第181話 戦闘後半戦。
「なんと言うか・・・圧倒的だな。」
アズパール王は戦場を見ながらそう呟く。
「アリスもタケオさんもオーガを排除することを優先していますね。
もうあと数匹ですけど。」
「そうだね。攻撃力が高いのを率先して潰しているね。
それに魔法師達が陣の外を駆けずり回って回復しているのがわかるね。
少しの怪我でも戦線から後ろに下げて回復させる・・・上手く考えているね。」
ウィリアムとレイラは頷きながら話す。
「ふむ・・・エルヴィス伯爵、お主達はいつもこの回復をさせる戦法を?」
「いえ・・・私も実戦では初めて見ます。
この戦い方は最初の大演習の時にタケオが指示を出したのは知っています。」
「ほぉ・・・ん?・・最初の??」
「ええ、大演習は2回しています。
最初はアリス対180名で2回目がタケオとアリス対180名です・・・」
「「「え?」」」
「で、最初の時は・・・タケオがイジメられていると勘違いをしまして・・・アリスがキレたのです。」
「う・・・うむ、で?」
「ハロルドが何を言っても収まらなかったのと、初めて魔眼をタケオが見て説得を諦めた事で、やらせたと言っていました。
で、2つの大演習ともに180名を4、5回ずつ倒しています。」
「・・・この威力を4、5回も??」
ウィリアムが聞いてくる。
「ええ。
確か・・・最大の防御をとっても倒されて、すぐに回復させられて、また倒されて・・・楽にさせてくれと思うくらいには精神的に追い詰める絶望的な訓練をさせた・・・と、タケオは評していましたね。」
「「「・・・」」」
アズパール王とウィリアムと第一近衛分隊長は顔を引きつらせる。
「と、いう事は・・・あそこにいる兵士達も?」
「半数は、その訓練参加者です。」
「それは・・・初めてではないからある程度スムーズに動けるな。」
「そうですね・・・新兵小隊もいますか?」
「はい。城門前の陣中央の両端ですね。」
「・・・初陣・・・ですか?」
ウィリアムが兵士を見ながら言う。
「はい。新兵小隊は演習に2回とも出ていますね。」
「・・・それは可哀想に・・・でも、新兵らしからぬ落ち着きがありますね。
相当、アリスが怖かったのかしら?」
レイラが同情しながら言う。
「・・・第一近衛分隊長、アリスを呼んでうちでもしてもらうか?」
「か・・・勘弁してください。
ショックで何人辞めてしまうか・・・」
第一近衛分隊長は顔を引きつかせながら拒否をする。
「エルヴィス伯爵の所は何人辞めてしまった?」
「今のところ、誰も辞めていませんね。」
「新兵が辞めないのにお主らが辞めるわけなかろう。」
「・・・だとしても、しません。」
「なんだ?自信がないのか?」
「ありませんね。」
「な・・・普通は嘘でもあると言うのが配下の役目だろう!?」
「陛下の遊び心で部下が辞める可能性が高い訓練なんかできません。
せっかく鍛え上げたのに辞められるわけにはいきません。」
「・・・では、タケオが相手ではどうだ?」
「んー・・・キタミザト殿なら面白いでしょうが・・・
されますかね?」
「ふふん、アリスを拉致すればやるだろう?」
アズパール王はニヤリと笑う。
「・・・お義父さま。それは止した方が良いのでは?」
「なぜだ?」
「タケオさんの事です。
アリスの為なら王都守備隊だろうが迷いなくあの小銃を持ちだすかもしれませんよ?
