第17話 スミス先生の講義 この国の形と自分たちのいる場所の確認。
エルヴィス爺さんは、困っていた。
目の前の男が基本的なこともわからないと言っている。
「・・・伯爵がわからんか・・・」
「正確には、貴族という特権階級なのでしょうが、そもそも私のいた所は王政ではなかったので、特権階級の階級社会が良くわからないのです。」
「うむ。・・・そうか。なんと説明しようかの。」
「なので、国から教えてください。」
「わかった。では、まずこ」
「すみません、わがままを言う様でなんですけども、出来ればスミス坊ちゃんに説明役をお願いします。」
「え!?僕がですか!?なぜ!?」
「ええ、できれば。
と言うかですね、これは昨日の続きでもあります。」
「はい?」
とスミスは訳がわからないといった顔をする。
「知識だけでなく経験も必要と伝言をお願いしましたが?」
と武雄はフレデリックに聞いてみる。
「はい。確かにその旨お伝えしております。」
「ありがとうございます。
で、ですね。私がスミス坊ちゃんに説明をお願いしたい理由ですが・・・
『他人に説明する』という経験をしてもらいたいのです。」
「え?いきなりですか?」
「ええ。物事は分け隔てなく唐突に始まるものです。
人間関係しかり、政局しかり。それは貴族も庶民も関係ありません。」
という話を聞き、エルヴィス爺さんとアリスは頷く。
「それとスミス坊ちゃんの方が言葉を難しくしないと思っていますので。」
「どういうことですか?」
泣きそうな表情をしながらスミスが武雄に聞く。
「年齢的にまだ若いのです。余計な知識がなさそうなので、説明にはもってこいと考えました。」
「なるほどの。ではスミス、お主がするのじゃ。」
「お爺さままで。お姉様はどう思いますか。」
「タケオ様の言う通り、早いうちにこういった経験をするのは良い事と思います。
それに今は身内しかいないのです。間違っても怒られませんし、恥にもならないでしょう。
やってごらんなさい。」
「スミス坊ちゃん、皆がそう言っていますよ。
それに間違っていたり違う認識なら、エルヴィスさんやフレデリックさんが補足をいれるでしょう?」
「うむ。」
「畏まりました。」
と皆にお膳立てさせられては、さすがにスミスも逃げられないと気付いた。
「わかりました。まずはこの国のことからですね。
フレデリック、地図はありますか?」
「はい。部屋の隅にありますので、今広げます。」
と地図を持ってきた。
武雄は机いっぱいに広げていた自身の持ち物をバックに詰め、机を綺麗にする。
すると、フレデリックは空いたスペースに国全体の地図を置いた。
「この地図がアズパール王国の全容です。」
・・・武雄は驚いた。ここまで簡素な物を地図というのかと。
全体図のあちこちに街の様な形とその横に文字と街どうしをつなぐ道しかない。
感覚的には映画や本に出てくる、宝物の地図並みに適当だった。
素朴な疑問を聞いてみる。
「ちなみにお聞きしたいのですが、もっと詳細な地図はありますか?」
「王都に行けばあるかもしれませんが、ここにはこれ以上はありません。」
なるほど。武雄は地図レベルはゲームぐらい適当なのかと思った。
「あと、エルヴィスさん。昨日かけていたメガネを貸していただけますか?」
「ん?構わぬよ。」
エルヴィス爺さんは武雄にメガネを渡す。
かけてみるとアリスが「ぷっ」と噴き出していた。
まぁ感想は後にして、今は気にしないことにする。
・・・やっぱり文字が読める・・・
「これは凄い。このメガネは何ですか?」
「いや、普通にメガネだが?」
「私はここに来て文字が読めませんでしたが、これをかけると読めるんです。」
「ほぉ、そんなことがあるのかの。
そのメガネは老人用の補強メガネじゃ。
歳を取って目が見え辛くなった者はそれをかけるのじゃ。
ただ単に目が悪いのは魔法で治せるのだがの。加齢の病気は治らないのじゃ。
なので魔法をメガネにかけているのじゃ。」
「え?魔法?」
武雄は驚く。魔法って何???
「ん?タケオは魔法は知らないのかの?」
「ええ。存在しないところから来ました。」
「ほぉ、それは不便であったのぉ。魔法は病気や怪我も治せるし、攻撃にも使える便利な物じゃ。
まぁ適性がないと扱えないのじゃがの。」
「・・・これは誰でも作れるのですか?」
「いや、魔法具を扱っている商店で買えるの。」
「わかりました。・・・この説明の間、借りても良いですか?」
「構わぬよ。」
「すみません、スミス坊ちゃん。話を中断させてしまって。」
「いえ、構いません。では、続きを話します。」
「アズパール王国はこのようにほぼ四角の形をしています。」
・・・四国に似ているなと武雄は思った。
「で、国の中央に第34代アズパール王が住む王都があります。」
・・・34代?・・・1人30年のサイクルとしても1000年近いのか・・・長い歴史だと武雄は思った。
「国の周囲は南東に海がある以外は、北側は山脈(ドワーフの王国)、東は魔王国、南西はウィリプ連合国、西はカトランダ帝国の各国に囲まれています。
ドワーフの王国以外の国とはそれなりに国交もあり、数年に1度戦争も繰り返しています。」
「繰り返す?その度に領土の拡大縮小がされているのですか?」
「昔はそうでしたが、今はどの戦も一進一退で増減はここ100年ほどありません。」
エルヴィス爺さんは頷く。
「我がエルヴィス伯爵領は、ここ。王国東北部の辺境都市が中心にあります。
この街は5万人都市で、領地全体で1000名の兵を抱えています。
また、昨日来られていたゴドウィン辺境伯爵領は我が伯爵領の南に位置し、さらにその南にテンプル伯爵領があり、この3辺境伯爵が魔王国との戦の矢面にあります。」
「では、次にアズパール王国の階層を確認します。」
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