第223話 14日目 就寝とレイラの考察。
今日も「さて寝るかの」とエルヴィス爺さんの言葉と共に皆が客間を出ていき、武雄とアリスとミアも寝室に戻った。
武雄はもう日課になっている風呂のお湯張りをし、アリスとミアを先に風呂に入れ、その間に書斎で落書きもし、風呂を上がったアリスとミアの髪を軽く乾かし、自身もお風呂に入り今寝室に戻ってきた。
「良いお風呂でした。」
と武雄が寝室に戻って来る。
「タケオ様、おかえりなさい。」
とアリスはベッドに腰かけて、にこやかに出迎える。
ミアはベッド横の机でウトウトしている。
武雄はアリスの横に腰をかける。
「ミア、眠いなら自分の部屋で寝ましょうか?」
「ふぁい・・・主、アリス様、おやすみなさい。」
「ミアちゃん、おやすみ。」
「おやすみ、ミア。ちゃんと部屋に帰るのですよ?」
「はぃ・・・」
と、ミアは机から飛び立つも超低空をフラフラ飛びながら武雄の書斎に向かう。
武雄はミアの後ろを歩いて一緒に書斎に通じる扉まで向かい、扉を少し開けるとミアが入って行く。
ミアが書斎の中に入ったのを確認して、武雄は扉を閉めアリスの元に戻って来る。
「なんだかんだでミアも疲れているみたいですね。」
武雄は苦笑する。
「はい、まぁ当たり前ですよね。
初めてに近いくらい多くの人に囲まれたのですから。」
アリスも苦笑する。
「それにしてもここの街の住民は妖精を怖がっていませんでしたね。」
「この国では、妖精は軽い悪戯はしても人畜無害という認識ですね。」
「なるほど・・・でも、それは話だけなんですよね?」
「そうですね。なのでどちらかと言えば話だけだったのが見れて物珍しいのではないでしょうか?」
「ふむ・・・そうですか。」
「タケオ様、なにかあるので?」
「いえ、最初ミアは私に捕まった際に見世物小屋に入れられると覚悟したそうです。
・・・今日の感じでも十分に見世物小屋状態だったなぁと。」
「珍しいですからね・・・あと数日はこの状態だと思います。
・・・それでも毎日外に出る様にすればその内、近寄ってはこなくなるでしょうね。」
「そう願います。
まぁ私かアリスお嬢様の近くにいれば、守ってあげられますから。
アリスお嬢様、ミアの面倒をお願いしますね。」
「構いませんよ。
それにしても今日のミアちゃんの青果屋での食べっぷり良かったですね。」
「ええ、一目散に・・・それも一番奥のリンゴに行きましたね。」
「おじさんとおばさんが贈答用に美味しそうなのを奥にしていたらしいですよ?」
「え?そうなのですか?
ミアは果実の目利きが出来るのかもしれませんね。」
「あ、明日は例のお酒が届くのですよね。
それ用の果物をミアちゃんに選んで貰いましょうか。」
「良いですね。リンゴ、オレンジ、トマトなんかを買ってみましょうか。」
「美味しいお酒に出会えそうですね。」
「ええ。」
武雄とアリスは笑い合うのだった。
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馬車は順調に走っている。
先ほど、馬を代えている為に街道沿いの村によって小休止していたのだが、エルヴィス邸から伝令がやってきて伝言を受け取っていた。
アズパール王とウィリアムは難しい顔をしながら思案している。
レイラは絶賛執筆中。
「・・・まさか転移魔法とはな・・・」
「エルヴィス伯爵が緊急に我々に教えるぐらいですから・・・相当驚いたのでしょうね。」
「あぁ、ここ百年は使い手がいなかったはずだが・・・
王都に戻ってから爺に聞いてみるしかないな。」
「そうですね、今はそれしか手が無いですね。
あとは指示にあったこまめな模様替えですかね。」
「そうだな、寝所は週1くらいで変えるべきだろうな。」
「王家全てに実施させましょう。」
「だな。」
アズパール王とウィリアムが頷く。
と
「・・・あの伝言は変でしたね。」
レイラが執筆しながら言ってくる。
「ん?レイラ、どうした?」
「いえ、あの伝言は・・・なんだか違和感がありましたから・・・」
「ん?そうか?」
「・・・レイラ、あの伝言は誰が言ったと思う?」
「・・・タケオさんでしょうね。」
ウィリアムの質問にレイラが顔を上げて少し悩んでから言う。
「うむ・・・その心は?」
「お爺さまやフレデリックであればわざわざ『生き残りを発見した』とは言わないと思います。
『敵処分中に痕跡発見』とか『敵より情報入手』とか結果だけを報告すると思います。
なぜ経緯を入れたのか・・・そしてオーガとゴブリンだけしかいなかったのに尋問が出来るとはどういう状況なんでしょうね?
それに昨日は兵士達がゴブリン達の死体をまとめて焼いているのにその場所から生き残りが?
不自然です。
という事は、私達が居る時に尋問が・・・会話が出来る何かを発見していたと考えた方が良いでしょうね。
お爺さまやフレデリックは私達とほとんど一緒に客間にいました。
アリスは帰ってきて早々寝ていましたし・・・
タケオさんだけは、後から屋敷に戻って来ていましたね
・・・状況からしてタケオさんが生き残りを連れ帰ったと考えるのが妥当ですね。
・・・あれ?尋問は終了と言っていましたが、生死の報告がなかったですね。
ならば・・・話をしてみたが詳細は知ってはいなかった。
聞き取りをしたら転移魔法という珍しい単語が出てきたから私達に注意を出したくらいでしょうか?
まぁタケオさんなら脅威とならないと考えたら解放しちゃいそうですね。」
「うむ、タケオが隠蔽の主犯なのは確定だな。
ただし、尋問をしたのはタケオ一人ではないだろう。
・・・たぶん我らが屋敷を出てからタケオが生き残りを皆に見せたのだろう。
そして転移魔法を使ったことがその生き残りからわかったのでエルヴィス伯爵の命で伝令が走った・・・か?」
「・・・オーガもゴブリンも人間とは話はできませんよね?
で、生き残りを・・・話が出来る物を発見してタケオさんが連れ帰った・・・
街中を移動していても騒がれない大きさだったのでしょうか?
あの戦闘後に何をタケオさんは見つけたのでしょうね?」
「少なくともオーガやゴブリンならタケオは処分するだろうな。
あの戦闘でオーガ相手に一騎打ちをこなす事ができたのだ。
その辺は尋問するまでもなく処分するだけの決断力は持っているだろう。」
「でしょうね。
まぁタケオさんなら脅威と感じる者はちゃんと処分するでしょうから。
相当、人畜無害な物を見つけてしまったのでしょうね・・・
なんで私達が居る時に言わなかったのかしら?」
「うむ・・・タケオの事だ・・・意外と面倒くさかったのではないか?
それとも話を聞いて同情したか・・・
詳しい話は王都にやってきた際に聞いてみることにしよう。」
アズパール王とウィリアム、レイラは頷くのだった。
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