第224話 15日目 待ち合わせ。
武雄は、以前アリスと来たカフェの一番奥の席でお茶をしながら本を読んでいる。
今日は何事も無く起床し・・・アリスの膝蹴りは日課になった模様。
朝食と客間で皆でティータイムを済ませ、早々に屋敷を出て店の開店と同時に奥の席を陣取って本を読んでいた。
「たまにはのんびりとお茶をしながらタバコも良いですね~。」
奥の席は窓を開けていれば喫煙可になっていた。
テーブルはタケオが来た際は四角だったが、丸のガラス板のテーブルにしてもらっている。
武雄は、のんびりしながら待ち人を待つのだった。
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カフェがある一区画先の建物の陰から1組の男女がカフェを見ている。
「・・・なぜ、ここなのでしょう?」
「さぁ?ノース小隊長が待ち合わせ場所を聞いたらここが良いと指定されたとのことです。
確か奥に2席分だけ他から奥まった作りになっていましたね。」
「良く知っていますね。」
「いえ、偶然にも先週ここで家族でお茶をしましたので。」
「なるほど・・・ん?馬車が2台きましたね。」
男女は馬車から見えない様に体を少し建物側に隠す。
と、2台の馬車は同時に店前に止まり、それぞれ御者台から強面の男性が降りて馬車の扉を開くと男性が2人ずつ降りてくる。
何を話しているかはわからないが、4人は一緒に店内に入って行った。
「・・・兵士長、あれが?」
「はい。
前を歩いていた2人が南の歓楽街の主人のバーナードと北の歓楽街の主人のカーティスです。
後ろの2人は側近でしょう。」
「・・・強くはなさそうですね。」
「・・・アリスお嬢様・・・
お嬢様に匹敵する強さを持っているのはキタミザト様くらいです。
あの側近が2人がかりでキタミザト様に襲い掛かっても難なく対処すると思いますよ?」
「・・・私もタケオ様もそんなには強くないですよ?」
「ご冗談を・・・お二人を敵に回す度胸があるのは・・・無知でなおかつ自殺願望者くらいです。」
「なんだか酷い言われ様です。」
「少なくともこの街では、お二人の逆鱗に触れて生き残れる者はいません。
街中が知っています。」
「・・・暴君なみの扱いですけど?
・・・私もタケオ様もそんな我が儘を言ったり、暴力を振るってはいないと思いますが?」
「だからです。
キレるとどうなるかわからないなら穏便にやり過ごそうとしているのです。」
「・・・街の住民から嫌われているのでしょうか?」
「いいえ、アリスお嬢様は敬愛されていますよ。
キタミザト様は歓迎されていますね。
それに『やっとアリスお嬢様が結婚できる』と皆が胸をなでおろしています。」
「はぁ・・・皆が私の事を心配してくれていたのはわかっていましたけど・・・
そんなに結婚しないのが心配事だったのでしょうか?」
アリスはガックリとする。
「はい。アリスお嬢様はお転婆でしたし・・・それに武勲が・・・」
「その話もタケオ様から解説されています。」
「流石は、キタミザト様ですね。」
アリスはため息をつき、兵士長は感心した様に頷くのだった。
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「お待たせした様で。」
武雄は声をかけられ顔をあげると、恰幅が良い初老の男性と筋肉質の中年の男性がいた。
「いえ、のんびりしていましたから問題ないですね。
お茶でもいかがです?」
武雄は本を閉じ、着席を勧める。
「では。」
「失礼する。」
二人は空いている席に着くと店員が寄ってきたので、お茶セットを置いて行く。
三人の位置関係は正三角形の様に均一にしている。
武雄がテーブルを変える時に席も移動させておいた。
「・・・すでに注文済みか・・・」武雄は心の中で感心する。
「自己紹介をした方が?」
恰幅の良い男性が武雄に聞いてくる。
「急かすつもりはありません。
折角の料理です。まずはお茶が冷めない内に召しあがった方が良いのでは?」
武雄は話を急かさない。
「そうですね。
バーナードさん頂きましょう。」
「はい。では、少しお待ちください。」
筋肉質の男性が頷き、恰幅の良い男性に促す。
「・・・」
「・・・」
「・・・」
3人とも何も話さない。
筋肉質の男性も恰幅の良い男性はモクモクとお茶セットを食べる。
武雄はキセルで一服しながらボーっと二人を見ている。
二人ともあっと言う間に完食。
と、店員がやってきて食器を片付け、3人の前に新しいお茶が配膳される。
配膳が終わると店員は見えない所まで下がって行った。
「ふむ、ここのマドレーヌは何時食べても美味しいですね。」
恰幅の良い男性が頷きながら評価する。
「ですね。
と、では、私から自己紹介をしましょう。
街の北で不動産業をしているクリフォード・カーティスと言います。
この度は、お誘いをいただきましたので参りました。」
筋肉質の男性は、そう自己紹介をする。
「街の南で不動産業をしているクリフトン・バーナードと申します。
この度は、お招きに預かり光栄です。」
「エルヴィス家所属、タケオ・キタミザトです。
急にお越しいただいて申し訳ないです。」
「いえいえ、街の話題のキタミザト様からのお招きです。
こちらとしても興味がありましたので。」
「バーナードさんの言われる通り私も気になっていました。」
「そうですか。
それは良かったです。」
武雄は微笑を浮かべる。
3者の会談が始まった。
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