私もそう思います。」
エルヴィス爺さんとフレデリックが頷く。
「そう言って貰えて何よりです。
そういえば、フレデリックさん。持ってきた方が社長さんだとなんで気が付いたのですか?」
武雄はフレデリックに質問する。
「それはですね。
報告書に社長さんの名前が書いてありました。
また、北の町の局長との会話の議事録も付いていましたので知っておりました。」
「そうなのですね。
ちなみにこれは市販はもうされていましたか?」
「報告書では、全く売れていないとありましたね。
北の町では相手にもされていない様です。」
「そうですか・・・まさか、ストレートで試飲させたのですかね?」
「・・・可能性は高いですね。」
「ウィスキーは、ブランデーと比べてしまうと香りや味で違いがありすぎです。
ブランデーの一種として売り込んでも売れないでしょうね。」
「うむ。
確かにそうじゃの。
我らはタケオの説明があったのでいろいろな飲み方をして、この酒は売れると思っておるが、
その説明なしで新しいブランデーと言われて飲んだら評価は変わるの。」
「ええ。新種の酒が出来た場合、本来ならその飲み方まで考えて売り込みをかけるのが効果的だと思いますね。」
「そうじゃの。」
「で、ですね。
このお酒ですが、これをこの街から流行らせようと思っています。」
「うむ、良い事じゃな。」
「はい。
まずはこの酒が他領に行かない様に流通を独占しようと思います。
そのためにこの屋敷に近い酒屋のおじさん居ますよね?」
「ローの店かの?」
「ロー?」
「タケオ様、いつも行くあのお店のおじさんです。」
「あぁ、なるほど。
あのおじさんにこのワイナリーとウィスキーの独占販売契約をしては?と提案しました。
ちなみに先ほどワイナリーの社長さんには、明日寄ってみる事をお勧めしました。」
「うむ・・・それは良いのだがの。
この酒の独占販売契約は、うちでしても良かったのではないのかの?」
「んー・・・エルヴィス家で売る酒・・・
個人的にはそれだと満遍なく国中に売れなくなるのでは?と思ったのです。」
「うむ・・・賄賂と見られるとな?」
「はい。贈答用でうちが持って行く際にエルヴィス家が作っている酒とエルヴィス領で民間が作った酒とでは印象が違うと思うのです。
もし、エルヴィス家を目の敵にしている貴族が居た場合、そこに卸せなくなるのでは?と。
なら、エルヴィス領北部のワイナリーが作った新種の酒なので飲んでくれと言った方が販売網は増やせると考えました。」
「うむ、なるほどの。
我々が表立つとやりにくい面もあるの。
・・・タケオ、それで構わないのじゃ。」
「はい。
ちなみに酒屋のおじさんと話をしていて、この独占販売契約が上手くいったら紹介料をくれっと言っておきました。」
「抜け目ないの。何を求めたのじゃ?」
「あそこのお店のお酒をエルヴィス邸に入れる際の価格は原価+1割で。」
「タケオ、よくやったのじゃ!」
「エルヴィス家が得る利益としてはとりあえず、まずまずでしょうか?
それに・・・おじさん的には私とも契約する気でいましたね。」
「何を契約するのです?」
アリスは聞いてくる。
「アリスお嬢様、トレンチコートの時と同じです。
私のお酒の知識はあのワイナリーでしか試作できない事にします。
ワイナリーとしては私が他に言わないのであれば口止め料と新しい酒の考察時間の短縮。
酒屋のおじさんは新しい酒の独占販売権。
私は発案料ですね。
おじさん的には3者連名の契約書にしようかな?と構想を練っていましたよ。
私への報酬はトレンチコートと同じ2割で良いでしょう?と。」
「うむ、なるほどの。
わしは構わないと思うぞ。」
「はい、私も構いません。」
エルヴィス爺さんとフレデリックが頷く。
「わかりました。流通利権としては、その様に話を進めます。
で、エルヴィス家としても投資をしてみませんか?」
「ん?どういう事じゃ?」
「ワイナリーとしては、多く流通させるには、このお酒の蒸留器を増設する必要がありますよね?
さて、いきなりそんな資金があるでしょうか?」
「なるほど、だから投資ですね。」
「はい。経営に何も言わないが、売り上げの2~5%を返済割合としてエルヴィス家に納付するとかで融資すると言ってみるのはいかがでしょう?
そうすれば蒸留器の増産とライ麦の消費を押し上げられるのではないでしょうか?
それに売れれば売れるほどエルヴィス家のお小遣いになりそうです。」
「うむ、投資については可能じゃの。
しかし名指しの投資は難しいの。他の町や企業がうるさそうじゃ。」
「では・・・一般公募でどうでしょう?
融資金額を公示しておいて、各町の専用窓口で受付をする。
各町から持ち寄った中で文官の幹部達による投票で決めるとか。」
「うむ、それなら良さそうじゃの。
それに資金難で困っている事業を見つけやすいの。」
「はい、もしかしたら隠れている産業があるかもしれません。」
「フレデリック、それも文官で素案はまとめられそうかの?」
「畏まりました。」
フレデリックが頷くのだった。
ゴドウィン伯爵夫妻は「凄い勢いで決まっていくなぁ」と感心していた。
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