第237話 魔王国王城の一部屋で。
魔王国のとある薄暗い一室に2人の人間ではない者がソファに座っている。
一人は狼が2足歩行している・・・いわゆる獣人だ。もう一人は見た目は人間と変わらない。
「それにしても・・・いきなり奴の領内のゴブリンが300くらい居なくなったとな?」
「情報が早いな・・・でも正解だ。」
「アズパール王国から戦の気配はないのか?」
「それも無い様だ。国境沿いの兵士達にもそれとなく聞いたが、何も変化はないそうだ。」
「まずは情報が洩れていない様で何よりだな。
消えたゴブリンはどこにいったのか・・・お前以外に謀反計画でも?」
「それもないな。奴の領内は安定している。
謀反計画・・・その言い方は気に食わないな。
我ら血族の方針を正道に戻す計画だ。謀反ではないさ。」
「それは失礼した。
それにしてもわからんな・・・もしかしたらアズパール王国の・・・なわけないな。
人間風情にゴブリンの一斉拉致なんてできないだろうな。」
もう一人が頷く。
「しかし、好機だな。
奴の屋敷がある街の兵が少なくなっているのだろう?」
「ああ、うちの兵士達だからな・・・確実な数字がわかっている。
今は大部分が国境周辺を強化している。」
「奴は人間風情と休戦協定を結ぶべきと王に意見しているからな・・・
なぜ我々が人間風情を同等と見なさなければならんのだ。
奴らは奴隷以下、もしくは食料だ。
家畜相手に権利があるわけないだろうに・・・奴は頭が可笑しいのか?」
「言ってくれるな・・・
考えが人間により過ぎなのは確かだが、経営者としては上手いぞ。」
「奴の考えは異端すぎる。
もし奴の考えに同調する者が居た場合、国内を2分させられる恐れがある。
今のうちに奴を貶めなければならないぞ?
俺は内戦なんてしたくもないからな。」
「わかっている。
今がその好機なのだろうな。確かに奴の子飼い達は皆、国境近くに警邏に行っている。」
「必要ならうちの兵士も貸すぞ?」
「今は必要ない・・・子飼いどもを駆逐する際に必要だな。
その際は借りることにする。300くらいは借りると思うが・・・しかし、本当に他の領主達からは何も言われないのか?」
「それは平気だ。それに次期国王候補筆頭から内示も貰っている。
ほれ。」
獣人が手紙を4通出すと人間風の男が中を見る。
「・・・これは・・・こんな上層部が領主交代を認めているのか?」
「そもそも我々は武力によってトップを決めるが、何も国だけではない。領地だってそうだ。
力ない者は下に置かれるのが当たり前だ。
機を逃さず、スキを作らず・・・それがこの魔王国のやり方だ。
奴は・・・スキを作ってしまった。」
「・・・わかった、決行しよう。
だが・・・腐っても血族・・・殺しはしない。」
「それで良い。同族殺しは他の領主に不評を買うからな。
だが、近くに置くと謀反をされるぞ?
奴の子飼いもいるのだろう?」
「ああ、血族の慈悲として殺しはしないが・・・
・・・遠く・・・ウィリプ連合国で余生を送ってもらおうか。家族で仲良くな。」
「・・・あの国に行かすか・・・死んだ方が良かったと思うかもしれぬが?」
「死んだら奴の運もそこで終わり・・・まぁスキを見せた時点で奴の運は終わっているのだがな。
それよりも兵士から離反者が出ない様に見張らないと・・・奴の子飼いはあと4日は戻ってこないな・・・」
「じゃあ、決行は3日後だな。兵士300は任せておけ。準備をしておく。
ぬかるなよ?」
「わかっている。上手く既成事実を作ってみせるさ。」
人間風の男が一陣の風と共に消える。
・・
・
部屋には獣人の男が残されているが。
「ふん、こんな書面を信じるか・・・」
男は4通の手紙を破り、その場で燃やしてしまう。
「まったく・・・長寿なのに馬鹿だな・・・花押の確認もしないのか・・・
まぁ上手くいけばこっち側に付くし、ダメなら俺が討伐に行けば良いだろう。
ふ・・・次は俺にお鉢が回ってきそうだな・・・」
男は顎をしゃくり上げる。
「国王・・・ふ・・・良い響きだな。
これでライバルは落とせるな・・・あとはエルフ側の領主達か・・・
人間なんてどうとも思っていない連中だ。確か休戦協定にも無関心だったな・・・
あっちの有力候補をどうするか・・・馬鹿を2度も焚き付けるのは危ないか・・・
いや・・・わざと焚き付けるか?」
カップに入っている飲み物を飲みながら思案する。
「アズパール王国とは、どうせ本気の戦はしないだろう。
あちらもこちらも頭の中では領内整備を進めたいのが滲み出ているからな。
まぁ俺がそれらしく動いておけば、皆に弱腰と言われな・・・
・・・あぁ・・・馬鹿が暴走しそうだな・・・
これからは少しやり方を変えるか・・・
さて・・・皆が俺の思惑通りに動くか・・・楽しみだな。」
含み笑いをしながら男は部屋を後にするのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。