第156話 夕飯までの雑談。(今までの事。)
武雄はエルヴィスさんとの出会いから屋敷に到着し自己紹介を行ったところまで語っていた。
「なるほどな。・・・それにしても・・・そのお菓子は、どんななのだ?」
「アランさん・・・お菓子が気になりますか?」
「ああ。今、3個新しい物を食べたからな。そのお菓子が気になるな。
タケオ、そのお菓子は作れないのか?」
「難しいですね。原材料が売っていませんでしたし、調味料もありませんので。」
「ちなみに何という原料なのだ?王都ではあるかも知れないが。」
「米とかライスと言われていましたが・・・わかりますか?」
「んー・・・聞いたことないな。」
「そうですか・・・まあその内、探してみようかと思います。
もしかしたら流通がしていないだけかもしれませんから。」
「ん?どういうことなのです?」
レイラが聞いてくる。
「いや、飼料に使われているかもしれませんので。」
「飼料を食材にするのですか?人間が?」
ウィリアムが聞いてくる。
「ん?・・・あぁ、ちょっと認識が偏っていますね。」
武雄がウィリアムに説明を始める。
「例えば・・・そうですね。
このエルヴィス領は山の地方ですので、魚は干物のイメージですが、海がある地方では魚は生か焼いて食するイメージになります。」
「え・・・ええ、そうです。」
「私にとっては飼料か食材かの差は、その程度なのですが?」
「えーっと、わかりません。」
ウィリアムが「どういうことでしょう」と言う顔をする。
「つまりですね、国が違えば主食が違います。
普通の国では、家畜の餌になるのは主食以外の穀物がメインになると考えられます。
そしてお菓子は、だいたいその国の主食が用いられます。
早く言えば原材料が豊富だから作りやすいのです。」
「うむ、その通りだな。」
アズパール王が頷く。
「私がいた所では、小麦が主食ではなく米が主食だったので米のお菓子が増えていっただけです。
対してここでは小麦が主食ですので小麦のシフォンケーキ系が多く見られます。
ですので、家畜の餌かどうかは気にしていません。
それに家畜の餌と馬鹿にしてはいけませんよ?
私が知っている中ではトウモロコシやジャガイモが主食の所もありますからね?」
「え?・・・そうなのですか?
その地方では、小麦は無いのですか?」
アリスが聞いてくる。
「はい。
この国の歴史を見れば、どこかの時点で小麦が伝えられて、皆に流行っているはずです。
小麦がない地方は、まだ小麦の存在を知らないのでしょう。
ですので、自分が食べている物が絶対と考えるのは危険です。
よその地域に行って失礼な事をしでかしますよ?
その国で一番の御馳走を出されて、こんな物しか出さないのですか?と返事をするのですか?」
「う・・・それは危ないですね。」
スミスが言う。
「ええ、ですので家畜の餌と馬鹿にしてはいけません。
まぁ確かに家畜の餌は品質は悪いですけどね。
品質が良ければ、かなり美味しい食材はまだまだ眠っていますよ?」
「そうなのですね。
タケオさん、失礼しました。」
ウィリアムは頭を下げてくる。
「ん?別に気にしていませんよ。
むしろ今気が付いて良かったではないですか。」
武雄はクスクス笑う。
「そうだな、考え方を広く持つことは大事だな。」
アズパール王は、うんうん頷く。
「では、次の話をしましょうか。」
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武雄はトレンチコートの概要を説明する。
「そのトレンチコートの概念は良いな。」
「ええ、移動時の体温低下を防ぐ事を目的とした服は新しいですね。」
アズパール王とウィリアムが頷く。
「主と私の物があるので持って参ります。」
と、フレデリックが退出していく。
「タケオさんは、なぜ作ろうと思ったのです?」
レイラが質問してくる。
「単純なのですが、丈夫で暖かい物は兵士用のコートだと思ったので見せてもらったのですが・・・
