第176話 開戦前の打ち合わせ。
城門前・・・多くの兵士が慌ただしく行き来している。
そんな中、指揮官3名と武雄とアリスが兵士詰め所でお茶を飲みながら周辺図を囲み話し合っていた。
「んー・・・タケオの小銃がどのくらいの精度で当たるのかで戦況が変わりそうだな。」
ハロルドがため息を付きながら言う。
「やはりそうですよね。
最新の報告では、オーガが先頭に立っている・・・でしたね。
大きいのを目がけて撃ちますが・・・当たるのかは微妙です。
100mですら2発に1発の確率ですから・・・
あまり数は減らせないと思っておいてください。
兵士長、両翼の魔法師小隊から150mくらいの地点と城門の中央が重なる様に剣を刺して貰えるのですよね?」
「作業は終了していますね。
中央からは50mくらい前です。」
武雄の質問に兵士長が答える。
「・・・で、ゴブリン達が森を過ぎた辺りで、その剣の位置からタケオ様が砲撃を開始して、ゴブリンとの距離が200m程度になったら私と共に後退を開始。後ろに歩きながら撃ち込んでいき、相手が剣に到達したら魔法師小隊の砲撃開始・・・ですね。」
アリスがそう付け足す。
「ですね。後は徐々に両翼を閉じて行って殲滅戦に移行する・・・机上の戦術では・・・」
「キタミザト様は不安が?」
「ええ。相手が走り出すタイミングがどこなのか・・・です。」
「なるほど。」
「私の逃げ足を考えると・・・後退しながらの砲撃はできないかもしれませんね。」
武雄は苦笑する。
「閉じ始めるタイミングはハロルドと副団長に任せます。」
「ああ、奴らの最後尾が見えたら閉じ始める。
一番被害が多そうな端っこは騎士団にしておいた。
防御力も高いからな。」
「一番移動距離が長いですよ?」
「なぁに、たかが300m程度だ。うちの奴らは平気だ。」
「わかりました。
先の説明の通り、平行に閉じていく事を想定していますが、
真ん中よりも端が早く閉じれた場合は、そのまま包囲戦に移行します。
袋を閉じる様にキュッとね。」
「そこまで持ち込めたら勝ちが見えるな。」
「焦ってはダメですからね?」
「わかっている。
今回は突撃はない。ならば確実に締め上げる事と厳命しているが・・・正直わからんな。」
「・・・戦は水物か・・・」
「ん?なんだそれは。」
「ん?私のいた所の昔の偉人さんの言葉です。
その時の条件によって変わりやすく、予想しにくいと言う例えですね。
ほら、水は傾きによって流れがすぐ変わるでしょう?
それに終わるまで何があるかわからないから気を緩めるなと言う意味にも取れます。」
「上手い例えだな。」
ハロルドは頷く。
「そろそろ行きましょうか。」
兵士長の言葉に皆が席を立つのだった。
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城門の上に数人が陣取り戦の開始を待っていた。
この時点で酒樽は2個消費済み。
「ん~・・・まだ始まらなそうだな。
・・・始まる前に酔いが回りそうだぞ。」
「陛下・・・ペースが早すぎです。」
アズパール王の飲みっぷりにエルヴィス爺さんは心配そうに言う。
「ふふん、今日はお目付け役が居ないから飲み放題だ。」
アズパール王は機嫌良さそうに言う。
「あらあら、お義父さまったら。
主治医が知ったら怒られますよ?」
「全くです、父上。」
「む、息子夫婦がうるさい。
我は民と楽しく飲んでいるのだ。
王都ではできないことだからな。」
「はぁ・・・伯爵様、良いのでしょうか?」
青果屋のおじさんが困惑気味に聞いてくる。
「まぁ・・・ご本人が良いと言うなら良いのではないかの?」
「はぁ・・・相変わらずですね。」
テイラーがため息交じりに言う。
「お、そうだ、テイラーが居たな。
久しぶりにアレが見たいなぁ。」
アズパール王がワクワク感を出しながら言ってくる。
「陛下・・・アレは王城のみで使用が許可されていたはずですけど?」
「ふふん、我が居るところが王城だ。
構わぬ。それにここの皆が口外しなければ問題なかろう?」
「お義父さま、アレとは?」
テイラーとアズパール王のやり取りを聞いていたレイラが聞いてくる。
「ふふん、アレは凄いのだぞ!
テイラーの経歴は言ったな?」
「ええ、王家専属魔法師の弟子でしょう?」
「うむ。元次席で元次期王家専属魔法師候補筆頭だ。」
「・・・あれ?テイラー店長はおいくつ?」
「28になります。」
「「若っ!」」
ウィリアムとレイラが驚く。
「当時は25歳か・・・年月が過ぎるのは早いなぁ。
と、そうだ、若くして次期王家専属魔法師候補だぞ?
並みいる年寄りどもを蹴散らしてなったのだ。
知識は当然あったが、こ奴はちょっと特殊でな。」
「勝手に次席まで登らせたくせに。」
テイラーは目を細め愚痴を言う。
「ふふん、我は知らんぞ?
爺がお主を次の王家専属魔法師にと推薦しておったのだ。」
「そうですか、師匠が。」
「アレも出来たからと言うのも理由だぞ。」
「そうですか・・・全く、良い事なのか悪い事なのか・・・」
テイラーはため息をつく。
「で、アレとはなんです?」
レイラが痺れを切らして再度、聞いてくる。
「ふむ。テイラーは国内に数名しか確認されていない精霊魔法師だ。」
「「「「は?」」」」
その場に居る全員が驚く。
「はぁ、私の精霊魔法は、かなり特殊ですけどね。」
「でも、王家専属魔法師には、うってつけの魔法だ。
ほれ、この城門にかけて見ろ。」
「全く・・・じゃあ、やりますよ。」
「で、アレって何です?」
レイラが三度聞く。
「単純です。私の精霊は『強化』させるだけです。」
テイラーが答える
「ん?精霊魔法なのに強化??」
「ふふん、レイラ。規模が違うのだよ、規模が。
王城丸ごと強化するのがこやつの精霊魔法でな。
どんな攻撃でも傷一つ付けることが出来ず、期間も丸3日と破格の威力だ。」
「それは・・・王家専属魔法師にふさわしいですね。」
ウィリアムが頷く。
と、テイラーは足元のレンガに手を添えて何やらブツブツ言いだす。
すぐにテイラーの周りに魔法陣が前後左右上の5か所に現れ、魔法陣が回転しだす。
中にいるテイラーは目を細め。
「ニオ来い、我との契約を果たせ。」
その言葉と共に城門周辺が眩い青色に包まれるのだった。
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