第207話 アリスが戻るまでの雑談。馬車の中の退屈しのぎ。
「タケオ様、気になったのですが。」
「スミス坊ちゃん、何ですか?」
スミスが武雄に質問をしてくる。
「さっきからミアの名前を連呼していますけど・・・なぜです?」
「ん?・・・あぁ、あからさまにはしていましたけど・・・気になりましたか。」
「はい。」
「これは心理学で学ぶんですけどね。」
「心理学???」
「心の動きとか習慣とかを学問にした物です。
で、カクテルパーティ効果という物をしていたのです。」
「カクテルパーティ効果?」
「これは偉い学者さんが考えついた・・・定義したのですけどね。
人って常日頃いろんな音を聞いているのですが、実は頭で聞きたい音だけを聞くように自動で調整しているのです。」
「そうなのですか?」
「例えば道を歩いている時、聞こえてはいても全ての人の会話を聞いてはいないでしょう?
ただの音として聞き流しているのですよ。」
「なるほど。」
「で、カクテルパーティ効果とは、周りで雑多な話をされていても自分が興味のある人の会話や自分の名前とかは、自然と聞き取ることができると言う考え方なんです。」
「あ、確かに。話している人の会話は聞こえるけど、他はうるさいだけの音と感じていますね。」
「それですね。
で、私がしたのはそれを利用した方法です。」
「利用ですか?」
「つまりですね。
会話の中でできるだけその人の名前を呼ぶだけでも、無意識のうちに相手の注意がこちらに向いて印象づけられる効果があるんですよ。
ミア、さっき私と会話していてどう思いましたか?」
「んー・・・この人は私に興味があるんだと思いました。」
「そうですね。
私を頻繁に呼んでいる、私に興味があるんだ、この人の話を聞いてみよう。
と、思って貰える様にしたのです。
まぁ、絶対ではないのですけどね。」
「へぇ~、そうなのですね。」
「ただ・・・これを一番上手く使うのは飲み屋の女性でしょうね。」
「え?」
「綺麗な女性に名前を連呼されて、おだてられて・・・金がいくらあっても足りませんね。」
武雄は苦笑する。
「どこかで聞いた手口だとは思ったのだがの・・・テクニックなのじゃな?」
エルヴィス爺さんとフレデリックも苦笑する。
「特に酒が入ると思考力が低下しますからね。
騙されやすくなりますね。
まぁ、通常でも会話に名前を入れてあげると人間関係が深まると言われていますよ。」
「そうなのですか?」
「個人的には与える印象が良くなる感じだと認識していますね。
・・・そうですね・・・
『スミスさん、それを取ってください。』と『それを取ってください。』・・・どうです?」
「印象が全然、違いますね。」
「なので、スミス坊ちゃんも寄宿舎で良い人間関係を築くのに、会話に名前を入れた方がやりやすいと思いますよ?」
「わかりました。」
「出来るだけ自然に出来る様になれば良いですね。
あからさま過ぎると心証を悪くする可能性がありますから。」
「難しそうです。」
「慣れですね。大丈夫、スミス坊ちゃんなら出来ますよ。」
「わかりました、やってみます。」
スミスは頷くのだった。
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馬車は順調に走っている。
「暇だな・・・」
「夜になればさらに暇になりますね。」
アズパール王とウィリアムが暇を持て余しているなかで、レイラは執筆中。
・・
・
「・・・はい。」
レイラが3通の封筒を出してくる。
「ん?レイラ、これは?」
「タケオさんから、個人別の手紙を預かっています。」
3人はメガネをかけ、自分宛ての封筒を開けて中を見ると2、3枚の手紙が入っている様だった。
「「「・・・」」」
3人は真剣な顔つきで読む。
・・
・
「・・・改めて、タケオは知識が豊富なのがわかるな。」
アズパール王は苦笑する。
「お義父さまのは何が?」
「各種の政治体制の賛否と物流網の構想案だな。
レイラのはなんだ?」
「私は、バターサンドとマヨネーズとタマゴサンドのレシピです。」
「それは良いな!王都であれが食べられるのは良い!」
アズパール王は満面の笑みで頷く。
「ウィリアムは何が書いてあったの?」
「僕はお酒の事と夫婦仲を維持する方法ですね。
まぁ知識と言うより意見を交換しましょうという感じで。」
「夫婦仲を?タケオさんは心配性ですね。
あ!年齢は上でも結婚の長さでは私達の方が先輩ですから結婚が不安なんですかね?」
レイラは苦笑する。
「タケオさんもこっちの知識が欲しいみたいだね。」
ウィリアムは、そう言いながら手紙を封筒に戻し、懐にしまう。
「タケオさんの知らない知識であっと言わせないといけませんね。」
レイラは楽しそうに頷く。
ちなみにレイラ宛ての手紙には料理のレシピの他に「保健」の1、2、5ページ目の概要が書いてあった。
そして、手紙の最後には・・・
「保健の3、4ページ目は、ウィリアムさんの手紙に同封しています。
レイラさん、頑張って!」
武雄からの応援メッセージが。
レイラは心の中で「流石!タケオさん、わかってるわ。」と感心と感謝をするのだった。
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