第165話 11日目 夕食後の報告会。(小銃が出来るまでと当面の対応方法。)
エルヴィス邸がある街の少し遠めの森の中、ローブを深くかぶった二人の男が焚き火を囲んで座っている。
「さてと。
準備は、ほぼ終わりか?」
「・・・ちょっと失敗。」
「え?ここに来てか?止まらないぞ?」
「・・・街への襲撃・・・ちょっと遅れそう。」
「夜明けと共にって考えたんだがな。」
「・・・3時課の鐘辺り・・・」
「大遅刻だな。」
「・・・しょうがない。」
「まぁ移動に時間を食ったからな・・・それにここに連れてきた数も当初考えたよりも少なくなってしまった。」
「・・・しょうがない。」
「約400程度か・・・3日で良く準備したと褒めてくれるかな?」
「・・・伝えたら『十分』と。」
「そうか・・・で、威嚇に成れば良いなら戦果は求められないのだな?」
「・・・犠牲数・・・興味ないと。」
「・・・日中なら俺らが見られるのは不味いな。」
「・・・チビ使う。」
「そうか・・・じゃあ、先頭に持たせるか・・・
後は行進の合図をしたら撤収だな。」
「・・・それでいい。」
二人は焚き火を消し、闇に紛れていった。
------------------------
武雄とフレデリックが客間に入室する。
「お待たせしました。」
「ほぉ、それがショウジュウ・・・か。」
「アランさん、一応聞きますが、
王都で『小銃』とか『銃』とか聞いたことはありますか?」
「ないな。」
「確かカトランダ帝国とは隣接していて、定期的に戦争をしてるのですよね。」
「ああ。最近だと昨年に衝突はなかったが睨み合いはした・・・と記録にあったな。」
「そうですか。戦闘報告の中に『銃』に関する記述、もしくは新しい兵器の記述はありましたか?」
「さて・・・詳しくは見ていなかったが・・・なかったと思うな。」
「・・・わかりました。
では、まずこの小銃の説明をします。
これは弾丸を飛ばし、相手に当てる兵器になります。
テイラー店長の話では、カトランダ帝国製で魔法適性が無い人でも遠距離攻撃が出来る様に開発されたとのことでした。」
「しかし、一発ずつしか撃てなさそうだし、発射間隔が長いから使えそうもないな。」
アズパール王は弾丸を手に持ち眺めながら言う。
「・・・なるほど・・・」
武雄は目を細めながら陛下の言葉を聞いていた。
「ん?どうした?」
「いえ、エルヴィスさんと同じ意見なのですね。」
「そうなのか?」
「はい、私も同じ感想を言いました。」
「確かにこれ単体には、そんなに威力は無いでしょう。この鉄を飛ばすだけですので。
そうですね・・・では。アランさん達に大まかに私のいた所の銃の歴史を言いますか・・・」
と、武雄は以前した銃の歴史を語る。
・・
・
武雄は発明から小銃になるまで歴史を語った。
「なるほどな。
発明から550年かかって、やっとこの小銃になるのか・・・
それにしても4人一組で撃つ・・・か。」
「ええ、この銃を含めて欠点は発射間隔の長さです。
ならば克服する方法が考えられます。
さらにこの小銃は、携帯がしやすくなるので、それまでの待ちの戦法から少人数での作戦行動が出来る様になります。」
「なるほど・・・少数精鋭による暗殺だな。」
「暗殺・・・まぁそれも間違いではないですが・・・
一番の大きな違いは戦争形態が変わる事にあります。
今の戦争形態は騎馬と歩兵による突撃戦が主軸と考えます。」
「そうだな。だから最近の戦争は睨み合いで終わることが多いな。」
「大体どのくらいの距離で睨み合うのですか?」
「そうだな・・・300mくらいか・・・魔法師の射程が200m前後だからな。」
「私は、この小銃の有効射程は400mと想定しています。」
「なに!?」
「今のまま睨み合えば突撃をする前に弾丸が飛んできますよ?」
「そうか・・・威力はどのくらいだ?」
「そうですね・・・フルプレートに撃ち込みましたが、大きく凹みました。
テイラー店長の見立てで魔法換算では中の上程度の威力としています。
ただ、貫通までは至っていませんから。当面の防御方法はフルプレート以上の厚さの鉄の盾を用意すれば良いと考えますね。」
「なるほど。」
アズパール王は頷く。
「と、
とりあえず、この小銃が出来るまでの歴史を言いましたが。
アランさん、おかしいと思いませんか?」
「ん?・・・何がだ?」
「この弾丸・・・工業製品なんです。
そしてこの小銃への進化は私の所で550年かかっています。」
「ふむ・・・情報か。」
「ええ、王都に全くその開発情報が来ていないのが不思議です。」
「確かにな。」
アズパール王とウィリアムが頷く。
「小銃を過大評価も過小評価もしてはいけません。
要は魔法が使えない人の飛び道具でしかありません。」
「うむ、大量に出回れば脅威だな。」
「ええ。騎馬や歩兵軍団と同数の魔法師軍団・・・どちらが勝ちそうでしょう?」
「魔法師だな。」
「その理由は?」
「射程が長いから突撃してきた相手と衝突する前に当てられるからだな。」
「と、すると、これまでの戦法が効かない可能性があります。」
「そうだな・・・タケオだったらどう対応する?」
「そうですね・・・鉄の盾を横一列か二列で並べてジリジリと近づいて最後は突撃でしょうか?
あとは、この弾丸は工業製品という事であれば、補給が必要になります。
なので後方から来る補給部隊を徹底的に叩く・・・が、負けない戦い方だと思います。」
「そうなるか・・・有効な手立ては他にあるか?」
「時間があるならば魔法師の数を増やしておいて、撃ち合いを仕掛けるか・・・ですかね?
向こうは補給が間に合わない。こちらは交代で体力の回復を行う程度で済む。
時間はかかりますが、同じ疲弊戦を覚悟するなら犠牲は少ないかと。」
「ふむ。タケオの基本は補給の困難さを徹底的につくことにあるのだな。」
「ええ。戦の専門ではないので、持久戦以外での損耗率を低く抑えて戦う方法がわかりませんね。
向こうが疲弊してくれれば、勝手に講和してくるでしょう。
後は文官達の外交が主戦場ですので、その辺は国同士で考えれば良いでしょう。」
「そうだな。」
アズパール王とウィリアムは頷くのだった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。