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第193話 ヒルダの帰宅。

「お母さん。ただいま。」

「帰ったぞ。」

「はいはい、ヒルダ、アナタ、おかえりなさい。」

料理長親子は帰宅すると玄関で料理長の妻が出迎えた。

「伯爵様達に粗相はしなかった?」

「・・・たぶん。」

ヒルダは苦笑しながら言う。

「料理を持って帰ってきたぞ。

 温めるから待っていろよ。」

料理長はさっさと台所に向かう。

「楽しかった?」

「とっても。」

母娘はのんびりと会話しながら食卓に座る。

「ねぇ、アナタ聞いてよ。

 昼間に散歩に行ったヒルダがキタミザト様を連れて帰ってきてね。」

「ん?あぁ、その前の所では俺もいたぞ。」

「あら?そうなの?

 まぁいいわ。で、連れて帰ってきてね。

 ヒルダがいきなり、『伯爵邸に行ってくるから』って唐突に言うのよ。」

「だって、早く行かなきゃって思ったんだもん。」

母親の愚痴にヒルダは口を尖らせて答える。

「・・・説明も無しにかい?」

「そう、まったく訳が分からないったらありゃしない。

 キタミザト様も苦笑してたわよ。

 で、キタミザト様が『お嬢様の発想から料理を作りたいので、お借りしても良いですか?』と言ってくれてね。

 二つ返事で『好きに使ってください』って言っちゃったわ。」

「あはは、タケオも随分と端折ったお願いをしたな。」

「もう、とりあえず了承しなくては!と思ってね。

 はぁ・・・で、上手くいったの?」

「あぁ、今日はその料理とデザートを迷惑をかけたお詫びと言ってタケオがお土産に持たせてくれたぞ。」

「そう・・・全然迷惑じゃないのに、律儀な方ね。

 キタミザト様は今日は大変だったでしょうに。」

「え?そうなの?」

ヒルダは不思議そうに聞いてくる。

「あ・・・アナタ?」

「ん?まぁ、終わったから良いんじゃないか?」

「そう。ヒルダ、キタミザト様は今日は初陣だったのよ。」

「え?そんなの知らなかった。」

「そうね、子供たちには知らせないことになっているからね。

 朝、緊急事態の鐘が鳴ってね。言ったでしょう?『城門には今日は行ってはいけない』と。

 詳細は、ヒルダが出かけた後に聞いたけど・・・この街は、ゴブリン+オーガ、400匹の襲撃を受けたのよ。」

「え?多くない??」

ヒルダは驚く。

「キタミザト様は初陣で指揮官として参戦してね。

 犠牲者を一人も出さないという偉業を成し遂げたのよ。

 で、そのことを自慢する事もなく

 『兵士皆が精一杯努力した結果ですので、私を褒めるより兵士達を労ってあげてください。

  私はそんな光景が見れるだけで幸せです』と言っていてね。

 流石、アリスお嬢様を射止めた方ね。謙虚で律儀で。

 どんな方だった?」

「ん~・・・どんな・・・優しかったかな?」

ヒルダは悩みながら言う。

「そう?」

「全く怒られなかった。他の人達へも怒号とかないの。」

「へぇ、私が居た頃の料理長はよく怒っていたわね。」

料理長夫婦は職場結婚をしていた。

「ふふ、タケオが怒ったのは見たことないな。どちらかと言えば、皆を褒めてるな。」

料理長はラザニアの焼き加減を見ながら答える。

「へぇ、良い上司ね。

 アナタからもキタミザト様の話は聞いているけど、かなり奇抜な料理を作るのでしょう?」

「そうだな。

 俺らが知らない調理方法を簡単に披露して見せるな。

 そして今の所・・・失敗していない。」

「凄いわね。」

「あぁ。

 タケオは『家庭料理を出しているだけですけど?』なんて言う物だから・・・うちの料理人達は毎日泣きながら勉強しているぞ。」

「私居なくて良かったわ。プライドズタズタね。」

「まったくだ。」

「ねぇ、お母さん。私疑問に思ったのだけど。」

「なに?」

「今日、キタミザト様の指示でスイーツ担当がメインのソースを作っていたの。

 全然知らない調理法を簡単な指示だけで・・・そんなこと出来るの?スイーツ担当なのに?」

「ふふ、不思議に思ったのね。担当外の調理が簡単に出来ることが。」

「うん。」

「そうねぇ。

 例えば、メイン担当と言ってもスープも出来るし、サラダも出来る。スイーツだって出来るわね。

 今は、たまたまメインの担当ってだけで・・・明日は違う担当になっている事もあるわ。

 エルヴィス家の調理人は皆、いろんな料理が出来るのよ。

 各担当は今日は、この食材を使うと料理長に言われたらレシピを料理長に提案するの。

 調理前に各担当が集まって話し合うのよ。

 で、その際にこんな料理を作りたいと皆で言ってね。

 最終的には料理長がバランスを見ながら献立を決定するシステムになっているわ。」

「へぇ。」

ヒルダは興味深そうに聞いている。

「で、調理が始まれば各担当が頭になって指揮を取るのだけど・・・

 ほら、厨房って狭いじゃない?だから同時にはできないのよ。

 メインを作る時はメイン担当が頭に立ってサラダ担当やスイーツ担当を使い作っていく。

 逆にサラダを作る時はサラダ担当が頭になってメイン担当やスイーツ担当を使うのよ。

 だから皆がいろんな物を作れる様になっているの。」

「そうなんだ。担当の事しかしないのかと思っていた。」

「そうねぇ・・・そういう所もあるらしいけど。

 エルヴィス家ではしないわね。

 キタミザト様の試食も皆でするんじゃない?」

「あ、確かに皆でしていた。」

「で、評価をすぐにするのだけど・・・キタミザト様の料理に不満はでないのかしら?」

「皆、驚いていたよ?頷いたり歓声を上げたり、泣いていたり・・・」

「皆が満足なんて凄いわね。誰かしら文句を言うのが普通だと思ったのに。」

「ま、それだけタケオの料理は凄まじい完成度ってことだ。」

料理長はラザニアを持って食卓にやってくる。

「あら・・・美味しそう。チーズの香りが良いわね。」

「あぁ、じゃあ、食べようか・・・まずは食べてくれ。

 俺とヒルダは感想を聞いてから食べるから。」

「そう?じゃあ。」

まずは一口・・・ラザニアを口に運ぶ。

その様子を料理長とヒルダはニヤニヤしながら見ていた。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

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