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第177話 開戦前の痴話喧嘩。

「壮観ですねぇ。」

アリスは武雄と地べたに座り、慌ただしくしている兵士達を見ながらお茶を飲んでいる。

・・・近くには剣が刃の真ん中まで大地に刺さっていたり、さっき城門の上が光ったりしていたが、そのことを二人は気にしていない。

「・・・全く・・・アリスお嬢様は肝が据わっていますね。」

「あ、タケオ様、悪口ですか?」

アリスは少し口を尖らせて言ってくる。

「いえ?頼もしい限りですよ。

 ですが、ベッドの中では、素直で可愛いのも知っていますからね。

 そのギャップで私はアリスお嬢様にメロメロになっていますよ。」

「ちょ・・・今、そんなこと言わなくても。」

アリスは顔を赤くしてアワアワしだす。

「ふふ、可愛いですね~。」

「むぅ・・・タケオ様も随分と余裕ですね。」

「いえ?」

武雄は手を上げ、アリスに見せる。

「・・・震えていますね。」

「ええ、緊張で吐きそうです。

 余裕が全くないですね。

 まさか銃で生物(なまもの)を撃つ日が来るとは・・・」

武雄はため息をつきながら言う。

「ナマモノって・・・」

武雄の言葉にアリスは呆れる。

「私はここの人達と違って割と平和な所出身なので、自己暗示が必要なのですよ。

『自分達以下の生物が襲ってくる。殺らなければ殺られる。』

 とね。」

「私達もそういう心構えですよ?」

「でしょうね。

 ですが、アリスお嬢様達の様に長年いると普通に出来る心構えが私の場合は急造しなくてはいけないのです。

 ・・・たぶん、この戦いが終わる頃には多少、私の性格は変わるでしょうね。」

「そうなのですか?どの様に?」

「・・・命の価値を判断できると思います。

 さらに仲間意識・帰属意識が強く成るかと。」

「命の価値・・・ですか?

 どういう事でしょう?」

「極端に言えば、味方には甘々、敵には残酷と成れると予想しますね。

 相手の命を取ることに今よりは躊躇しなく成れるかと。」

「ん?今は成れていないのですか?

 成れていそうですけど?」

「頭では理解はしていますが・・・ここの人達と比べるとかなり甘いでしょうね。

 そもそも命を奪った経験も見たこともありませんし。」

「普通に暮らしていればないかと思いますが・・・」

「・・・アリスお嬢様との認識のズレを感じますが・・・

 私は食用に絞められるのも見たことがないのですけど。」

「え?・・・ではタケオ様の所ではお肉はどうやって作っていたので?」

「すでに肉の塊に・・・捌かれ済みでしか見たことないですね。肉も魚も。」

「ええ!?タケオ様の所は海が近かったのですか?」

「・・・そう解釈しますか。

 違いますよ。保存の技術が発達していたので、捌いても数日・・・十数日は日持ちしました。

 それに凍らせれば1、2か月は平気な物もありましたし。

 なので、今回が初めて自分の手で生き物を殺めます。」

「でも・・・ゴブリンですよ?」

「私がいた所は基本的に人だろうがゴブリンだろうが・・・殺生は禁忌と小さい頃から教わるのです。」

「私達も習いますよ?『殺生や暴力はしてはいけません』と。」

「その文言の前に『私的な』とか『無闇な』とか付きませんでしたか?」

「・・・付いていましたね。」

アリスは考えながら言ってくる。

「私のいた所は『綺麗』過ぎなのです。

 死という物を極力、世の中に見せない様にそして感じさせない様になっていたのです。

 まぁ、遊びとかで死という物は扱われていましたし、もちろん近所の人や親族が亡くなったとかの経験はありますけどね。

 はぁ・・・生き物を殺める・・・か・・・」

武雄は少し遠い目をしながら考える。「あともう一つしないとなぁ・・・」

・・

「・・・タケオ様、確認しますよ?

 ゴブリン達が森を抜けた所でタケオ様が砲撃を開始。

 距離が200m程度になったら私と一緒に後退・・・ですよね?」

アリスは心配そうに聞いてくる。

武雄は心の中でため息を付く。「まったく・・勘が鋭いですね。」

「・・・私は一緒には後退はしません。」

「タケオ様!?」

「ゴブリン達が200mの位置に来たらアリスお嬢様のみ中央に戻ってください。」

「出来ません!」

「ダメです。」

「嫌です!」

「ダメです、してもらいます。」

「なぜ!?お一人で残るのですか!?」

「この先、アリスお嬢様と歩む為に必要だと思うからです。」

「なぜ!?」

「私には、殺す覚悟と殺される覚悟が必要だからです。

 頭では覚悟は出来ています。

 後は実際に敵意を向けてくる相手に動けるか・・・です。」

「なにもこんな時にしなくても・・・」

「こんな時だからです。

 いざという時はもっと切羽詰まっています。

 その際に動けなかったら死です。

 今ならアリスお嬢様や兵士達もいますし、場の状況が勝ちに傾いていますから試験には最適です。」

「一人で残らなくても・・・」

「隣にアリスお嬢様が居ては頼ってしまうでしょうから・・・

 精神的に追い詰めて、そこで自分が動けるのか確認が必要なのですよ。

 ・・・死を前にして人は嘘が付けないと私は思います。

 それまでどんなに威勢の良い事を言っていても実際は動けなかったり、弱気な発言ばかりの人が機敏に対処したり・・・

 私は動けるのでしょうか・・・動けないなら動ける様にその後、訓練が必要でしょう。」

「うぅ・・・タケオ様がそう覚悟されるなら・・・何を言っても無駄でしょう・・・」

アリスは少し涙目になりながら俯く。

「ええ、私が作戦を立てたのです。

 その中にコレも入っていました、初めからね。」

「うぅ・・・わかりました・・・でも、私も婚約者をただ残す真似はできません。」

「ん?・・・ダメですよ、下がってください。」

「・・・半分・・・」

「ん?」

「25mまで下がります。それ以上は下がりません。」

「ん~??・・・50mは無理ですか?」

「ダメです。」

「せめて40・・・30mでは?」

「ダメです。25mです。」

「・・・アリスお嬢様・・・では、25mで構いません。

 が、手出しは無用です。最低でも最初の一撃を私が対処し終わるまでは。」

「・・・わかりました。最初の1撃までは我慢しています。」

「・・・ええ、それで構いません。

 と、そろそろですか・・・」

武雄は立ち上がりアリスからマグカップを受け取り、お茶セットと一緒に軽く水で流し、リュックに入れ背負う。

「・・・タケオ様はリュックを背負ったまま戦闘を?」

「え?ダメなのですか?」

「いえ・・・身軽な方が良いのでは?と。」

「まぁ・・・そうでしょうが・・・どうせ今回だけでなく旅の途中でする際もこれでしょうから・・・

 するなら最初から背負っていた方が良いでしょう?慣れですよ、慣れ。」

「・・・まぁ・・・タケオ様がそう言うなら・・・

 では・・・私は下がります。

 迫ってからだと下がらないと思いますから。」

「ええ。

 ・・・アリスお嬢様。」

アリスが歩いて行こうとするが、武雄が声をかける。

「はい?」

「愛していますよ。」

「私もです。」

と武雄はアリスを抱きしめる。

アリスも武雄の背に手を回す。

すぐに二人は離れると笑顔で頷きあうのだった。

 


ここまで読んで下さりありがとうございます。

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