ポンチョは・・・私の中でありませんでしたね。
なので、作りました。」
「ポンチョは、そんなにダメでしたか?」
「性能の良し悪しの前に着た格好が・・・カッコ良くないと思いました。」
「そうなのか?我はそこまでカッコ悪いとは思わないが?」
「いや、こればっかりは感性ですから・・・私の個人的な感想です。」
武雄は苦笑する。
と、フレデリックが戻って来る。
「こちらになります。」
と、エルヴィス爺さんとフレデリックのをレイラに渡す。
3人は立って羽織り、姿見で確認したり、ベルトをしたり外したり、生地を触ったりもしている。
「ほぉ、意外といいな。」
「これは動きやすいですね。」
「女性でも着れそうですね。」
3人とも違和感は無い様だ。
「うむ、これは少し動くと暑いな。」
アズパール王は感想を言う。
「コートの中の空気を自分の熱で暖めて、外に出しづらくする仕様ですから。
と、少しボタンを外しましょうか。」
武雄は、胸元や袖口のボタンやベルトを外し、外気を入れる。
「おぉ、なるほど。調節が利くのだな。」
「ええ。で、外したベルトは。」
ベルトを後ろでワンテールに結ぶ。
「こうすれば、そこまで動きに影響はないでしょう。」
右を向き、左を向き、軽く動く。
「確かにあまり気にならないな。」
「ええ、気になりませんね。」
レイラも羽織っていたが、アリスがレイラのベルトを後ろで片リボンに結んでいた。
「おや?」
「頑張って覚えました。」
アリスは得意げな顔で言ってくる。
「さすがですね。
アリスお嬢様、上手ですよ。」
武雄は頷きながら朗らかに言う。
「うむ。エルヴィス伯爵、これをくれないか?」
アズパール王は気に入った様でそんなことを言ってくる。
「え?」
エルヴィス爺さんは、いきなり言われて困った様な顔をする。
「何を言っているのですか?
あげませんよ?それはエルヴィスさんとフレデリックさんのです。
欲しいなら買えば良いでしょう?」
武雄は冷静に突っ込みをする。
「う・・・そうだな。
エルヴィス伯爵、すまなかったな。」
「いや・・タケオ、わしは別に」
「このコートは市販用ではなくオーダーメイドのコートですよ?
折角、この街に来ているのですから、採寸してピッタリなのを作った方が良いですよ。」
「それは・・・そうだが・・・」
エルヴィス爺さんは困り顔だ。
「タケオ、すぐ作れると思うか?」
アズパール王は聞いてくる。
「どうでしょう?2、3日はかかりそうですが・・・聞いてみないとわかりませんね。
私やアリスお嬢様のは、試作という事もあったので3日はかかりましたが・・・
そうですね、市販用をベースにして生地を良くすれば、もう少し早くなるのではないでしょうか?」
「そうなのか・・・んー・・・」
アズパール王は悩む。
「今すぐと言うなら、少しお金はかかるかもしれませんが、採寸するオーダーメイドは後日送付で今は市販用を融通してもらうのも手ですかね?」
「それは良い考えだな。」
「じゃあ、夕飯前に作りに行ってしまいましょう。」
「「「え!?」」」
エルヴィス爺さんとアリスとスミスが驚く。
「なんです?」
武雄は目を細めながら言う。
「そうだな、行くとするか。」
アズパール王も乗り気だ。
「じゃあ、ウィリアム、私達も行きましょうか。」
「そうだね。」
と、3人とも行く気だ。
「はぁ・・・お爺さま・・・私も行ってきます。」
アリスはため息をつきながら席を立つ。
「うむ・・・アリス、頼むぞ。」
「ん?アリスお嬢様も行きますか?」
「はい。3人をタケオ様だけでエスコートは難しいでしょうから。」
「アリスお嬢様、ありがとうございます。」
「いえいえ。
と、レイラお姉様方、玄関でお待ちください。
私とタケオ様はコートを持ってきますので。」
「はい、わかりました。」
5人は客間を出ていくのだった。
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