第150話 仕立て屋で新商品開発。
と、仮縫いが終わった様でダウンベストを店員が持ってくる。
「これは羽毛を入れていますか?」
「はい。」
武雄は服を軽く挟んでみると随分羽毛が下がってきてしまっていた。
「胸の下とお腹の上に大きい間隔で良いので横に縫ってください。
そうすることで羽毛が下に行くのを防げると思います。」
「はい。」
その場で羽毛を均一にしてから仮縫いをする。
再度持ち上げてみると羽毛は下がらずに胸、腹、腰の部分にちゃんと留まっている。
「良い出来ですね。細部についてはお任せします。
サイドポケットや胸にポケット等の配置は着る人によって違うと思いますから。」
「なるほど。
先程キタミザト様は『父の日』と仰いましたが、違う名前でも良いのでしょうか?」
「もちろん構いませんよ。
私が想像したのは、小さいお子さんがお父さんに向けて『いつもありがとう』と言ってラッピングされたダウンベストを渡す光景です。」
「それは・・・ええ、良い光景ですね。」
店内にいる皆が想像した様で朗らかな笑顔になっていた。
「あ・・・」
「タケオ様、どうかされました?」
唐突に言葉を発したが、直ぐに何やら考え始めた武雄にアリスは声をかける。
「・・・いえ。
店長、父の日の名称を変えるかもと言うのは何かあるのですか?」
「ええ、戦が度々起きていますので片親の家族も少なからずいるので。」
「やはり・・・そうですか・・・
父の日では、思い出してしまうかもしれませんね。」
武雄は難しい顔をする。
「なら『勤労感謝の日』とかですかね。」
「勤労・・・ですか?」
「働いている人達全員が対象ならと思いましたが。」
「なるほど、それは良いですね。」
「・・・それとダウンベストだけではなく、ダウンジャケットも作るべきかもしれませんね。
何なら袖部分は脱着式にしても良いですし。」
「なるほど、それも良いですね。」
「ダウンベストとダウンジャケットの2種類を作ってみましょうか。
S・M・L・LL方式で。」
「わかりました。
では、こちらも契約書にさせていただきます。」
武雄は心の中では「別に良いのに・・・」と思うが、店側が他から売り出されるのを阻止したいのだとも思い承諾することにする。
「・・・わかりました。契約内容は前回と同様で構いませんが。」
「なんでしょうか。」
「今回は発想だけですので、報酬は1割で良いです。」
「・・・よろしいのですか?」
「ええ、一般向けならそんなには高くできないでしょうし。
それにデザインは、たぶんいろいろと出てきますからどこまでが適用されるか。」
「ダウンジャケット、ダウンベストの名を冠した物はキタミザト様への報酬対象ですね。
類似品が出回ったら我々が黙っていませんよ。」
「なるほど、わかりました。・・・それで構いません。」
「では、また契約書ができましたらフレデリックさんに持参いたします。」
「はい。
・・・と、そうだ。」
「なんでしょう?」
「女性も着れる様に明るい色も作ってみると良いかも知れませんね。
好きな男性と同じ物を着れるとなると売れるかも知れませんよ?」
「なるほど・・・わかりました。」
「製品になったら買いに来ます。」
「え?試作段階では来られないのですか?」
「ええ。今回は店長達がどんなのを作るのか楽しみにしています。
綿の量とか、ポケットとか襟とか・・・何も私は言いません。
もし思う所があったら発売してから提案しにきますが・・・まぁ平気でしょう。
デザイナーの真骨頂を見せて貰います。
では、よろしくお願いします。」
と武雄は席を立ち、アリスと共に店を出るのだった。
二人の後ろ姿をラルフは、ため息交じりに見つめているのだった。
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武雄とアリスは、もうすぐエルヴィス邸に着くところまで来ていた。
「結局、お昼は食べませんでしたね。」
アリスは紙袋を見ながら言う。
「そうでしたね。
何だかトントン拍子で決まってしまって食べる時間がありませんでしたね。」
「はい。」
「屋敷に戻ったら食べましょうか。
私が一端、厨房に行って温めてきます。
あ、前に出したタマゴサンドも作りましょうか?」
「ホントですか!?やった!」
「卵に余りがあったらですけどね?」
「はい!期待します。」
アリスは嬉しそうに顔を輝かせる。
そんなアリスを見て武雄も笑顔を返すのだった。
「でも、また服を作るのですね?」
「ええ、簡単に羽織れて保温性が良いのを思いつきましたからね。
実はコートより軽いのですよ。」
「そうなのですか。」
「ええ、なので乗馬に最適かもしれませんね。
それに市販された後にデザインを少し凝ってもらってエルヴィス家専用ダウンベストを作ってもらおうかと思っているので。」
「なんでです?」
「これから寒くなるかもしれませんから。
屋敷で働いている方々用にお揃いで作ったら見栄えも良いかと。
皆、喜んでくれたらいいのですが・・・」
「平気ですよ。皆、喜ぶと思います。」
「とりあえず、市販されるのを待っていましょうね。」
二人は笑顔で会話しながら帰宅するのだった。
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