第197話 12日目 夕食後の報告会。(そも貴族とは?)
客間に皆が再び集まる。
フレデリックが食後のお茶を入れ、皆の前に置き、皆から少し後ろに下がる。
「さて、皆が集まったの。」
「先ほどは、少し熱くなってしまい、ご心配をかけました。」
武雄が皆に謝る。
武雄を除く皆がにこやかに頷く。
「ところで伯爵。」
「はい、何でしょうか。」
「さっき、タケオと話していて、貴族とは?と言う話になったのだが。」
「はい。」
「タケオに何て説明しているのだ?」
「・・・王を頂点に公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵という順位付けがされており、
順位によって領地の大きさが決まっているわけではない事、
男子の世襲制である事、極稀に平民からも貴族に取り立てられる事もある事ぐらいは説明しましたが?」
「いや・・・タケオ的にはメリットとデメリットがわからないと言っていてな。
どんな説明をしたのか気になったのだ。」
「貴族制度がわからないのですけど?」
武雄は苦笑する。
「しょうがない・・・我とウィリアムが説明しようか。」
「そうですね。」
アズパール王とウィリアムは苦笑しながら語りだす。
エルヴィス爺さんやアリス、スミスは「豪華な講師だなぁ」と呆れ模様だ。
「アズパール王国での貴族とはな。
国王から地域の支配権を付与される代わりに、防衛や戦力提供の義務を負う軍務制度としてあるのだ。
そして、王都への納税も課している。」
「ん?でも・・・領地を持たずに王都に居る方もいますよね??
確か・・・アリスお嬢様から王都には20家族ぐらい居る様な事は聞きました。
その方たちは領地を持たずに何を?」
「その者達は王への御意見番をしている。
国の運営は基本的に文官の仕事だが、その文官の提案事項や予算配分等々を監視し意見するのが王都の貴族会議だ。」
「えーっと・・・はい、わかります。」
武雄の中で日本でも国会と行政、地方自治と別れている事と同じかぁと理解する。
「で、1貴族には毎年、金貨300枚の報酬が支払われる。」
「多いのか少ないのか判断が出来ませんね。
・・・あれ?でも騎士の爵位もあるのですよね?1代限りの。」
「そうですね。
騎士は貴族と言ってもどこかの騎士団に所属していて、特別卿として毎年、金20枚が支払われます。
大体、どの伯爵領でも騎士章持ちは15名前後ですね。」
「ふむ。で、現在、王都勤めの貴族は25家族。領地持ちは15家族となっているな。
領地持ちは王都からの報酬も貰うが、領地運営で決められた納税額を納めれば、後は自分の収入になる。
総じて領地持ちの貴族の方が裕福になる様になっている。」
「タケオ、騙されてはならんの。」
「む・・・伯爵。」
「領地持ちの貴族は兵士を維持し、参戦する義務が生じる。
わしの所は1000名の維持じゃ。
実質は1200名前後を維持するのじゃが、その経費は領地からの収入で賄う。
また、領地運営をする為の文官の費用も雇う必要が出てくる。
そうすると領地から出る収益から王都への納税と文官、武官の雇費用でトントンなのが実情じゃ。
全然、儲からんのじゃ。」
「なるほど・・・
という事は・・・農作物の売り上げと関税収入くらいが収入ですか・・・」
「ほぉ、そう思いますか?」
フレデリックが感心した様に言う。
「いえ・・・単純に王都、ドワーフの王国、魔王国の通行の要所にエルヴィス領はありますので、輸入、輸出の関係から通行税がある程度見込めるかなぁっと。
・・・それでもトントンなのでしょう?」
「うむ。」
エルヴィス爺さんがガックリとする。
「エルヴィス領は国の東北部であり、立地的に農作地には向かないですね。
農作物の収入はあまり良くないですし。
通行税が取れなければ、維持できません。
幸い、ドワーフの王国からの鉱物の輸入等があるお陰で持っていますね。
対して、ゴドウィン辺境伯爵領は我らの4倍くらい広い領地の為、農地のみの収入で賄っています。
ただし、兵士3000名の維持が義務ですので、それに見合っているかと。
テンプル伯爵領の領地は我らとほぼ同じですが、気候が良く農作にはうってつけです。
さらに漁港もある為、農業、水産業の収入が多いのです。
この辺では一番の金持ちでしょうか?」
「穀倉地帯であり、海外貿易の拠点になり得ますか・・・
収入だけ見れば羨ましいですね。」
「ん?含みがあるな?」
「人と物の流入監視が難しそうですね。
陸続きであれば、流入にある程度、監視ができますけど・・・」
「うむ、テンプル伯爵が頭を悩ませている事柄がそれだな。
関所を通らないで流通されている物も多いと聞くの。」
「タケオ、そう言った場合の対策はあると思うか?」
「徹底的に取り締まるしかないでしょうね・・・
密輸しようとした輩は厳罰で、押収した物は、正規の価格で販売する。
密輸は商売にならないと思わせれば、正規に流通させるでしょうね。」
「そうか・・・現状とあまり変わらないな。」
「さすがに犯罪組織との戦いは、難しいでしょう。
根気強くやっていくしかありませんね。」
「そうなのだな。」
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