第143話 明日の夕飯会議。
フレデリックはエルヴィス爺さんとアリスを残し、客間から厨房に来ていた。
スミスはハロルドの所に向かう為、外出中。
「白熱していますね。」
厨房に入るなりフレデリックは一言感想を言う。
「おぉ、フレデリック。明日の生クリームの夕飯が決まらなくてな。」
「そうなのですか?」
フレデリックは武雄を見る。
「はい。昨日試食したカルボナーラやスープパスタと言ったパスタ系とか。
濃厚にしてオーブンで焼き上げるグラタン系とか。
シチューを濃厚にする為に牛乳と半々にするといった事をあげたのですが。」
「どれも美味しそうですが?」
「はい。どれもメインが張れるのでしょうが・・・」
「一品だけではなぁ・・・」
料理長やメイン担当が難しい顔をする。
「そんな感じで、どれを作るかで迷っているのです。」
「なるほど。」
「ちなみに明日の夕飯のデザートは「ショートケーキ」もどきと決めています。」
「ほぉ、どんなものでしょう?」
「さっき、スイーツ担当と話をしたのですが。
生クリームのホイップクリームをシフォンケーキの上に満遍なくぬって、干しイチゴをトッピングすることに決めました。」
「ほぉほぉ。」
「ふわふわの甘味の中にイチゴの酸味が合うと思うのです。」
「なるほど、良さそうですね。」
「はい。・・・で、一番にスイーツが決まったのですが。」
武雄は、そこで「んー・・・」と悩みだす。
「食後が甘い物と言うことは、あまり夕飯をこってりし過ぎてもいけないのではないか?と思ってな。」
料理長が懸案事項を言葉にする。
「なるほど、それは言えますね。」
「生クリームは簡単に言うと濃縮牛乳と思えば良いのですが・・・
夕飯に2品も使ってしまうとその後のデザートと濃い味が続いてしまうのです。」
「かと言って、折角の生クリームを1品だけというのは寂しいしなぁ。」
「難しいですね。」
フレデリックも悩む。
・・
・
「カルボナーラと生クリームと牛乳の野菜スープを通常よりも少なめにというのは?」
「うむ、それもいいなぁ。
なら、ワザとサラダをレモン汁でアッサリとさせるか。」
「アッサリ系だとキュウリと玉ねぎスライスを軽くレモン汁に浸けるくらいが丁度良いでしょうね。」
サラダ担当が提案してくる。
「そうだな、野菜もスープの方で取れるから問題なさそうだし。
カルボナーラが丁度、濃いメインになりそうだな。
・・・では、明日はカルボナーラと牛乳の野菜スープとキュウリのサラダにする。」
「「はい。」」
皆が席を立ち各々の仕事に戻っていく。
「それはそうと、タケオ様にジョージ。」
「はい。」
「なんだ?」
二人はフレデリックに近寄る。
「先ほどのお菓子ですが。」
「ダメでしたか?」
武雄は恐る恐る聞いてくる。
「いいえ、大好評でしたよ。
丁度お三方が居ましたので、食べて貰いました。
『これでは少ないからもっと作ってくれ』と駄々をこねていましたね。」
「なるほど、それは良かったです。
一人一つか二つが良いのでしょうね。
もう少し食べたいと思わせるくらいが適量でしょう。」
「そうだな、2つにする場合は、もう少し小ぶりが良いのだろうな。」
「はい、今度そのぐらいに調整してもらいましょう。
生クリームよりバターの方が入手は出来やすそうですから、お客様に出して反応を見るのもありですね。」
「ええ、その方針で良いと思います。
とりあえず、明日の昼食後のお菓子もこれにするようにとの厳命をしていましたよ。」
「だそうです、料理長。」
「わかった。生クリームを入手したら、明日はバターも購入しておく。」
「ええ、それで構いません。」
「と、決めることは決め終わったな。」
「はい、明日はお願いします。」
「ジョージ、明日はお願いしますね。」
「ふぁ・・・夕飯の支度までまだ時間はありそうなので、少し書斎で寝てきます。
支度が始まったら起きてくる予定ですが、寝てたらすみませんが起こして貰えるでしょうか?」
「構いませんよ。」
「お願いします。」
と武雄は二人を残し、自室に戻っていった。
・・
・
「ジョージ、明日のことなのですが。」
「あぁ、レイラお嬢様と他2名か。」
「はい、その件は。」
「大丈夫だ。アリスお嬢様とタケオには言っていない。
ここに居る者も承知している。
なので、明日、明後日は食材の量も多くしているし、卵はプリンを2回作っても良いような量を仕入れる予定だ。」
「さすがです。たぶん明日も卵を大量に使うと思います。」
「そうだな。それにしてもタケオの考案する料理は卵を使う物が多いな。」
「そうですね。ご自身でも言っていましたが、タケオ様が居た地域は卵の価格がここの1/5だそうです。」
「なに!?そうか・・・だったら、あの卵料理の多さも納得だな。
このレシピが広まると卵の需要が高まりそうだ。」
「はい。タケオ様の発案で文官達に村の発展構想を考える様に指示しています。」
「なるほど。村が豊かになれば、いろいろ余剰生産されるのだな。」
「すぐに・・・とはいかないでしょうが、上手くいけば鶏肉と卵と野菜の価格を下げれると思います。」
「それは良い事だな。
タケオのおかげでエルヴィス家の食事のレシピが倍増する勢いだ。」
「ほぉ、そんなにですか?」
「卵料理や今日の夕飯にだす出汁、スイーツ・・・
タケオは自分の知っている料理だけでなく我々にも考えさすからな・・・うちの各担当者たちは毎晩泣いているよ。
俺は料理人として腕を上げたつもりだが、発想の大切さを今は噛みしめているよ。」
「・・・ジョージ、楽しそうですね。」
「あぁ、楽しいぞ。
この国のレシピは、ほとんど知っている気でいたが、この歳になって、こんなに新しいレシピに会えるとは奇跡だ。
そういうフレデリックも楽しそうだな。」
「ええ。タケオ様のおかげで新しい知識、街の発展構想とか目新しい考え方を知りましてね。
財務や領地運営を通してこんなにワクワクするのは、久しぶりですね。」
老兵二人は楽しそうに語るのだった。
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