第205話 妖精と仁王
客間のドアがノックされる。
エルヴィス爺さんが入室の許可を出すと執事が扉を開け執事とテイラー店長が入って来る。
「失礼します、魔法具商店のテイラー殿が参られました。」
「伯爵様、お呼びと伺いました。」
中にはエルヴィス爺さんとアリス、スミス、武雄、フレデリックがいた。
「うむ、夜分にすまんな。」
「いえ。」
「早急で悪いが、少し知識を分けてくれ。」
「はい。」
と、空いている席にテイラーは座り目の前の鳥かごを見て固まる。
「・・・妖精?・・・」
「うむ・・・タケオ。」
「はい。ミア、すまないが、もう一度先ほどの話を。」
「わかりました。」
ミアは、もう一度先ほどの説明をする。
エルヴィス爺さんと話した転移魔法で移動したことも話す。
・・
・
話を聞き終えたテイラーは目を瞑り思案している。
「・・・王都での精査が必要かと。」
「やはりそう思うか。」
「これは国家の危機に抵触する可能性があります。」
テイラーは難しい顔で言う。
「・・・テイラー店長、良いですか?」
「キタミザト様、何でしょう。」
「転移魔法ってそんなに凄いのですか?」
「そうですね・・・どんな所にも瞬時に転移が出来る、そんな魔法です。
ただし、転移する場所のイメージを詳細にしないといけないとかで、知らない場所へいきなり行けるわけではありません。
私が王都に居た時は、使用できる者はいませんでした。
そもそも転移魔法は名前だけ教本に載っている程度で、やり方も残っていないはずです。
ここ百年は使用できる者がいないとされていました。
童話と同じ程度のあるかどうかすらわからない魔法だったのです。」
「・・・?・・・何だか不便な魔法ですね。
・・・フレデリックさん、昨日の魔物発見の第一報の場所には何がありますか?」
「・・・小高い丘と草原ですね。」
「なるほど・・・イメージがしやすいのか・・・
テイラー店長、その転移魔法を防ぐことはできますか?」
「できません。
知っている魔法なら、魔法を感知する魔法で認識は出来るはずですので対処はできるでしょうが・・・
ここ百年使用者が居ない魔法は、今の人達では防ぎようがないです。」
「なるほど。
エルヴィスさん、至急、レイラさん宛に伝文を。」
「うむ、なんと送るかの。」
「昨日の戦闘場所から敵生き残り発見、詳細はわからず尋問終了。
ただし、集結は転移魔法が使用された模様。
対抗策なしと判断、現状では、こまめに模様替え実施願う。」
「妖精の事は書かないのか?」
「・・・書く必要が?
というより妖精って珍しい物なのですか???」
「アズパール王国で妖精が見つかったことは最近では、十数年前だったかの・・・
それも魔王国との国境沿いだったはずじゃ。
発見されただけで、姿をすぐに消したとのことだが・・・
そもそも生息地が魔王国の奥にある妖精やエルフが居る森となっているはずじゃ。
そこまで行くのは、とてもでないが我々では難しいの。
と、フレデリック、至急、移動中のレイラに知らせよ。」
「はい。」
フレデリックは、部下の執事に伝令を出す様に指示を出す。
執事は速足で客間を退出していった。
「まぁ、敵国ですしね。
あまり近づけないでしょう。
・・・ミアの処遇はどうしましょうか・・・」
「うむ、タケオはどうしたい?
発見者であるタケオが殺生与奪権を有しておる。」
「これ以上の詳しい事はわからないでしょう・・・殺す気もありませんので釈放です。」
「そう言うだろうと思ったがの。
・・・わしは良いと思うが?」
「私も異存はありません。」
「僕もありません。」
「私もありません。」
アリス、スミス、フレデリックが武雄を支持する。
「テイラー店長は?」
「私ですか??・・・そうですね。
王都に居る時の私だったら拒否、今の店長と言う立場ならキタミザト様を支持します。」
「ふーん、やはり研究者はそう思いますか。」
「王都の魔法師達は彼女を研究したいでしょうね。
・・・ですが、ここは地方です。
お好きにするのが一番かと思います。」
「そうですか・・・」
武雄は鳥かごの扉を開ける。
「ミア、出ておいで。」
恐る恐る鳥かごの外に出る。
「ミア、解放します。好きなようにして構いません。」
「え・・・あの・・・」
ミアはキョロキョロと周りを見る。
「フフ、迷っておる様だの!幻想種の妖精よ!」
どこからともなく声が聞こえる。
「あ・・・こら!・・ニオ・・・勝手に・・・こら・・・」
テイラー店長はアタフタし始めると。
「ポンッ」と音と共にミアと同じ大きさの顔の彫が深い何かが空中に現れる。
と、優雅に着地する。
武雄は、その姿形を見て「は?」と心の中で思う。
・・・確かこの姿・・・お寺にいる様な・・・それに「ニオ」・・・ねぇ・・・
「こら!ニオ!勝手に出ないと約束しただろう!」
テイラーは慌てながら声を荒げるが・・・
「ふん、同郷に近い者が困っているのだ。助けるのが役目だ。」
と、テイラーの声を気にすることもなくミアに近づくと観察する。
「・・・ふむ。妖精よ、迷うことはない。自身の好きな様にせよ。」
「・・・アナタは?」
ミアは不信がりながらも同じ大きさのニオに興味があるようだ。
「我か・・・ニオという。まぁ妖精と同じような者だ。
・・・タケオと言ったな、お主は我の事を知っておるだろう?」
ニオと自分で言っている者が武雄に顔を向け聞いてくる。
「まさか・・・仁王様ですか?」
武雄は目を細め訝しみながら聞く。
「うむ、さすがは日本人だな。」
「私の事は知っていたので?」
「テイラーの店に来ていただろう?なので見ていた。」
「・・・ここは何です?」
「お主がいた所とは別の世界だ。それ以上でも以下でもない。」
「そうですか・・・
わかりました。」
武雄はニオこと仁王に頭を下げる。
「えーっと・・・キタミザト様?ニオを知っているのですか?」
「テイラー店長、その前にソレはなんですか?」
アリスが聞く。
「う・・・私の精霊です。私は精霊魔法師です。」
「精霊・・・これが・・・」
アリスはじーっと眺める。
「仁王様は、なぜこちらに?」
「テイラーが我を呼んだのだ。」
「たまたま王城の禁忌本を読めてしまって・・・契約を。
門や城の強化しかできませんが・・・」
テイラーはガックリとしながら白状する。
「仁王様が強化しかしない??」
武雄は目を細め訝しむ。
「ふふ、タケオはわかっているな。テイラーよ、もっと良く勉強をしろと言うているだろう。」
「タケオ様、これはどんな精霊なのですか?」
アリスが聞いてくる。
「にわか知識ですが・・・
仁王こと金剛力士と言います。
聖域の門の左右に陣取り、外敵の侵入を防ぐ守護神として私のいた所では祀っていました。
ただ・・二体一対なのでは?」
「あ~・・・阿形はな・・・手一杯でそっちの事はできませんと言ってな。」
「・・・俗っぽい事実ですね。」
武雄は呆れるしかなかった。
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