第151話 王都からの客人。
時間的には少しさかのぼる。昼前の事・・・
エルヴィス伯爵邸の玄関に1台の馬車が停まり、一人の女性が降りてきた。
「着きましたねぇ。皆、元気かなぁ?」
次いで、二人の男が降りる。
「やっと着いたね。」
「疲れたな。
本当に4日で着くとは・・・強行日程にもほどがあるな。」
「父上、そうでもしないとここまでこれなかったでしょう?」
「そうだな。」
それを出迎えたのはフレデリックである。
「ようこそお越しくださいました。
陛下、第3皇子殿下、第3皇子妃レイラ様。」
「急に来てすまなかったな。」
「お世話になります。」
「ええ、フレデリックも元気そうね。」
3人とも笑顔で返した。
フレデリックは、笑顔で頷き、扉を開ける。
玄関で出迎えたのはスミスだった。
「ようこそお越しくださいました。
陛下、第3皇子殿下、第3皇子妃レイラ様。」
「ん、エルヴィス家次期当主スミスだな。久しいな。
出迎えご苦労、よろしく頼む。」
アズパール王の返答にウィリアムとレイラが頷く。
「祖父は、客間でお待ちです。」
ここまで定型文。
「陛下、第3皇子殿下、いらっしゃいませ。
レイラお姉様、おかえりなさい。」
「うむ、世話になる。」
「出迎えありがとう。」
「ただいまスミス。
2年前より大きくなってぇ!!随分大人っぽくなったわ!」
と、感激し、少し涙を浮かべていた。
「お爺さま達は客間で待っています。」
「わかったわ。
お義父さま、ウィリアム。さ、行きましょう。」
フレデリックが客間の扉をノックし、中から「どうぞ。」と許可が下りるのを確認し扉を開ける。
「失礼します。陛下、第3皇子殿下、第3皇子妃レイラ様がお越しになりました。」
「うむ、お通しせよ。」
3人が入室する。
エルヴィス爺さんは、起立して出迎えた。
「失礼。エルヴィス伯爵、参ったぞ。」
「はっ!陛下。
この度は、我が家にお越しいただき誠にありがたく思います。」
「エルヴィス伯爵、久しいな。」
「はっ!第3皇子殿下、お久しゅうございます。」
「2年ぶりですね。」
「はっ!第3皇子妃レイラ様におかれましてはご機嫌麗しく存じ上げます。」
「ええ。」
と、ここまで定型文。
「・・・改めまして、お爺さま、ただいま戻りました。」
「レイラおかえり。
陛下、殿下、いらっしゃいませ。」
「うむ、すまんな。いきなり来て。」
「お世話になります。」
「うむ・・・まずは、お座りになってゆっくりとなさってください。」
3人はエルヴィス爺さんの言葉で各々座る。
「失礼します。」とスミスも入室してきて席に座る。
フレデリックがお茶を入れ、皆の前に置き、皆から少し後ろに下がる。
「陛下。この度は、どうされたのですか?」
「ん?いや、お主の所の末の孫娘が婚約したと聞いてな。」
「喋っちゃいました。」
レイラは悪びれなく言う。
「レイラ・・・アリスは良いとして・・・タケオは平民なのじゃが・・・」
エルヴィス爺さんがガックリとする。
「ん?いやいや、我は何も怒っておらぬぞ?
その・・・タケオだったか・・・処罰も無い。
なに、ただの王家の紋章付の指輪だ。問題ない。
一応、名目としては『2年前のアリスの功績の副賞』として授与したと目録に書き加えておいたぞ。」
「真ですか・・・寛大な処置に安堵しております。」
エルヴィス爺さんはアズパール王に頭を下げて感謝する。
「エルヴィス伯爵がそこまで擁護するとは・・・そんなに優秀ですか?」
ウィリアムが聞いてくる。
「・・・優秀です・・・が・・・」
エルヴィス爺さんはなんて言おうか迷う。
「ん?微妙なのか?」
「いえ、わしも家令長のフレデリックも料理長も優秀であることは認めています。」
「え?3人が揃って認めているのですか?」
レイラは驚く。1人ぐらい反対意見が出るはずなのだが。
「そうなのか?」
アズパール王はフレデリックを見る。
「はっ!間違いなく。
エルヴィス家に従事する我々全員がタケオ様においては優秀と答えると思います。」
「そんなにか・・・ん?文官、武官問わずか?」
「はっ!
