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第186話 料理教室。

「あ、おじさん。」

青果屋の店先に女の子がやってくる。

「おじさん、こんにちは。

 あれ?この綺麗なお姉さんはだれ?」

女の子は「はて?」と首を傾げる。

「ふふ、私もお嬢ちゃんと一緒に今日教えて貰うのよ。」

「はい、こんにちは。

 ここの大将にお嬢ちゃんが私を待っていると聞いてね。

 来ましたよ。

 で、お姉さんとお嬢ちゃんに教えようと思ってね。」

「うん。おじさん、お姉さん、ありがとうなの。

 で、おじさん、この間のリンゴを教えて欲しいの。」

「はい、わかりました。

 でも、一つ教えてくれるかな?」

「ん~?」

「お嬢ちゃんは誰のために作ってあげるのかな?」

「お母さんとお父さんに作ってあげたいの。

 今日の朝、お父さんが出かける時にお母さんとお父さんが抱き合いながら泣いてたの。

 だから・・・あのリンゴを食べて元気になってほしいの。」

「そうかぁ。ちなみにお父さんは何の仕事をしているの?」

「兵士。」

「そうかぁ。お母さんにもお父さんにも元気になって貰わないとね。」

「うん。」

女の子の元気な返事を聞き。武雄は木箱からリンゴを取り出し講習の準備を始める。


「では、始めますよ。」

「「はい!」」

レイラと女の子が元気の良い返事をする。

「えーっと、二人ともナイフを使うのは初めてですか?」

「うん。」

「そうですね。」

二人とも未経験者だ。

「では、ナイフの持ち方から簡単に説明しますよ?」

初歩の持ち方から講義が始まった。

・・・

・・

「おじさん、出来たの。」

女の子が作ったリンゴのウサギカットを見せてくる。

リンゴ一個から8等分に切り、種とかヘタとかを切り落とし、皮を切る一連の作業が出来るまでになっていた。

ちょっと・・・だいぶ皮の部分を厚く切っているがウサギカットになっていた。

「うんうん、上手いですね。

 可愛らしいです。」

武雄は朗らかに答える。

「タケオさん、私もできましたよ?」

レイラも割と器用に皮部分を薄くカットしている。

「・・・耳の部分が細いですね。

 ですが、基本は出来ていますので、問題ないです。」

「う・・・タケオさんの評価が私だと少し辛口です。」

「当たり前です。大人と子供では評価基準が違います。」

レイラはジト目で抗議するが、武雄は気にしない。

と。

「あれ?クラちゃん?」

「あ、ヒルダお姉ちゃん。」

店先を通りかかった少し年齢が高めの女の子が目の前の女の子に声をかける。

「どうしたの店先で?」

「おじさんにリンゴをウサギにするのを教えて貰っているの。」

「ん?・・・おじ・・さん?・・・え?レイラお姉様?」

ヒルダと呼ばれた女の子がマジマジと武雄とレイラを見る。

「・・・えーっと、あの・・・キタミザト様では?」

「おや?私と会った事がありましたか?」

武雄は、にこやかに言うが、内心「どこで会ったかなぁ」と脳内を検索していた。

「いえ!?その・・・父が、エルヴィス家で働いていて、家に帰ってきてはキタミザト様の発想は凄いと毎回言うもので・・・

 お姿は遠くから何度か見掛けて。」

ヒルダはオロオロしながら言ってくる。

「ふふ、あえて誰だか聞くのは止めておきましょう。

 今後に差し支えますからね。」

レイラが楽しそうに言う。

「ですね~。

 ヒルダお嬢ちゃんも暇ならやりますか?」

「えーっと・・・暇です・・・何をしているのですか?」

「リンゴをウサギにしているの!」

クラちゃんが嬉しそうに言いながらウサギのリンゴを見せる。

「可愛い・・・では、私もやらせてもらいます。」

ヒルダが空いている席に付き、クラちゃんから教えて貰う。

ヒルダはクラちゃんの説明を聞きながら、見本を見て器用にカットをしていく。

「・・・上手いですね・・・」

レイラが手さばきを見ながら感心する。

「日常的にしているのでしょうね。」

「・・・で、タケオさんは何を作っているのです?」

レイラが武雄の手元を見て呟く。

「え?ダイヤカットですけど?」

武雄は最初の数個はウサギを作っていたが、飽きたのでクロスさせながら斜めに切れ込みを入れ、皮を歯抜け状に剥がしてダイヤ柄のリンゴカットを作っていた。

「芸術作品を作らないでください。」

レイラがガックリとする。

「え?切れ込みを入れて皮を剥いただけなんですけど・・・」

武雄が苦笑する。

「おじさん、凄ぉい!」

「なんで、そんな柄を思いつくのですか?」

ヒルダもクラちゃんも驚いている。

と、

「クラレス!?」

「ヒルダ!?」

武雄達の左右方向から女の子達の名前を呼ぶ声が。

「あ!お父さん!おかえり!」

「お父さん、お疲れ様。」

クラちゃんことクラレスと呼んだのは兵士長。

ヒルダを呼んだのは料理長だった。

武雄とレイラは「おや?」と思いながら見ていた。

店先まで来て武雄とレイラがのんびり座っているのを確認すると。

「「なんでお二人がここに!?」」

兵士長と料理長が同時に驚く。

・・

「キタミザト様、本当に申し訳ございません。

 娘の我が儘をお許しください。」

兵士長は娘から今日は青果屋でリンゴを切るのを覚えてくるとは聞いていたらしい。

・・・まさか、講師が武雄だとは思わなかったとの事。

先ほどから平謝りだ。

「良いんですよ兵士長。

 こんな可愛い女性にデートに誘われたのです。断ったら失礼でしょう?」

「重ね重ね、ありがとうございます。」

「ねぇ、お父さん?

 おじさんの知り合いなの?」

「あぁ・・・キタミザト様、申し訳ありません。」

「いえいえ、クラちゃんから見れば十分おじさんですよ。

 兵士長、叱っちゃダメですからね?」

「・・・ありがとうございます。」

「それよりクラちゃん、練習の成果を見せようか。」

「うん!」

クラレスは新しいリンゴを8等分にしてヘタと種を取り、皮を剥く。

「はい!お父さん。」

「ん?」

リンゴを受け取りマジマジと見る。

「クラちゃんの力作、リンゴのウサギカットです。

 お父さんとお母さんを元気づけたいと言って、頑張って練習しましたよ。」

「うぅ・・・可愛くできたね、上手だ。」

兵士長は目をウルウルさせながら言う。

武雄とレイラは、にこやかにその光景を見ていた。



ここまで読んで下さりありがとうございます。

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