第178話 開戦直前。
武雄は伏せ撃ちの格好を取って小銃改1を構えていた。
ゴブリン達は森を抜けてはいないが・・・視認はできる位置に来ている。
「自分でもわかるくらいに緊張しまくっていますねぇ。」
武雄は自分の状態を認識し、苦笑しながら呟く。
手汗がびっしょり・・・小銃の手を添える所が汗を吸い込んで変色している。
息も荒く呼吸が早くなっている・・・過呼吸になるのでは?と冷静に分析する自分も居たりする。
ついで言えば、トイレに行きたい・・・用を足して・・・吐きたい。
「仕事でいろいろ経験したけど・・・はぁ・・・
社会人は自分が言った言葉の責任は自分でとらなければいけないと学んだけどさぁ・・・
まさか、戦術を考案して取り上げられるとは・・・
誰かほかに良い戦術を思いつかないもんかね??
・・・まぁ・・・しょうがないか・・・言ってしまったし。
・・・ここで生活するならいつかは通る道・・・だと思うし・・・でもなぁ・・・」
武雄は、テンションダダ下がりの中、その時を待つのだった。
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アリスは武雄の後ろ25mで兵士長と並んで武雄とゴブリン達を見ている。
「・・・タケオ様、ソワソワしていますね。」
「キタミザト様は初陣でしたね。しょうがありません。」
「私もソワソワしていましたか?」
「さて・・・どうだったでしょうか?」
兵士長は「んー」っと悩むが。
「確かされておりましたね。
まぁ私も周りを見る余裕がそこまでなかったので詳しくは覚えていないのですが。」
「そう?
・・・確かあの時は参加者81名で死傷者44名・・・半数以上が死傷しました。」
「死者だけなら14名、2割以下でしたね。
でも戦力が2.5倍近くの相手をしてでした。あれは一つの奇跡でしたね。」
「私達が死に物狂いで掴んだ奇跡ですね。
・・・今回はどうでしょう?」
「・・・当初の突撃であれば、私も騎士団長も死傷者4割、死者は2割と換算していましたが・・・」
「今回は違うと?」
「はい。キタミザト様の戦術で死者がかなり低いと予想します。
被害想定も低く・・・たぶん死傷者数が1割行くか・・・
それに前回のアリスお嬢様とキタミザト様との演習同様、魔法師達には砲撃後は回復役に回る様に今回も言い含めています。
あの演習の後、皆で考えたのでそれなりに動けるかと。」
「そう、役に立ったのね。」
「ええ。キタミザト様が来られたタイミングが・・・
この襲撃を想えば、結果的に何とか2回演習できたのは、今思えばタイミング的にギリギリだったのでしょう。」
「そう・・・タケオ様が居てくれて良かったです。」
「はい、不幸中の幸いかと。
・・・そろそろですかね。」
「ええ。」
2人は今作戦が開始されるの時を待つのだった。
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「うむ・・・そろそろかの。」
「はい。」
エルヴィス爺さんとフレデリックは森を見ながら確認しあう。
「・・・それにしてもタケオさんだけ、何で突出しているのでしょうね?
アリスは中央とタケオさんの中間にいますし。」
レイラが疑問を言う。
「・・・レイラ、たぶんタケオさんが敵を引きつけるのだと思うよ?」
「え?タケオさんが?」
ウィリアムの回答にレイラは驚く。
「えーっと・・・なんでタケオさんが???
あの作戦だけでも通常の戦法より死傷者数は低くなっているので大助かりなのでしょう?
タケオさんが無理をする場面では、なさそうですけど??」
レイラは「わからないんですけど?」と聞いてくる。
「ん、レイラ、伯爵からタケオは自己評価が低いと説明があったろう?」
アズパール王が説明しだす。
「はい。でも、それとこれは関係ないのでは?」
「・・・まぁタケオの事だ。自分に責を持たせたんだろうな。
それに初陣だ。皆に迷惑をかける前に自身を試したいのだろう。
いざという時に動けるかを・・・な。」
「父上もそう見ますか?」
「ああ、伯爵もだろう?」
「はい。」
エルヴィス伯爵は答え、フレデリックが頷く。
「全く・・・本当に初陣か?
どんな経験をすれば、初陣で突出するなんて考え付くのか・・・
王都に居る貴族達にもさせてみたいものだな。
・・・スミス。」
「は・・はい!」
いきなりアズパール王から声をかけられスミスは緊張しながら返事をする。
「良く見ておれ、お前の義兄はとてつもなくデカいぞ。」
「はい。」
「・・・キタミザト殿は、うちに来ませんかね?」
第一近衛分隊長がボソッと独り言を言う。
「「は?」」
アズパール王とエルヴィス爺さんが同時に驚く。
「な・・・なぜですかな?」
「あ・・・いえ、初陣でこの精神力・・・戦術を思いつく機転・・・
うちに居たら活躍しそうですので。」
「第一近衛分隊長・・・我が文官で招集するのを我慢しているのに武官にすることを許可するわけないだろうが。」
「お?陛下もでしたか?
招集を我慢って・・・珍しいですね?普段なら押し通す癖に。」
「ん・・・タケオと話していると発想が面白いので傍には置きたいが・・・
文官連中がタケオの邪魔をする未来が否定できなくて・・・
宝の持ち腐れになりそうだからな。
だったらここでいろんな発想をしてもらって、その情報を我が貰えば良いと思ったまでだ。」
「そうですか・・・では、私も相談に乗ってもらいましょうかね。」
「なんだ?お主達は我の国の武官トップであろう?戦術ぐらいタケオに頼らなくても良いだろう?」
「えええ、良いじゃありませんか?」
「ダメ、我を通して聞くなら可だ。」
「むむむ・・・良いです。ウィリアム殿下にお願いしますから。」
「ん?僕ですか?」
「はい。そうすれば陛下の前で発表するときに我々が考えた様に見せられるでしょう?」
「はは、良いですよ。」
「む・・・息子が裏切った。でも検閲するからの。」
「く・・・そうきますか・・・」
「ふふ、私は検閲除外者ですよ?・・・どうです?」
「お、レイラ殿下。では毎日、スイーツをお届けしましょう。」
「乗った!」
「ええい、レイラも乗るでない。」
王都の4名は楽しそうに話し合う。
・・・その光景を困惑しながら見るエルヴィス家面々。
住民4名は・・・
「えーっと、キタミザト様は偉人なのでしょうか?」
「かもしれないですが・・・それにしても陛下達があんなに気に入るとは。」
「しかし、二人はここで生活する様ですね。ほほほ。」
「まぁ、これからも変わらないってことだろう?」
ヒソヒソ話しながらチビチビ飲んでいた。
この時点で酒樽は5個消費済み。
と、3時課の鐘が鳴る。
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