第231話 自己紹介と賞味期限延長の方法。
客間のドアを武雄はノックする。
中から「どうぞ。」と許可が下りるのを確認し扉を開け入室する。
中にはエルヴィス爺さんとアリス、スミス、フレデリック、ゴドウィンさんと知らない女性が居た。
「失礼します。エルヴィスさん、スミス坊ちゃん、戻りました。」
「うむ、タケオおかえり。」
「タケオ様、おかえりなさい。」
「ゴドウィンさんもお久しぶりです。」
「うむ、タケオ、久しいな。」
ゴドウィン伯爵の横に座っている女性と目が合う。
「私はジェシーと言います。
アリスの姉です。」
「私はタケオ・キタミザトと言います。
何とお呼びすれば?」
「そうですね・・・ジェシーで結構ですよ。」
「では、ジェシーさんと呼んで構いませんか?」
「はい、良いです。」
ジェシーはにこやかに返答をする。
「と、私は何と呼べばいいですか?」
「あ、失礼しました。
タケオで構いません。」
「わかりました。
私はタケオさんと呼びましょう。」
「構いません。よろしくお願いします。」
と武雄は軽く会釈をする。
「じゃあ、ついこの間レイラ達に説明したでしょうが、同じ事を私達にも説明していただけるかしら?」
「はい、わかりました。
今は9時課の鐘くらいですか・・・夕飯までの間に一気に説明します。
随時、質問は受け付けますのでしてください。
あと、エルヴィスさん。料理長があとでお菓子を持ってくると言っていました。」
「うむ。」
「では、私の話からですね。」
武雄が話し始める。
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「という感じで、トレンチコートを作ったり、養鶏場の発案をして街の活性化案を進めています。」
「なるほどな。」
ゴドウィン伯爵が頷く。
ジェシーは「へぇ、面白いわね。」と感心中。
武雄は自分の出自の話。
エルヴィス爺さんとの出会いからアリスとの婚約までの話。
領内の活性化案を語った。
出自については、ゴドウィン伯爵夫妻もレイラ達と同じ「国外から来た程度」との意見に。
アリスとの婚約については、ゴドウィン伯爵夫妻も「異存はない」とのことで承諾。
というより、ジェシーに至っては「感謝の言葉もない」と頭を下げていた。
アリスはそんな姉をジト目で抗議をしていたが、華麗に無視されていた。
領内の活性化案についてはゴドウィン伯爵よりもジェシーの方が食いつきが良かった。
「それにしてもタケオがこの世界の住人ではないという話から今までの経緯を聞いたが・・・
いろいろ詰め込み過ぎて頭が疲れ気味だ。」
ゴドウィン伯爵が苦笑する。
と、客間に他の執事がお菓子とお茶を持ってやってくる。
「うむ、丁度良いタイミングじゃの。
やはりバターサンドじゃったか。」
「ええ、手軽に作れるお菓子として出そうという話を元々していましたから。」
客間に居る全員にお菓子とお茶が行きわたる。
「タケオさん、コレは?」
「これはバター味のホイップクリームをシフォンケーキに挟んだ物です。」
「ホイップ?」
ジェシーが聞いてくる。
「ホイップクリームとは、簡単に言うと搾りたての牛乳を放置しておくと上に濃い牛乳が出来るので、それを泡立てて砂糖と混ぜてフワッフワッにした物です。
これはバター・・・先ほどの濃い牛乳をさらに放置すると出来る固形物を滑らかにして泡立てて作ったものを美味しく頂くためのお菓子になります。」
「「ふーん。」」
ゴドウィン伯爵もジェシーも説明を聞きながら興味深そうにお菓子を見て生返事をする。
「では、いただくかの。」
エルヴィス爺さんの掛け声で皆が口に運ぶ。
と
ジェシーは一口食べると武雄を見て、目をこれでもかと見開き驚いている。
「タ・・・タケオさん、このお菓子は何ですか!!」
ジェシーが驚きながら武雄を見る。
ゴドウィン伯爵も動きを止めて驚いている。
「何ですか・・・と言われてもお菓子です。」
武雄は苦笑しながら言う。
「それにしても・・・姉妹揃って同じ感じで驚くのですね。
姉妹とは似る物なのですね。」
「「え?」」
ジェシーとアリスは顔を見合わせる。
「ジェシーさんもレイラさんもアリスお嬢様も初めて私の料理を食べた際は同じ表情をしますので。」
「むぅ、タケオ様の料理を初めて口にした皆が同じ顔をするのではないでしょうか?」
アリスが少し膨れながら抗議をしてくる。
「・・・確かに・・・そう言われればそうですね。」
武雄は少し考えたように振る舞い、わざと驚いたような顔をする。
「これを流行らせれば一儲けできるかも知れないな。」
ゴドウィン伯爵が感心しながら言う。
「さて・・・食べ物を流行らすですか・・・
今の所、やり方が思い付きませんね。」
「そうなのか?」
「そもそも食べ物を日持ちさせる技術がここでは未発達に感じますね。
日持ちがしないのであれば、いろいろな地方に売り込みができませんから一儲けはできませんね。」
「そうかぁ。」
ゴドウィン伯爵は難しい顔をする。
「ちなみに、どんな方法で日持ちをさせるのですか?」
ジェシーが聞いてくる。
「そうですね・・・
方法としてはいくつかはあるでしょうが、食べ物から空気を抜く、防腐材を入れて腐敗を遅らせる、氷などを使い温度を下げるとかでしょうか。
密封容器の開発やら味を変えないような防腐材の検討・・・
今のこの街にある技術では、どれも難しいでしょうね。
日持ちの技術があれば、王都にもゴドウィンさんの所にも出せる商品がありそうですけどね。」
「割と簡単なのはあるのか?」
エルヴィス爺さんが聞いてくる。
「んー・・・鉄缶にビスケットを入れて密封してから空気を抜くのが一番簡単そうですが・・・
いや違いますね・・・冷蔵の方が楽か・・・
人用の馬車を改造して窓無しの鉄板仕様を作り、内部を氷で埋めます。
そうすることで鮮度が割と保たれた状態で運搬ができるでしょうね。」
「どのくらい延びるのかの?」
「・・・物にもよりますが、大体3~4日程度でしょう。
ビスケットなら1週間はいけるかもしれませんね。
どちらにしても向こうに着いたらすぐに食べて貰わないといけません。」
「なかなか上手くいかないのじゃな。」
「そうですね・・・実際にしようとするなら大量の魔法師を使わないといけないでしょうね。」
「とりあえず、食料の保存や出店は後々の話じゃの。」
「はい。何かしらで密閉する技術は、その内考えてみますが。
鉄箱は工業製品なんですよね・・・難しそうです。」
エルヴィス爺さんとフレデリックと武雄は難しい顔をするしかなかった。
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