第226話 歓楽街の最近の歴史。
「付随する案件・・・人の流入ですね?」
「それに伴う我々の裏稼業ですか。」
二人は武雄を見ながら顔つきが裏稼業の主人の顔になる。
武雄は表情を崩さず真顔で頷く。
「私はお二人の治政に感心しています。
公権力が深く介入しない様に歓楽街を仕切っていますね。」
「「ええ。」」
「殺人、強盗、強姦、誘拐・・・良くここまで仕切りましたね。
先々代では抗争が激しかったと聞いていますが?」
「・・・だからこそ・・・と言う感じです。」
バーナードが話し始める。
「我々は先々代達の抗争で計300名前後の死者をだし、互いの影響力を削いでしまいました。
先代の時にその過ちから、我々の監視が緩くなってしまい・・・歓楽街の犯罪が多発し治安が一気に悪化します。」
「それは抗争で?」
「いえ、抗争とは無関係に・・・一般人相手に犯罪が横行しました。
そして兵士達により根こそぎ取り締まられる結果に・・・
歓楽街が無くされるのではないかと思ってしまうぐらいに・・・
そこで、私とカーティスは同時に先代を隠居させ、一家の幹部を刷新することを敢行しました。」
「組織内で反発は?」
「・・・少なからずありはしましたが・・・
根こそぎ部下が逮捕、処分されたのを目の当たりにして、我々の説得を最終的には受け入れました。」
「今の組織内の武闘派達の動向は?」
「大人しくしています。今の所・・・歓楽街も不動産業も順調なので・・・
ですが、その者達は機会があれば互いの家を潰せるだけの武力は保持するべきだとして意見を曲げません。
力で壊滅させることもできましたが、第3勢力になられるくらいなら・・・と考え、やる時は私に意見を上申することとして、許可しています。」
「うちもだいたい同じ状況です。」
「そうですか。」
二人の説明に武雄は頷く。
「・・・世継ぎはどうですか?
エルヴィス家の世継ぎは知っていますね?」
「スミス様ですね。
バーナードさんの所もうちも息子が1人います。
年齢的には、スミス様の少し上です。」
カーティスの言葉にバーナードが頷く。
「お互いの跡取りの印象を聞きましょうか。」
「・・・カーティス一家の跡取りは・・・攻撃的ですね。
我々を少し嫌がっています。」
「そうですね・・・どうしても南側の方が主要街道と近いので儲かっているのはわかりますから・・・
劣等感があるのでしょう。
言い含めているのですが・・・」
カーティスは苦笑する。
「・・・自分と競争相手をちゃんと分析できるのですか・・・
割と優秀ですね・・・ですが、武闘派の人達に取り込まれない様にしないと不味いですね。」
「重々承知しています。
バーナード一家の跡取りは・・・温和ですね。
なんであんなにのんびりしているのですか?
まぁ、うちの息子の喧嘩腰を上手く流してくれている様で助かりますが・・・」
「・・・それについては、良くやっているとは私も思うが・・・
実際の所、息子が何を考えているのかわからないな。
自分の意見を言わないし、毎日散歩をして、買い食いをしている程度か。」
「・・・そうですか・・・二人の息子さんに会いたいので今招集できますか?」
「「え?」」
カーティスもバーナードも驚きの顔を見せる。
「ん?何か?」
「いえ・・・私達の愚息に会われるのですか?」
バーナードが聞いてくる。
「ダメですか?」
「いえ・・・ダメではありませんが・・・」
「あぁ、何かを吹き込もうとか思っていませんよ?
対立を激化させるのは、街の不利益ですし。
ただ・・・若者の・・・裏稼業を将来仕切るであろう二人の考えも聞いてあげないといけないと思うのですよね。
父親や部下では言いづらいこともあるでしょう・・・ならば第3者の全く違う立場でなおかつ抑えが利く者が脅してあげ・・おっと、意見を聞いてあげるのが良いでしょう?」
「うちの息子には、キツク言っても構いません。」
カーティスは苦笑する。
「うちの息子へもキツクて構いません。多少殴られても私は文句を言うことはしません。」
バーナードも苦笑する。
「では、手配できますか?」
「すぐにでも。」
カーティスの言葉に二人は席を立ち、隣室に向かう。
武雄は二人を見送り、店員を呼ぶのだった。
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「何を話しているのでしょうね??」
アリスは折り畳み式の椅子に座り、お茶に口を付けながら兵士長に聞く。
「・・・さぁ?
キタミザト様の事ですから街の事でしょうか?」
兵士長も折り畳み式の椅子に座りながら答える。
「そうですね。
・・・昨日話していた時はラルフ店長の工場の用地を確保する旨の説明をしてさっさと終わらせると言っていたんですけど・・・」
「・・・話が盛り上がっているのでしょうね・・・
今の代は二人とも温和で対立を好みませんから。」
「そうなのですか?」
「ええ。先々代、先代を見て育った二人は抗争の無意味さをわかっていますから。
ん?店員が店先でキョロキョロしていますね。」
「本当ですね。」
アリスはボーっと見ていたが、店員がアリスを確認すると小走りに駆け寄って来る。
「アリスお嬢様、キタミザト様からご伝言を預かっております。」
と、アリスに二つ折りの手紙が渡される。
「はい、ありがとう。
中の雰囲気はどうですか?」
「何事もありません。ゆったりと話し合われています。」
「そうですか、わかりました。」
「では、失礼します。」
と、店員は店に戻って行った。
アリスは店員が店内に戻るのを確認して、手紙の中を確認する。
「・・・」
「・・・何と?」
「いえ、二人のドラ息子がもう少ししたら来るので、入って少し経ったら私もおいでと。」
「・・・何をさせるのでしょうね?」
「さぁ・・・と言うより私がここに居るのが何でわかっているのでしょうか?
朝は黙っていたのですけど。」
「あぁ・・・それはですね・・・」
「何か知っていますか?」
「二人の主人が入る前に窓を開けてキタミザト様がパイプで一服していましたよね。」
「していましたね。」
「アリスお嬢様が来られる前からそうだったのですけど。
その際に私と目線が合ってしまいましてね。」
「・・・」
「こっそりとうちの若手を窓の下に行かせたら、キタミザト様からですね。
『アリスお嬢様も来るでしょうからお茶でもしていてください。』と伝言を受け取っています。」
「・・・」
「どうしてそう思われるのかも聞いたのですが。
『朝からこの件で何も言ってこないので不自然でしたし、あのアリスお嬢様が動かないとでも?』と説明されて納得しました。」
「むぅ・・・タケオ様に行動が読まれています。」
アリスが店内の武雄に向かってジト目をする。
兵士長は苦笑してアリスを見守るのだった。
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