少なくとも武官トップであるエルヴィス家騎士団長と兵士長以下全小隊長が認めております。
また、文官では私を含め幹部は全員優秀と認めております。」
「え・・・お爺さま・・・タケオさんは、どんな方なのです?
普通、どんなに優秀でも武官、文官双方から認められないと思いますが。」
「うむ、優秀じゃ・・・じゃが・・・説明が難しいのじゃ。」
「・・・出自か?」
「はい。我々からすれば奇想天外な話です。
・・・こことは別の世界から来た・・・と。」
「眉唾だな。」
「ええ、本人も自覚しています。
『でしょうね』と簡単に言いのけています。」
「逆に信ぴょう性があるな。」
「はい。・・・まぁ後ほどタケオより説明させます。」
「そんなタケオを近くに置いたか・・・
かなり信頼がおけるのだな。」
「はい、良い人間です。
人情に厚いし、義理堅く、戦略、戦術も分かります。」
「好物件だな。」
「ですが、私欲が低いので自身を低くみる傾向があります。」
「・・・ふむ、それはまた扱いが難しいな。」
「はい・・・陛下。
先に言っておきますが、王都への引き抜きの話はなしでお願いします。」
「ん?そんなに優秀か?我が欲しがるほどに?」
「絶対に欲しがりますね。」
「んー・・・言ってしまうかもしれないな。
言った場合どうなると思う?」
「家出しますね、タケオは。」
エルヴィス爺さんの言葉にスミスとフレデリックが頷く。
「は?なんじゃそりゃ?」
アズパール王は斜め上の回答に変な言葉を使う。
「ほとぼりが冷めるまでどこかに姿をくらますと予想します。」
「・・・義理堅いのなら・・・エルヴィス家を脅しに使うと王都にくるか?」
「それも止めた方が良いでしょう。」
「ん?そうか?」
「ええ。
・・・良い機会だ。スミス、お主の考えを言ってみなさい。」
「え!?・・・はい。」
いきなり話を振られてスミスは驚くが真剣な表情で話し出す。
「では。
タケオ様の今までのお話を踏まえて思考するのであれば、たぶんエルヴィス家を盾にしても王都への出向は実現しません。」
「ほぉ、どうしてだ?」
「たぶんですが・・・タケオ様なら脅迫されたと考えるのではないでしょうか?」
「そうじゃの。」
「タケオ様の自己分析では、思い込みをしやすいので極端だと仰っていました。
そして恩ある人には徹底的に甘いが、敵と思うと徹底的に敵対しますとも。」
「・・・それは危険だな。」
「はい。わしもスミスの考えと同じです。
王都には行かず王家と敵対すると考えます。
優秀な人材が領地より出ていく事は不利益です。」
「・・・わかった。引き抜き工作はしないと約束しよう。」
「はっ!ありがとうございます。」
「そろそろ、アリスお嬢様とタケオ様がお戻りになりそうですので私は一端、失礼いたします。」
「うむ、そうか。
・・・ちなみに陛下、どういう体でこの屋敷に留まりますか?」
「お爺さま、アリスとタケオさんには、我々の事は何も言ってないのでしょうか?」
「ああ、問題ない。屋敷の者は全員知っているが、アリスとタケオには話しておらんの。」
「会った瞬間、アリスにはバレるだろうな。」
「そうですね。3年前にお会いしていますし。」
「・・・レイラ、任せる。」
「お義父さま、こっちに投げましたね?」
「この旅の全権はレイラが持っているからな。」
「はいはい。
お爺さま、ちなみにタケオさんは私の事は何を知っていますか?」
「・・・たぶん、アリスの姉ぐらいの認識じゃろうの。」
「ふーん・・・面白いですね。」
レイラはクスクス笑う。
「お義父さま、ウィリアム・・・たまには『さん』で呼ばれたくありません?」
「ん?・・・ほぉ、良さそうだな。」
「僕もそれで構わないよ。」
「お爺さま、決まりました。
陛下、殿下、様は禁止で。」
レイラは笑顔で言う。
「よろしいのですか?陛下。」
「プライベートだから問題ないぞ。」
「はぁ・・・タケオ・・・上手く乗り切ってくれ・・・」
エルヴィス爺さんがガックリと肩を落とすのだった。
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