演習ではなくなります。」
「・・・下手をすれば王都守備隊が壊滅してしまうか・・・」
アズパール王は「んー」と悩む。
「どちらもリスクがありすぎか・・・はぁ・・・面白いと思ったのに。」
アズパール王はガックリとする。
そんなアズパール王をウィリアムもレイラも第一近衛分隊長も「あたりまえでしょ?」という顔で見ていた。
(エ500:ゴ177:オ1)
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オーガを殲滅させ、数的優位が確実になっている為、武雄とアリスは戦線には立たずに外から眺めていたのだが・・・2人とも暇なので、今はハロルドを探して左翼の外側を歩いていた。
「とりあえず、死者はいなさそうですね。」
アリスが戦線を見ながら言う。
「・・・終わりましたよ。無理はしないこと。」
「はっ!」
一人の兵士が戦線に戻って行った。
武雄は歩きながら疲れている兵士を見つけるとケアで回復させていた。
今も立ち止まりケアをかけていた。
「ん?死者ですか・・・確かに見ませんね。」
武雄はアリスの横に立ち、周りを見るが死者は見つけれられなかった。
「タケオ様の戦術と兵士達が考えた回復戦法は効果が出ていますね。」
「そうですか・・・まぁ犠牲者が出ない事が一番です・・・
勝ったと思った瞬間にやられたりもしますから・・・気は張っていないといけませんね。」
「はい。タケオ様は何回も兵士長に言っていましたものね。」
「ええ。
しかし・・・突撃がなければ武勲が上げられないと考える人には我慢の戦いでしょうから不満が出そうですね。」
武雄は苦笑する。
「タケオ様、私達の出番はもう無いのでしょうか?」
「突発的な事がなければ終わりですね。
今は包囲殲滅戦ですから、個人の武よりも組織力が要だと思いますね。」
と、ハロルドを見つける。
「おーい、ハロルド。」
「ん?
二人ともどうした?」
ハロルドが二人に近より話しかけてくる。
「暇だから陣中見舞いですね。」
「・・・暇か・・・確かにな。」
「被害は?」
「今のところ大丈夫だな。
それにしても兵士長が考案した回復戦法は良いな。
時間はかかるが無理をしないから死者が出なくて助かる。」
ハロルドは頷きながら言うが、少し難しい顔をしている。
「ハロルドは突撃がないことに不満が?」
アリスが聞く。
「正直に言えば、物足りない。
突撃は戦の華だ。
先陣を切って敵に切り込むのを栄誉だと思っている。
そう教わってきた・・・が、あくまでも個人としてだ。
今回の戦で発案された新しい戦術は、犠牲者を少なくする画期的な物だということもわかっている。
部下の命を預かる立場だ・・・我が儘は言えないさ。」
「なるほど、複雑なのですね。」
アリスは頷く。
「・・・ハロルドがそう思うなら半数は不満がありそうですね。」
武雄はため息を付きながら言うと。
「ハロルド、アリスお嬢様。」
「おう。」
「はい。」
「今から私が言うことが間違いなら聞き流してください。
もし不満を和らげそうなら通達してください。」
武雄は少し目を閉じ、目を開けると真顔になり語る。
「今回の戦いにおいて、突撃は最後までない。
命を賭しての突撃が戦の華なのは十分、承知しているが、諸君らの命に見合う戦場は、この程度の戦場ではない。
エルヴィス家は諸君らが、この程度の戦場で勝手に死ぬことを許可しない。
今は生きろ。」
ハロルドとアリスは黙って聞いている。
「どう?」
「ふむ・・・まぁ及第点だな。」
「最後の生きろはどうなのです?
弱腰に聞こえませんか?」
「いや、アリスお嬢様。逆に入れるのはありかもしれん。」
「そうなのですか?ハロルド。」
「タケオが『今は』と入れた事によって次戦への期待を掻き立てた・・・自制をするかもしれないな。
皆に通達させるか。」
「では、
私とアリスお嬢様の連名で各指揮官と小隊長に伝達を。兵士へは各々の判断で。
ついでに城門の上のエルヴィス伯爵にも伝えてください。」
「わかった。」
「では、アリスお嬢様、次は副団長の所に行ってみましょうか。」
「はい。ハロルド、突撃はなしですからね?」
「わかっている。」
二人は陣中見舞いを続けるのだった。
(エ500:ゴ120:オ0)
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