第166話 11日目 夕食後の報告会。(小銃の開発情報。)
「さて、この小銃が出来るまでの話をして、気が付いたら当面の対応方法を検討してしまいましたが。」
「うむ、そうだな。」
「で、話は戻りますが、この小銃が出来るまで550年かかりましたよね?
ここでは魔法がある為、多少開発までに多く費やすと考えられます。」
「そうだな。
しかし、わざわざお金のかかる兵器を開発するよりも魔法師部隊を増やす方が安上がりだな。
その手の兵器には予算は付けづらいだろう。」
「ええ。ですが、隣国ですら開発情報が来ていない。
と、ここで私はある懸念が生じました。」
「なんだ?」
「私と同等の知識を持った者がカトランダ帝国に居る。もしくは、天才が現れたか・・・です。」
「!?」
アズパール王達3人は口を開けて驚く。エルヴィス家の面々は頷く。
「タ・・・タケオさん、どうしてそう結論付けたのですか?」
ウィリアムが聞いてくる。
「何でもそうですが物を開発するなら実践での試し運用と言うのが必ず必要になります。
そうですね・・・身近な物を例に挙げると馬車でしょうか。」
「はい。」
「今の馬車は唐突にできたのですか?
一番最初は一人用だったのではないですか?」
「そうです。今から300年ほど前に今の4人乗り移動式馬車が出来ました。
それまでは重量や利便性の関係で数頭引きでは貨物が主で、個人の移動は2頭引きの2人乗りがメインだったと聞いています。
もっと紐解けば当初は馬引きの一人乗りの馬車だったと文献にあります。」
「物の開発は開発→実践→改良→実践→改良→実践・・・と改良を重ねて行って良い物が出来ます。
ですが、この兵器は唐突に世に出てきます。
それも戦争と言う一番実績が積めそうな場をさけて・・・おかしいでしょう?
普通なら試射のみでの実践投入なんて出来る訳ないです。」
「確かに、タケオさんのいう事は理にかなっていますね。
実践経験のない兵器を部隊運用はしないでしょうね・・・」
ウィリアムは「んー」っと悩む。
「ですが、試射のみでこの実践経験を必要としない方法はあります。」
「それはなんだ?」
「結果を知っていることです。」
「ん?どういうことだ?」
「つまりは、この小銃部隊の効率的な運用方法を元々知っていれば、小銃の性能のみ試射で知っていれば良いとなるのです。」
「なるほど、極論ではあるがそうとも言えるな。」
「ええ。ですから実践に配備される際は相当、詰められている可能性があります。」
「うむ、カトランダ帝国との戦では注意が必要だな。」
アズパール王は頷く。
「と、カトランダ帝国脅威論を展開させましたが。」
「ん?まだ何かあるのか?」
陛下が聞いてくる。
「ここからは別の考え方をしていきます。
つまり小銃の部隊運用方法を知っている者が開発したとしてですね。
なんで敵国に物があるのか・・・です。」
「・・・あれ?そう言われれば・・・」
レイラが「はて?」と頭を捻る。
アズパール王とウィリアムが動きを止めている。
「た・・・確かにおかしいな。」
「ええ。アランさん、
普通に考えてこんな運用方法をちゃんと理解すれば、初戦で圧倒的に勝てそうな兵器があったら秘匿しませんか?」
「する。
準備を万全にしてから一気に攻めるな。」
「ですよね。
ですが、試験運用も実践配備もされない内に敵国の私の元に来ているという。」
「訳がわからないですね。」
ウィリアムが悩む。
「で、ここでさらに私は仮定をしました。」
「はい。」
ウィリアムが頷く。
「その者は国の中枢にはいないのではないのか?と。」
「ん?・・・どういう事だ?」
「アランさん、準備万端で攻めるとして、相手に小銃の知識があるのとないのとではどっちが楽でしょうか?」
「ない方が楽だな。」
「ですよね。
相手がそんな兵器を持っていることがわかれば、こちらも同等の兵器もしくは対応方法の検討をするのが普通です。
実際、さっき対応方法を考えたので、電撃的な進攻は出来なくなりました。
圧倒的に勝てる事を放棄しています・・・国としてかなりの損失ではないでしょうか?
・・・なので、この開発者は政治中枢にもいないし、政治的なコネも弱いと仮定しました。」
「なるほどな。
・・・それにしても、もしこの国でこんな兵器が出回ったらうちの魔法師組合がまず潰しそうだがな。」
「え?」
アズパール王の言葉に武雄が驚く。
「なんだ?タケオ。」
「・・・潰すのですか?」
「あぁ、たぶんな。自分たちの価値を下げる可能性がある兵器を認めるとは思わないな。」
「そうか・・・魔法師が邪魔して・・・なるほど。」
「ん?タケオさん、何かわかったので?」
ウィリアムが聞いてくる。
「いえ、私は今まで、小銃の開発者は、所属するコミュニティの為に動かず、商売っ気もまったくない者と思っていたのですが・・・
アランさんの言葉で逆だったのでは・・・と。」
「ほぉ、面白いことを言うな。」
アズパール王は興味深そうに聞いてくる。
「この開発者はカトランダ帝国の為に開発を一気に進めて、売り込みをかけた。
でも、小銃を見た魔法師が脅威と感じ、組合として開発者に圧力をかけ始め、泣く泣く市場に売り払った・・・とするなら他国に存在する理由が付きます。」
「うむ、確かにそうとも考えられるな。
しかし・・・どちらにしても。」
「ええ。カトランダ帝国には兵器を見る目がないという事になりますね。」
アズパール王と武雄は二人してニヤリと笑うのだった。
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