第179話 初陣と迎撃。
3時課の鐘が鳴り終わる。
周囲は静まり返りその時を待っている。
武雄は黙想を止め目を開ける。
と、オーガが丁度森を出た辺りを歩いている。
「・・・さて・・・」
伏せ撃ちの格好で小銃改1を構える。
武雄は自分自身の状態に驚く。
震えが止まり、汗も止まっている。呼吸は・・・通常くらいに戻っている。
火事場の馬鹿力?・・・黙想の効果??・・・諦めによる達観???
・・・どれでも良いか・・・・今はどれでもありがたい。
武雄の体は割とすんなりと構えられた。
・・・まずは1撃・・・
中央は後で対峙する・・・今、混乱から走られても困る。
狙いを中央より横に・・・
・・・練習と同じ様に息を吐き、止め・・・引き金をひくと「ドンっ」と音が響く・・・
・・・約1秒後にオーガの壁から火の手が上がる・・・
「当た」
「「「おおおおおおおおおおおお!!!!!」」」
周囲から歓声が上がる。
武雄が驚く。今の今まで皆に注目されている事に気が付かなかった。
「・・・当たったのはまぐれ・・・慢心は禁物・・・」
再び、小銃改1を構え・・・引き金をひくと「ドンっ」と音が響く・・・
今度は当たらずオーガの後ろから火の手が上がる。
・・・射撃開始。
(エ500:ゴ349:オ49)
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オーガとの距離300m
・・・引き金をひくと「ドンっ」と音と共にオーガの肩に命中。
オーガは一端膝を付くもすぐに起き上がり行進を再開する。
「・・・命中率が上がっている?・・・
あぁ・・・距離が短くなったから狙いやすいのか。」
武雄の腕では、まだ部位を狙える距離ではない。だが体のどこかには当てることは出来始めていた。
ふと「あと何体?」と思うが。
考えるのを止め、すぐに撃ち込む。と今度はオーガの体に当たった様だ。
・・・狙う・・・撃つ・・・狙う・・・撃つ・・・約5秒間隔で撃つことが出来る様だった。
(エ500:ゴ335:オ42)
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オーガとの距離200m
・・・引き金をひくと「ドンっ」と音と共にオーガの腹に命中し少し爆発し倒れる・・・。
そのまま倒れて起きない。
・・・エグイな・・・
武雄は命中した際の惨状に驚く。
当たった後の爆発・・・仕様として入れていたが・・・これは絶命させる確率が高いのだと改めて認識させられた。
嫌な兵器を作った物だ・・・
武雄はそう思いながらも射撃を続ける。
(エ500:ゴ330:オ29)
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オーガとの距離150m
・・・引き金をひくと「ドンっ」と音と共にオーガの顔に命中し倒れる・・・
しまった・・・つい中央を狙って・・・ん?・・・
今倒した横のオーガの腰の辺りで何か光っている????
・・・
引き金をひくと「ドンっ」と音と共に腰の辺りが光っていたオーガの胸に命中し倒れる。
と、ゴブリン達の行進が止まる。
・・
・
え?・・・今は撃つしかない・・・
武雄は伏せ撃ちからしゃがみ込みの体勢に変えて撃ち始める。
(エ500:ゴ328:オ20)
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アリスは、ずっと後ろから見ていた。
「・・・タケオ様・・・当てすぎでは?」
そう呟かずにはいられなかった。
アリスもそこまで戦史は知らないが、一人でオーガを30近くも倒した魔法師は聞いたことがない。
半ば呆れる。
それにしてもこんな兵器が出回れば驚異だ。
タケオ様が規制したがるのも頷ける。
それにもう100発以上撃っている。
「私の事を規格外と言ってましたが・・・
タケオ様もですよ?
・・・ん?・・・動きが・・・止まった?」
と、アリスが思った瞬間。
「グゴォォォォォォォ!!!」
ゴブリン達から雄叫びが上がる・・・
先頭のオーガや後ろに続くゴブリンがこちらに向かって走り出すのが見える。
「待つのは、そろそろ終わりですね・・・」
アリスは剣を抜き気合いを入れるのだった。
(エ500:ゴ328:オ18)
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城門の上では、飲んだくれ達が騒いでいた。
「何と言うか・・・
タケオは規格外だな。」
「そうですね~。600mの超長距離の砲撃を当てるなんてね。
私は聞いたことがなかったわ。」
「そうだね。
第一近衛分隊長。王都でこの距離を当てた魔法師はいたかい?」
「記録が全て頭の中に入っている訳ではありませんが・・・
いないでしょうね。
それにしてもオーガを30・・・1人で倒すとは・・・
前代未聞ですね。
勲章物の武勲でしょう。」
「勲章か・・・エルヴィス家は何なのだ?」
「何なの・・・と仰られても・・・」
エルヴィス爺さんが困惑の表情をする。
「何で同時期に2人も傑物を輩出してくるのだ?」
「いや・・・アリスは前は普通でしたし、タケオも突発的に我が家に現れたので・・・
何も意図していませんが・・・」
「なぜ・・・我の所にはこぬのか・・・」
「懐の深さと許容力が違うからでしょう?」
ウィリアムが言う。
「・・・我にはエルヴィス伯爵よりもないと?」
「いえ、ありますよ?・・・でも王都・・・として見ると・・・」
「・・・排他的だな。」
「ええ、その差でしょうね。
なので今後も王都には出現しないでしょうね。」
ウィリアムが苦笑する。
「はぁ・・・エルヴィス伯爵・・・良いのが居たら紹介してくれ。」
「そう易々と出るとは思いませんが・・・見つけたら報告します。」
「うむ。
・・・ん?・・・なんじゃ?・・・唐突に咆哮しておるの。」
アズパール王がゴブリン達を見て言う。
「・・・次の段階に入りましたね。」
レイラが見つめながら言うのだった。
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