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第195話 12日目 夕食後の報告会。(戦闘報告とエルヴィス家の成り立ち。)

「さて。マッタリした所で、今日はタケオ、アリス、ご苦労じゃったの。」

エルヴィス爺さんが二人を労う。

「お爺さま、ありがとうございます。」

「エルヴィスさん、ありがとうございます。」

他の面々がにこやかに頷く。

「タケオの小銃は良さそうだな。」

「そうですね、アランさん。何とか実戦で使えました。

 ただ・・今回は小銃の威力と運に恵まれました。」

「そうなのですか?」

武雄の感想にウィリアムが聞いてくる。

「ええ。オーガが思ったより柔らかかったのとギリギリまで走り出さなかったことですね。」

「確かに随分手前まで悠長に歩いていたな。」

「・・・オーガ・・いや魔物ってああいう物なのですか?」

「いや・・・獣に近いはずだな。

 少数で群れを作って、獲物が見えれば襲い掛かると聞いているが・・・」

アズパール王は悩む。

「魔王国との戦では?」

「かなり統率が取られている・・・が、戦闘が始まれば突撃戦がメインだな。

 あんなに歩いたのは聞いたことがない。

 それに魔王国が戦支度をしていたとの報告はない。

 戦準備をしていない状態での今回の襲撃・・・ちょっと引っかかるな。」

「・・・まぁ、それは王都が判断すれば良いです。

 今は犠牲者が出なかったことがありがたいですね。」

「そうだな。

 それにしてもタケオの戦術と兵士長の回復戦法・・・上手くいったな。」

アズパール王は嬉しそうに言う。

「上手くいきましたね・・・良かったです。」

武雄は苦笑する。

「タケオさんは、どのくらいを想定していましたか?」

ウィリアムが死傷者について聞いてくる。

「・・・新兵小隊の3割・・・騎士団と兵士が1割・・・

 最低80名と想定していました。」

「そうか・・・覚悟をしていたか。」

「はい・・・自分の命令で人が死ぬ・・・その想像もちゃんとしていました。

 戦闘後の遺族からの罵声も含め。」

「でも、皆さん、わかってくれるのでは?

 街の防衛戦なのです。

 ・・・・街の為に死ぬことは名誉なことだと・・・仕方がないと。」

スミス坊ちゃんが自分の考えを言う。

武雄は難しい顔をしながら考える。

「・・・スミス坊ちゃん、それは施政者の妄想です。

 どんな理由があっても兵士が死んだのは命令をした人の責任です。

 そこから目を逸らしてはいけません。

 アズパール王国の・・・エルヴィス家の為に死ぬことは名誉・・・

 ・・・名誉の為に死にたいなんて人は稀です。

 国の為、街の為・・・人の上に立つ者が現実を見ずに自分への慰めに酔ってしまってはいけません。

 仕方ないなんて言葉で切り捨ててはいけません。

 平気、大丈夫と言う言葉を受けて喜んで・・・そんな言葉で自分を慰めて何の意味があるのです?

 戦で命を落とした全ての人達への責任は、戦を命じた人が背負います。

 そして、死んでいった者達の・・・後ろから追いかけて来ている者達の願いを全て受けとめ一歩一歩前に進むしかありません。

 現実から目を逸らしても何も変わりません。

 辛い現実が目の前に壁となってあるのなら、壁を乗り越えれば良い、乗り越えられないなら横から回っても良い、違う方向に向かっても良い。

 でも、見ないふりをするのはダメです。

 現実を見れないなら施政者の資格はありません。

 今すぐ領地を国に返上するべきです。

 ・・

 ・

 すみません、少し頭を冷やしてきます。」

武雄は席を立ち退出しようとする。

「まぁゆっくりしてこい。」

アズパール王は武雄に声をかける。

「すみません。」

武雄は後ろを振り返らず、退出して行った。


客間に残されたのはエルヴィス爺さんとアリス、スミス、フレデリック、アズパール王、ウィリアム、レイラの7名。

フレデリックがお茶を皆に出していた。

「スミス、タケオさんが今言ってくれて良かったわね。」

レイラはお茶を飲みながら言う。

「はい・・・しかし・・・」

スミスは俯く。

「いやいや、あれでもタケオさんは優しく言ってくれていたよ。

 口調も荒らげずに・・・教える様に。」

ウィリアムが優しく声をかける。

「伯爵、エルヴィス家がどうしてエルヴィス領を治めているか・・・

 その意味をもう少し、教えておかないと将来に禍根を残すことになるな。」

「は!ご忠告ありがたく。」

「誇りとやらに拘って、民や家臣を死地に追いやることになる・・・

 他国、自国問わず歴史が証明していますね。」

ウィリアムがそう付け足す。

「うむ。では、息子夫婦ともども我らも席を外すか。」

アズパール王とウィリアム、レイラも退出していく。

・・

「ふぅ・・・スミス、アリス、よく聞きなさい。

 そもそもエルヴィス家とは何か?

 初代様が当時のアズパール国王よりこの地を拝領し、ドワーフ、魔王国から王都を守る東北の守りの為に入り、そして街道を伸ばし要衝を形成した・・・それがエルヴィス家の成り立ちじゃ。

 初代様がまず行ったことは、土地を知る事。

 領内を歩き、人が幸せになる為に必要な事は何なのか考えたという。

 人が幸せになるとはどういうことか?

 ・・・それは腹を一杯に出来るほどの小麦があることという考えにたどり着き、初代様は開墾を奨励し、税を収穫高の半分と他の領地に比べ軽く改めたと言う。

 重税に苦しめられていた民は喜び、初代様を讃え、慕ってくれたのじゃ。

 だからエルヴィス家に人が集まり民が集まり発展を始めるきっかけになるのじゃ。

 つまりエルヴィス家とは、人がエルヴィス家であると認めてくれたからエルヴィス家なのだ。

 エルヴィス家があっての民が居るのではない。民が認めてくれて、支えてくれるから我々はエルヴィス家で居られるのじゃ。

 我らがエルヴィス家と言う名に特別な価値があると勘違いしてしまえば、それはいつか自らの首を刎ねる事になってしまうだろうの。

 間違えてはいけないのじゃ。民達が居て、手助けしてくれる兵士や文官が居て、その者達に支えられているからこそ、我らはエルヴィス家で居られるのだ。」

「・・・はい。」

スミスは小声で答える。

アリスは頷くのみだ。

「うむ。では、スミス、わかっておるな。」

「はい。タケオ様に謝ってきます。」



ここまで読んで下さりありがとうございます。

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