第194話 グレンヴィル家(料理長)の家族団らん。
「あぁ・・・なんてことなの!?」
ラザニアとプリンを食べ終わり妻がガックリとする。
「な、タケオは凄いだろ?」
料理長はニヤニヤしている。
「凄いなんてものではないわよ!キタミザト様は、まぎれもない天才よ!」
「キタミザト様って凄いよね。」
ヒルダもニヤニヤしている。
「タケオはこういった料理を作って『家庭料理』呼ばわりだぞ?」
「そりゃ、料理人達が泣くわね。
私も感動で泣きそうよ。」
「タケオ的には食事を文化まで押し上げたいと言っていてな。
『私が求めているのは、私の料理、調理法を見て料理人は何を感じ取り、次に何を作り出すのか』だとさ。」
「・・・要求が高すぎるわ・・・この料理の発展系を想像しろなんて・・・
追いつくのも出来るかどうか・・・」
妻はため息をつく。
「真似だけをするなら『料理が上手い人達』呼ばわりしますって言っていたよね。」
ヒルダは追撃を食らわす。
「・・・キタミザト様は鬼ね。
もしかして・・・さらにキタミザト様の頭の中には新たなレシピが眠っているのかしら?」
「だろうな・・・『私が作る前に作ってくださいね?』って言っていたな。」
料理長は苦笑しながら言う。
その言葉を聞き、さらに妻はガックリとする。
「はぁ・・・で、なんでヒルダを見て喜んだのかしら???」
「ん~・・・発想が良かったと言ってたな。
ヒルダが試作した物を俺は美味しくないと想像したのだが、タケオは美味しさよりも何を考えて作ったのか聞いていたな。」
「そう。ヒルダ、何を考えたの?」
「パスタが段々になったら面白そうって。」
「奇抜・・・というより皆が一度は考えて、そして失敗して諦める考えね。」
「だろう?タケオは調理から料理を創造しないで、料理から調理を考えている節があるな。」
「・・・天才か・・・発想が柔らかいわね。
普通なら食材を見て料理を決めるのだけど・・・料理を考えてから食材を決めるのね。」
「そうだな。ヒルダ、料理人になりたいならこれからいろんな調理法を学ばないと追いつけないぞ?」
「うん、わかっている。」
「それだけではないわね。
いろんな料理を食べて、味を覚えて、同じ味を作ってみて・・・やることは無限にあるわね。」
「やっぱり?」
ヒルダは苦笑する。
「あらゆる料理を食べて、常に考える様に練習しないとね。
ただ・・・ヒルダは、まだまだ子供だし・・・そこまで料理に染まって良いのかしら?」
「そうなんだよなぁ。タケオもヒルダに期待はしている様だが、無理強いさせる気はないみたいだしな。」
「そうなの?私ぐらいで厨房に入る子もいるんでしょ?」
ヒルダは不思議そうに言う。
「強欲な人間なら気に入った子を自分の元で預かって育てるだろうが・・・
タケオはそんなこと考えないだろうな。
やりたいようにしなさいって感じだな。」
「働き出せば考えが固定されるかも知れないものね。
キタミザト様の教育方法は放任ね。
本人がしたいならすれば良い、したくないならしなくて良い。
料理人からすれば厳しいわね。」
「そうなの??自由にして良いのでしょう?」
「 ・・・この教育方法はね、極端な結果になるのよ。
恐ろしく自己管理ができないと大成できない仕組みね。
ただし、ちゃんと出来れば一流を輩出する教育なの。」
「ん~・・・わからない。」
ヒルダは悩むが答えが出ない様だ。
「まぁ、ゆっくりとしていけば良いわよ。
まだ、焦る必要はないわ。
とりあえず、私達が教えてあげるから。」
「うん!わかった。」
ヒルダは満面の笑みで答えるのだった。
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エルヴィス邸がある街の少し遠めの森の中、ローブを深くかぶった二人の男が焚き火を囲んで座っている。
「また、完敗だったな・・・」
「・・・」
「まさか・・・あそこまで被害が出ないとは・・・」
「・・・」
「・・・怒られたか?」
「逆・・・感心してた。」
「まぁ・・・怒られないなら良いか・・・」
「当分・・・エルヴィス邸には手を出さない。」
「だろうな・・・再戦はあるのか?」
「我々の代では・・・ない。」
「そうか・・・次こそはゴドウィン伯爵邸を目指すのか?」
「新しい指令。」
「ん?」
「魔王国に隣接の3伯爵邸は手を出さない。」
「・・・」
「ウィリプ連合国に隣接の・・・伯爵領が次のターゲット。」
「警戒が強いところから緩そうなところへか・・・逆にウィリプ連合国に仕掛けても面白そうだな。」
「指令・・・従うのみ。」
「あぁ。だが、ウィリプ連合国に仕掛けて奴らの憎悪を掻き立てるのも手・・・というだけだ。」
「・・・伝えておく。」
「はぁ・・・休暇でも取るか・・・」
「美味しい物・・・食べる。」
「そうだな。下準備もあるし・・・のんびりとするか・・・」
二人は焚き火を消し、闇に紛れていった。
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