第138話 一日の終わりに。
今日も「さて寝るかの」とエルヴィス爺さんの言葉と共に皆が客間を出ていき、武雄とアリスも寝室に戻って来ている。
武雄は、お風呂の準備をしアリスを入れて今は、アリスの髪を軽く乾かしている。
「アリスお嬢様、今日も一日お疲れ様でした。」
「タケオ様こそ、お疲れ様でした。」
アリスは気分も良さそうに明るく答えてくる。
「それにしてもスミス坊っちゃんとハロルドの対決は良く飛び出さなかったですね。
隣にいて、いつ飛び出すかとヒヤヒヤしましたよ?」
武雄はクスクス笑う。
「・・・飛び出さないように私の手を握っていた癖に・・・」
アリスはジト目で抗議する。
武雄達は、スミスが詰め所横のグランドに着く前に、裏の小道を使いスミスより早く来て、茂みに潜みやり取りを見ていた。
「そうでしたね。でも、アリスお嬢様だって私が小銃を構えたら止めたじゃないですか?」
「開始早々打ち込もうとするとは思いませんでしたから、慌てましたよ。」
「開始の合図と共に第三者からの攻撃で負傷・・・面白くありませんか?」
武雄はクスクス笑う。
「面白くは・・・ありますが、スミスの為にはならないでしょう??」
「確かにそうなのですけど・・・
でも、相手のスキを伺うのは、今回は難しいと思っていましたから。」
「そうですね。スキは普通だったら時間が経っていないと・・・
お互いの力がある程度拮抗している場合でしょうね。」
「そうですよね・・・弱い者が強い者と戦って時間を稼ぐ・・・無理でしょう。
強い方が手を抜いたら可能でしょうけど。」
「今回は後者でしたね。」
「ええ。スミス坊っちゃんの攻撃を7回目まで様子見をしていましたね。
8回目で前よりも強く払ったので、ここだと思って撃ち込みましたが、結果的には良かったみたいですね。」
「そうですね。スミスはタケオ様の助太刀がわからなかったみたいですね。」
「吹き飛ばされてハロルドを見たら目線が違う所を見ていたから勝負した・・・がむしゃらに踏み込んだのでしょうね。」
「行け!と心の中で叫びましたよ。」
「なるほど。」
武雄は、にこやかにアリスの話を聞くのだった。
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「それはそうと、タケオ様。」
「なんですか?」
「私がお風呂に入っている間、何をしているのですか?」
「・・・如何わしい事は何もしていませんよ?」
武雄は痛くもない腹を探られる気分になっていた。
「・・・そうですか?」
アリスは顔も向けずに聞いてくる。
・・・武雄は考える・・・わからない・・・
「・・・何かありましたか?」
「いえ。単純にいつも書斎で何をしているのかなぁ?と。」
武雄はホッとした。
「何か行動で気に障ることがあったのかとヒヤヒヤしました。」
「ん?タケオ様は私が不快になる様な事をしているのですか?」
「いいえ。していませんね。」
武雄は「考えているだけです」と心の中で思った。
「・・・ナニを考えているのですか?」
「いえ、別に?」
「・・・言ってください。」
「いや、覗きに行こうかなぁと。」
「来たのですか!?」
アリスは武雄を見る。
「未遂です。無実です。」
武雄はクスクス笑いながら言う。
「むぅ・・・来ちゃダメですよ?」
アリスは正面に向きなおし、念を押してくる。
「はいはい。
あとでベッドの中で堪能しますから。」
「むぅ・・・それならば・・・良いのでしょうか?」
アリスは「はて?」という顔をする。
「で、何でしたっけ?
私が書斎で何をしているのか、ですね?」
「はい。いつもノートに何か書いているので。」
「あぁ、覚えている知識を書いているのですよ。」
「え!?」
アリスは武雄の方を向く。
「ん?どうしました?」
「どうしてですか?」
「え?こちらに来て9日。知識があやふやになる前に書き出しておこうと思ってですね。
とりあえず、殴り書きの様に思いつく物を書いています。
その内、種類ごとにまとめますよ。」
「それは家宝ですね。」
「こんな物がですか?」
武雄がクスクス笑う。
「タケオ様はご自身の知識が飛びぬけていると思わないのですか?」
「特には。」
「はぁ・・・良いですか?タケオ様。
タケオ様が持っている知識、発想は私達からすればずば抜けています。」
「んー・・・そうでしょうか?」
「そうです。服に料理に兵器・・・どれをとっても真新しい考えです。
なので、もっと自分の知識を誇ってください。」
「・・・まぁそれは良いとして。」
「良くありません。」
「家宝・・・ですか?
んー・・・何だか私が偉くなってしまった感じなので、考えないでおきましょうかね。
私にとっては、この知識でアリスお嬢様が笑顔になってくれれば良いので。」
「う・・・また、そういうことを言う。」
アリスは、少し顔を赤らめて抗議してくる。
「ふふ、可愛いですね~。
さ、軽く乾かしましたから私はお風呂にいってきますね。」
武雄はアリスから離れ、風呂場に向かう。
「はい、ごゆっくり~。」
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