第187話 料理とは。
クラレスが一生懸命作り、兵士長が美味しそうに食べている横で・・・
「で、お父さん、仕事は?」
ヒルダが父親に怒っていた。
「・・・サボっては・・・いないんだ・・・買出しにきて・・・」
料理長はショボンとしながら受け答えをしている。
「部下を使えば良いでしょうに・・・」
ヒルダは呆れながら言う。
そんな光景を武雄とレイラは「親子っていろいろあるんだなぁ」と眺めていた。
「・・・うぅ・・・
・・・で、なんで二人がいるんだ?」
娘に対抗できない様でこっちに話題を振ってきた。
「ん?クラちゃんがリンゴのウサギカットを教えて欲しいと数日間ずっと言っていた様なので教えにきました。」
「私もウサギカットを教わりに。」
武雄とレイラが答える。
「これがウサギカット・・・ほぉ。」
料理長がリンゴのウサギカットを見て、目つきが料理人に変わる。
「可愛いでしょう?」
レイラが聞いてくる。
「ああ、女性が好みそうだな。」
「はい、これ。」
武雄が作ったダイヤカットを渡す。
「・・・タケオ、リンゴで芸術作品を作らんでくれ。」
料理長がガックリとする。
「ん?なんでレイラさんと同じ反応を??
切れ込みを入れて皮を剥いただけなんですけど・・・」
武雄は「あれ?」と思う。
「ここまで手を入れないんだ・・・普通は。」
「んん?伯爵家で立食とかの催し物とかあるでしょう?」
「あるが・・・食べやすく小さく切るだけだ・・・
大皿でドンッと出して、あとはご自由にという感じだ。」
「趣向は凝らさないので?」
「・・・少なくとも俺の前の代から食材にこういった趣向を凝らすことはなかったな。」
「・・・なぜ?」
「いや・・・なぜと言われても・・・」
料理長は悩む。
「はぁ、料理長、初めのあいさつで私に問いましたよね?
『料理とは』と。」
「あぁ。タケオは『魔法だ』と言ったな。」
「言いましたが、『食事は人々を笑顔にする力がある』とも言いました。」
「確かに。」
「これがその一端です。
確かに料理の一番の勝負所は味です。
美味しければ笑顔を得られるでしょう。
ですけど、笑顔とは楽しんで食事をする事からも得られると思います。
出てきた瞬間、こういったウサギカットとかダイヤカットなど『なんだこれ?面白い。可愛い。』と印象を与えるだけでも笑顔になると思いませんか?」
「確かに。」
「料理は創意工夫です。停滞はありえません。
もちろん伝統の料理は守らなくてはいけません。
ですが、そこにその代の料理人達がさらに研鑽を積み、発展させることが食を文化に押し上げます。」
「うむ。」
「料理長、私がエルヴィス家の料理人に求めているのは創意工夫です。
今まで数種類の料理を私は作り、見せてきました。」
「どれも目新しかったな。そして美味かった。」
「ええ、そう言われましたね。
私が求めているのは、私の料理、調理法を見てここの料理人は何を感じ取り、次に何を作り出すのか・・・です。
私の真似だけをするならまた『料理が上手い人達』呼ばわりしますからね?」
「う・・・うむ、わかった。タケオが納得する料理を考案してみせる。」
「私が作る前に作ってくださいね?
大丈夫、ちゃんと褒めますから。」
武雄は朗らかに言う。
「さて、クラちゃんの実演も見たし、帰りますか。」
「そうですね。」
武雄とレイラが席を立つ。
「キタミザト様、ありがとうございました。」
「おじさん、ありがとう。」
兵士長親子も席を立つ。
「いえいえ。クラちゃん、良かったね?」
「うん、家に帰ったらお母さんにも作ってあげるの!」
「そうですか、頑張ってね!」
レイラも言う。
「うん!」
クラレスも元気に返事をする。
「兵士長、何か用事で歩いていたので?」
「はい、伯爵様の所にゴブリン等を火葬中と報告をしに。」
「そうですか・・・では、少し遅れても構いませんので、娘さんと一緒に家に戻ってください。
なにかあってはいけませんから。それと怒っちゃダメですからね?」
「わかりました。ご厚意ありがたく頂きます。」
「と、お土産です。」
果物ナイフを紙に包むとリンゴ3個と一緒に袋に入れ渡す。
「すみません、ご迷惑をかけたのに。」
「いや~勢いで買い過ぎました。」
武雄は苦笑する。
「では、レイラ様、キタミザト様、また後程。」
「おじさん、お姉さん、バイバイ~。」
武雄とレイラはにこやかに手を振って見送る。
・・
・
「で?買出しとは?」
武雄は料理長に聞く。
「ん?あぁ、今日の夕飯は鶏肉のソテーにしようと思うのだがな・・・」
「ソースが決まらないので?」
「ああ、何が良いかなと思ってな。
厨房で考えていても良い案が出なくてな。
買出しがてら散歩だ・・・で、ここに。」
「普段は何を?」
「トマトソースをかけるのだが・・・」
「それでも十分、美味しそうですが・・・あ、レイラさん達がいましたね。」
「あぁ。・・・かと言ってタケオが教えてくれたタルタルソースは、ついこの間食べたしな・・・」
「なるほど。」
「何か面白いソースの食材はないかと思考中なのだ。
タケオ、ヒントをくれ。」
「そうですね・・・
先ずはソースは小さい器を用意して、個別にかけるようにしてみては、どうでしょうか?」
「なるほど、食べる時に各自にかけてもらうのだな?」
「はい。
あとは・・・思いきって下味を変えてみますか?
確か、ソテーはオリーブオイルでしたよね?」
「あぁ、しかし他の油と言われてもな・・・」
「私が皆に持っていったでしょう?」
「・・・バターか!」
「はい、あれを使うとして。
・・・何のソースが合うか自信がないですね。」
「確かに。」
「ん?お父さん、トマトソースなら何にでも合うでしょ?」
「ん?ヒルダお嬢ちゃんが面白いことを言いましたね。
何にでも?」
「え??いえ・・・特に意味はないのです。」
ヒルダは武雄に急に見られてモジモジする。
「・・・料理長、レイラさん。
トマトを使った料理を言ってください。」
「え?そうですね。
まずは鶏肉のソテー、ミートソースパスタ、ロールキャベツに肉団子にも合わせますよね?」
「あとはスープにもするし、魚のソテーにも合わすな。」
「・・・?それだけですか?」
武雄が聞き返す。
「えーっと・・・ないな。
基本的なのは挙がっている。
後は食材をチョイチョイ変えているぐらいか。」
「パスタが1種類しかないのですが?」
武雄は「はて?」と思う。なぜあれがない?
「え?トマトソースを使ったのはミートパスタだけでしょう?
麺が細いか太いかマカロニかの違いでしょう?」
「あぁ、他にはないな。」
「・・・嘘でしょ?」
武雄は二人の回答に驚く・・・確か欧州の庶民料理だったはずなんだけど・・・
「あ・・・あの・・・」
おずおずとヒルダが声をかけてくる。
「ん?どうしました?ヒルダお嬢ちゃん?」
ヒルダは意を決した様に言い始める。
「そこにないトマト系のパスタ料理は作ったことはあるのですが・・・」
「ほぉ、どんな料理なのですか?」
「い・・いえ!ミートソースパスタを食べた後・・・余り物で作ったのですが・・・
・・・あまり美味しくなくて・・・ふと、今思いだしただけなのですが・・・」
「ふふ、創作したのですね。
どんな調理を?」
「は・・・はい・・・実は・・・」
ヒルダは説明しだす。
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